インバウンド特集レポート
ショッピングにアウトレットモールの事例
今年の4月、三菱地所・サイモンは、静岡県御殿場市の「御殿場プレミアム・アウトレット」に、訪日観光客向けサービスとして「ウェルカムセンター」を開設した。
訪日観光客を対象に、言語対応の充実や、ショッピングだけでなく幅広い観光案内などを行う。
外貨自動両替機の新規導入や無料公衆無線LANの追加設置などハード面での拡充も図っている。
周辺には、世界文化遺産に登録された富士山や箱根もあるため、魅力あるショッピング・スポットを目指している。
芸能事務所が観光案内所に進出
昨年12月、東京・原宿に、もしもしにっぽん「MOSHI MOSHI BOX」という名称で、観光案内所が開設された。
きゃりーぱみゅぱみゅが所属するアソビシステム株式会社が施設をプロデュースして、渋谷区観光協会が案内業務の運営をする。
観光案内所では、日本のカルチャーや商品を紹介し、実際に購入できる施設だ。さらに、今後は海外にも「MOSHI MOSHI BOX」をオープンさせ、日本のコンテンツを届ける。さらに訪日観光のきっかけをつくることを目指すという。
もしもしにっぽんプロジェクトは、観光案内所のほか、テレビ番組できゃりーぱみゅぱみゅが日本の文化を紹介。もしもしにっぽんフェスティバルで、国内だけではなく、海外の主要都市で開催予定。さらにwebサイトで外国人向けの観光や生活、ポップカルチャーの情報を発信する。
この大きな枠組みの一角を原宿観光案内所は担っている。戦略的拠点なのだ。
角の壁には、世界時計をモチーフにしたカラフルなモニュメントがあり、観光客が記念撮影をする。増田セバスチャンが制作した。
ゲストハウスのスタッフの士気を高める狙いで登録
金沢にあるゲストハウス、国際式豊かなPongyiでは、観光案内所の「パートナー」のカテゴリーに登録している。
ここに足を運ぶゲストの内、6割が外国人。欧米からはもちろん最近ではタイ・台湾からが増えている。当初はスタッフ3人のうち英語が話せるのは1人のみ。そんな中、自分たちにできる事を考えた。パートナー施設への登録は外国人受け入れへのスキルアップへの起爆剤になると考え、士気を高めるためにも登録を決意。公式案内施設となることで、外国人に喜んでもらえる観光案内の質を上げることに繋がったという。ゲストハウスながらもJNTOの公式施設となることで、パンフレットの配給や、メールでの連絡網など、観光案内機能を高めてくれるバックアップを受ける事ができるという。
宿泊数は一日に10人程という小さいお宿ならでは。一人一人に目を配れるためゲストと近い距離で接することができるのも魅力。
また「顔の見える案内」も強みである。金沢市は横のつながりを大事にし、Pongyiでゲストに紹介する先も親しくしているところが主である。友人のところへ案内するような近所同士の案内ができるというのも、地域に根付いているゲストハウスならではの観光案内と言えるのではないだろうか。
土産店が併設され、物販にも波及する
<湘南FUJISAWAコンシェルジュの事例>
江ノ電沿線地域の観光情報を紹介している湘南FUJISAWAコンシェルジュ。
観光客が自ら目当ての情報を調べられるようにタブレット型端末も置いてあり、必要な部分は印刷できる。江の島内や江ノ電の各駅ごとに観光スポットをポストカードサイズに見やすくまとめた地図も用意している。また外国語ができるスタッフ(英語4人、中国語1人)を配置し、増えている外国人観光客に対応。
土産物の販売にも力を入れ、約150品目に及ぶ藤沢や鎌倉の名産品、江ノ電関連商品が並ぶ。今後さらに商品開発を進め、外国人旅行者にも購入してもらいたいそうだ。
運営主体は、江ノ島電鉄で、JNTOの登録をはしていない。
<北海道の道の駅で物販をすすめる>
道の駅「流氷街道網走」は北海道で105番目の道の駅である。冬限定で走る流氷観光砕氷船の発着地点であり、名前の通り駅の機能も持ち合わせている。観光施設情報をパンフレット・チラシ類、地図などで案内を提供するのはもちろん、外国人観光客に嬉しいWi-Fiやインターネット検索スペースも提供している。
JNTO認定観光案内所に登録、取り組みが集客率に反映されたと担当者。
道の駅「流氷街道網走」は2010年にJNTOの認定観光案内所に登録をした。当時は、ビジット・ジャパン案内所と言った。
登録をした当時の外国人観光客の利用者数は1,235名から徐々に数値が上がり、2013年度は3,255名へと2.8倍もの伸び率を見せる。一定のシェアを持つ中華圏からの観光客に加え、中でも強い伸びを見せるのはタイである。2010年度には利用客が通年で3名であったのに対し、2013年度には142名へと急増しているという。
