インバウンド特集レポート
前回は、民泊ホストが民泊を始めた経緯やその実状について紹介した。最後に、地域とゲストをつなぐ役割を果たす民泊ホストのやりがいや今後行政に望むことを聞いてみた。
民泊をやって良かったことが多い!
これまで紹介した3名の民泊ホストには、いくつかの共通点がある。たとえば、新法施行前夜に起きた「エアビーショック」についての三者のコメントはこうだ。
「予約や問い合わせがいきなり増えた。ただし、夏以降、近所に民泊物件が増えてきたので、問い合わせが減り、Airbnb以外の登録も検討中」(此松さん)
「うちは農家民宿の許可で営業しているので、特に影響はなかった。うちのゲストの中に、いきなりキャンセルされ、大変な目に遭ったという人がいました」(橋本さん)
「6月15日から自宅でも民泊を始めたら、いきなり予約が殺到した。日の出ハウスの売り上げも7~8月はほぼ倍増した」(宗華さん)

▲日の出ハウスのゲストも利用できるキッチン
影響どころか、新法が追い風になっていたのだ。彼らは民泊をやって良かったと語る点でも共通している。どんなところがそうなのか。
「カタコトの英語でもなんとかなる。自分の知らない国からゲストが来てお国事情を聞いたり、日本のことを教えたりで面白い。世界中に友達が増えるような感覚で、いつかその国を訪ねてみたいと思う」(此松さん)

▲西荻窪のシェアハウスの共有のキッチン
「家や地元、そして家族をゲストが素晴らしいと言ってくれるところに尽きる。離れて暮らしているので、地元や家族と関わりを持てるというのも大きい」(橋本さん)
「民泊を本業化したことで、家族との協業で経済的安定を手に入れられる。時間の自由、毎日決まった時間に最低8時間労働しなくても良い。子育てと家族といる時間が増え、自由に生きているという実感がある。また民泊関連での仲間が増えて、友達の計画を手伝ったり、みんなでイベントやったり、人生が楽しくなった。ゲストとのコミュニケーションも面白い。世界に友達が勝手に増えていくイメージです」(宗華さん)
以上のコメントからみえてくるのは、ホテルや旅館のようなプロの接客ではなく、ごく普通の地域住民のもてなしによるアマチュアリズムや、その場で生まれる両者の新鮮な関係性は、民泊という宿泊スタイルを選ぶゲストにとって好意的に受けとめられやすいことだ。さらに、後者のふたりに共通しているのは、「実家民泊」を始めることで、両親との新しい関係が生まれたことがとても重要だったと話していることだ。
ゲストと向き合うホストの姿勢
もっとも、彼らは現状の民泊行政に関して疑問や言いたいことはありそうだ。
「自治体や保健所の方には、もっと民泊の実態や意義について勉強していただきたいと思うことが多い。デメリットだけでなく、メリットも知ってもらいたい」(此松さん)
「自治体によって対応が違うので一概にはいえないが、民泊が地域のブランドとなり得ることを理解していただきたいです。訪日客が少ない地方の場合、インバウンドなんて自分には関係ないと思っている人が多いかもしれませんが、自分の家に外国客を呼び込めること。その可能性を行政は蔑ろにしないでサポートしてほしいと思います」(橋本さん)
「住宅宿泊事業法には一定の評価をしていますが、届出のハードルが少し高いと感じます。これから始めようとする人には、煩わしい作業だと思います。旅館業法も緩和されたとはいえ、やはりハードルが高い。住宅宿泊事業の180日制限は、従来型の旅館業の利益を守るためだと思いますが、ホテルや旅館と民泊とでは似て非なるニーズだと考えます。年中営業できるよう緩和できないか」(宗華さん)
民泊新法(住宅宿泊事業法)の施行によって日本の民泊は多様化していくだろう。当初は警戒感の強かった自治体のいわゆる「上乗せ条例」も、3年後をめどに各地で見直しが進むことも考えられる。
キッチン付きや一棟貸しなど、同じ仕様のホテルでは対応しきれないニーズが広がっており、日々ゲストと直接向き合っている民泊のホストたちは新しいスタイルを生み出していくに違いない。また企業の参入で、個人では難しいバケーションレンタル型の高級物件がもっと登場すれば、民泊のイメージも変わるだろう。その意味では、マンション一棟を民泊として使うようなやり方が、はたして訪日客に魅力的に映るかどうかは疑問もあるが、さまざまな試行錯誤を重ねていくことで日本らしい民泊が生まれていくはずだ。本稿では批判した、かつての非居住型民泊も合法化の中で新しいやり方が生まれてくるかもしれない。
これまでみてきたとおり、肝心なのは、ゲストに向き合うホストの姿勢である。企業化が進んでも、ゲストと地域をつなぐホストの存在なしでは民泊は成り立たない。生まれ変わった民泊の新しい動きを今後も注視していきたい。
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