インバウンド特集レポート
各地で、日本ならではの体験コンテンツが訪日客に人気となっている。前回は、東南アジアからの訪日客に人気のフルーツ狩りのツアーを受け入れている農園やツアーを催行している旅行会社の取組みを紹介した。東南アジアの人々はなぜ日本のフルーツが好きなのだろうか。また、日本フルーツの輸出の現状と課題とは?
東南アジアで日本のフルーツが人気の理由
では、なぜこれほど東南アジアで日本のフルーツが人気なのだろうか。
ベトナム国家大学ハノイ・社会人文大学の稲垣勉客員教授は「理由は品質の違いにある。たとえば、ベトナムでは地元産のリンゴもあるが、実は小さく味も薄い。ニュージーランドから輸入されているリンゴも、日本産に比べるとかなり味が落ちる。味の好みについても、日本人はフルーツの甘さと酸味などを総合的に判断するが、東南アジアではまず甘さが評価される。マンゴーなど甘みの強いフルーツに事欠かない土地柄なので、自分たちの知る地場のリンゴやイチゴなどと比べると、日本のフルーツは別物と思われている」と解説する。
実際、ベトナムの富裕層は日本のふじ(リンゴ)の味を知っていて、ハノイの高級輸入食材店では1個で20万ベトナムドン(=1000円)と、日本国内より高額でふじが売られているという。それらの店では、栃木産のイチゴや福島産のモモ、静岡産のメロンなどが高値で販売されている。多くは贈答用などで購入されるそうだ。

ハノイ市内の輸入食材店に置かれた日本のマスクメロンの広告パネル
「経済成長を続けるベトナムでは、一昔前のように日本の二級品を日本製として売りつける時代は終わっている。本物を買うことのできる層は日本製品に対してかなり正確な情報を持っていて、それが高くても手に入れたいと考えている」と稲垣教授はいう。
昨年300万人もの訪日客を送り出した東南アジア諸国では、自国では高級食材店でしか手に入らないフルーツを日本旅行のときに気軽に味わいたい、安く購入したいというニーズがあるのだ。和食の人気も高いこの地域では、インバウンド関係者による訪日客向けPRも常に日本の食とからめてきたが、それが今日のニーズを生み出していることは確かだろう。
フルーツ輸出の大半は台湾、香港
ところで、こうした東南アジアでの日本のフルーツ人気は、輸出にどれだけつながっているのだろうか。
インバウンド市場を促進させる目的は、ただ外国人観光客の数を増やし、買い物等の消費で経済効果を手に入れることだけではない。フルーツに限らないが、日本産品の海外での認知を広げ、輸出を促進することで地域の生産者を後押しすることにつながらなければ意味がない。
農林水産省によると、日本のフルーツ輸出額はここ数年増加傾向にあり、2017年(平成29年)は約181億円。輸出先としては、主要6品目(リンゴ、ぶどう、桃、梨、うんしゅうミカン、柿)の合計約173億円のうち、台湾向けが約97億円(約6割)、香港向けが約61億円(約4割)と大半を占める。品目別ではリンゴが約109億円など全体の6割だ。

日本産フルーツの国別輸出額の推移(財務省「貿易統計」を基に農水省が作成)
タイやシンガポールなどの東南アジア諸国の輸出も増える傾向にはあるが、日本のフルーツ輸出の大半は台湾と香港なのだ。まだ、台湾、香港を上回るほどの輸出額には至っていないのが現状だ。
フルーツの輸出には、生産者や流通業者の産地間、品目間の連携が進んでいないこと、輸出先国の植物検疫制度や残留農薬基準の違い、輸出品の鮮度保持、長期鮮度保持技術の開発などいくつもの課題がある。東日本大震災の原発事故にともない、福島県周辺の一定地域からの日本産農林水産物や食品の輸入規制を継続している近隣国が未だにあることも影響している。
同省では、これらの課題を克服するため、2015年に日本のフルーツの海外への魅力発信や輸出促進を目的とした日本青果物輸出促進協議会を発足させている。また主要輸出先である台湾や香港で富裕層向けにとどまらず、新たな需要を創出するべく、ニーズを逃さない周年供給体制の確立に向けた取り組みなどを始めている。
以下は、同省が進める周年供給体制の確立に向けた香港での事例だが、年間を通じて途切れることのない青果物の供給品目は、当然のことかもしれないが、前述したKNT-CTグローバルトラベルの外国客向けフルーツ狩りツアーの年間ラインナップとも重なってくる。

香港における青果物リレー出荷(販売促進活動)(日本青果物輸出促進協議会会員の活動により作成)
日本の農家は個々の経営規模が小さく、輸出につなげるまでのハードルが高いとされるが、近年は全国各地の果樹園で輸出を意識した取り組みが始まっているようだ。
(Part3に続く)
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