増え続ける東南アジア圏の客層に対しても、音声翻訳機やアプリケーションなどを用い、アプローチしていく姿勢を固めていく。
「流氷街道網走」のように、JNTO公認の道の駅は当時は決して多くはなかったが、この成功を受けて、今年の3月に道の駅の登録が大幅に増えたといえそうだ。
公式の案内所として精力的に外国人を受け入れる体制を整える事が、集客の増加につながったことがデータを見ても明らかである。
外国人のレンタカー需要が伸びている現状で、日本人にはもちろん外国人にも、「道の駅」がより身近になってゆく。
ドライブの休憩がてら停まった先でお土産選びを楽しみ、交通や観光案内を聞く。という”ついで”の観光案内というお手軽さが、観光客にとって日常的に喜ばれること間違いない。地域の工芸品等、その土地でしか手に入らないものを英語で説明してもらえる。
呼び込む仕掛けづくり
気軽に立ち寄れる観光案内所として、長野駅にはカフェ併設がある。
隣接するカフェ「ベックスコーヒー」との壁を取り払い、観光センターとカフェを一体化した。観光地のパンフレットを読みながら、店内でコーヒーを飲むことができ、観光客が気軽に立ち寄れる仕掛けに。
宿泊予約やバス、私鉄などの切符購入をセンターで済ませることもできる。観光地のイメージ映像を流したり、特産品を展示するスペースを設けたりして、五感で信州の魅力を感じてもらう。
北陸新幹線金沢延伸となり、長野市はJR長野駅構内にある「市観光情報センター」を、県全体の観光地の魅力を発信する拠点として新装したのだ。
長野市と周辺の観光地をつなぐハブ(交通結節点)の役割を目指す。エリア全体を案内する「カテゴリー2」を取得している。
街なかの交流拠点としての案内所
東京の下町、谷中に「YANESEN」という観光案内所がある。目的は近隣の観光案内と日本文化の体験を提供する国際交流施設だ。ツアー紹介をインターネットとリアル店舗するビジネスモデル。料理教室、書道教室など、地域の文化教室に参加して地域の人々との交流を通して日本の伝統文化の精神に触れる「文化体験」のサポートを行っている。一番人気となっているのが茶道教室だという。地域を巻き込んだ国際交流のハブになっている。
カテゴリーをあげることで揺れている奈良市の観光案内所の事例
JR奈良駅旧駅舎を使った「市総合観光案内所」を、カテゴリー3への格上げを目指している。実現すれば関西では京都に次いで2例目となる。 しかし、市議会からは〝待った〟の声が相次いで、申請が遅れているようだ。
観光戦略としては一定の評価はできるものの、財政難に直面する市が喫緊に取り組む「緊急性」がどれほどあるのか、さらに人件費を含め年間5000万円以上という維持費の問題もあるという指摘だ。
昨年の議会の動きを受け、遅れたものの、申請作業は進んでいると担当者。
観光案内所の課題は、予算との折り合いだ。行政が負担して、地域に貢献しているということが必要だ。しかし財政が厳しくなるなか、そのインフラを活用してビジネスにつなげるかも肝になってくる。
カフェ自体が案内所機能を持つ
最後に、次世代型の観光案内所を紹介しておこう。そこに行けば、観光情報が集まるという意味では、案内所機能を持ち、実際に成果があがっているそうだ。
株式会社BACKPACKERS’ JAPANが運営する都内の人気宿泊施設toco.とその二号店、Nui.だ。東京の下町・蔵前にある。
「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」がコンセプトだ。
「宿泊」に加え、旅行者はもちろん誰もが気軽に利用できる「カフェ&バー」を兼ね備えている。ここでのコミュニケーションが活発だという。
旅行者同士の情報交換や東京観光の情報を求めてやってくるビジターにも情報提供をする。
ここではスタッフ達が自ら何かを紹介するという事は、取り組みとしてはしていない。情報の提供やゲストをお客様として丁寧に扱うよりも、「対等な関係で寄り添う」ことをモットーとしている。
その魅力に引き寄せられて、多くの旅行者が情報収集がてら、カフェでランチをするというビジネスモデルだ。
地元のディープな情報があり、かつ旅行者が求めているものにマッチングさせる。さらに紹介することがビジネスとして成立する。
ここのカフェは、まさに実現をしているのだ。
観光案内所をめぐる動きはまだまだ続く。銀座にも再開発によって大きな観光案内所ができるという情報もあり、今後の動きに目が離せない。
Text:此松武彦 協力:大平真由
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