インバウンド特集レポート
今年のラグビーワールドカップ(RWC)2019を皮切りに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年の関西ワールドマスターズゲームと、日本では3年連続で世界的なスポーツイベントが開催されます。この3年間を「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と呼ぶ動きが出ています。ここでは、訪日客が多く見込まれるゴールデン・スポーツイヤーズについて解説するとともに、この3年間を千載一遇のチャンスとして捉え、いかにインバウンド誘致へとつなげていくのかを考えていきたいと思います。
ゴールデン・スポーツイヤーズとは?
ラグビーワールドカップとオリンピック・パラリンピックは、言わずと知れた国際スポーツイベントですが、「ワールドマスターズゲーム」はご存知ない方も多いかもしれません。同大会は、30歳以上のスポーツ愛好者であれば誰でも参加できる世界最大の生涯スポーツイベントです。1985年にカナダ・トロントで初開催され、2021年の関西大会で10回目を迎えます。
このように、大規模なスポーツイベントが同一国で連続開催されるのは世界初のことで、「奇跡の3年間」とも呼ばれています。この3年間で世界の注目が日本に集中し、世界中の人々が日本を訪れるため、多大な経済効果が見込まれています。
“奇跡の3年間”をインバウンド誘致の好機と捉える
ゴールデン・スポーツイヤーズでは、各大会の開催地はもちろんのこと、それ以外の地域でもインバウンド需要を取り込む好機として捉えることができます。例えば観光庁は、みずほ総研発表の「オリンピック・パラリンピック開催決定後のインバウンド観光客数の傾向」の資料を取り上げ、開催国のインバウンド需要が長期間にわたって喚起されていることを示しました。
■オリンピック・パラリンピック開催決定後のインバウンド観光客数の傾向
(単位:百万人)
また、日本がオリンピック開催地に決定したのは2013年ですが、それ以降の訪日客数の推移をみると、近年の開催国と同様に、右肩上がりで成長していることがわかります。
日本全体がスポーツに関与する3年間
ラグビーワールドカップ2019は今年9月20日から11月2日までの期間、北海道から九州までの12都道府県で開催。東京オリンピック・パラリンピックは東京都のほか6道県・4政令指定都市での開催が決定しており、ワールドマスターズゲームは関西8府県で分散開催する予定となっています。そのため、この3年間では日本全体が「スポーツをする人」という当事者だけではなく、「スポーツを観る人」「スポーツを支える人」といった参加者として関与できることも大きなポイントです。
開催地以外でも、事前トレーニングキャンプ地の誘致を行う地方自治体が出てきています。例えば千葉県山武市は、東京オリンピック・パラリンピックに向けたスリランカ選手団の事前キャンプ地として名乗りを上げ、直接交渉をして誘致に成功しました。
海外からスポーツ選手やその家族、応援団、観戦者がキャンプ地を訪れることで、地域の文化や食、風習といった魅力を存分に伝えることができますし、それを機に観光地化や地域の活性化、国際交流、多文化共生などを推進することができます。さらに、より効果的なインバウンド誘致を狙うには、各国の有力ジャーナリストやインフルエンサーを招致して地域を深く知ってもらい、海外に魅力を発信してもらうことも重要です。
スポーツレガシーをインバウンド獲得につなげる
近年、国際オリンピック委員会は、レガシー(遺産)の創出を重要なテーマのひとつに掲げています。スポーツイベントを契機として創出された施設や建築物、インフラ整備といった有形のレガシーに加え、異文化交流、ボランティア、教育などといった無形のレガシーを、大会期間中に限らず、その後も継続的に活用し、次世代に継承していくという考えです。
例えば、スポーツイベントのために新設・改修したスポーツ施設を、複合的な機能を備えた収益性のある交流施設として活用することで、地域社会や経済にも継続的に良い影響を与えながら運用することができます。無形のレガシーでは、直接的な体験を経て多文化への理解を深めることで、地域の人々が外国人観光客に対する知見を養い、ソフト面での受け入れ態勢の充実につながると考えられます。
ロンドンオリンピックにみる”レガシー”の活用方法
それでは、過去のオリンピックではどのようなレガシーが掲げられたのでしょうか。2012年ロンドンオリンピック開催に際して、イギリス政府が目指したレガシーは5つでした。
1. 英国を世界トップのスポーツ国家にする
2. イースト・ロンドンの再開発
3. 若い世代の啓発
4. 持続可能なオリンピック・パークの建設
5. 英国が創造的、協調的であり、また、ビジネスチャンスに満ちていることを世界にアピール
またとない観光プロモーションの機会でもあるオリンピックを一過性のものとせず、観光につなげていくために、イギリス政府は観光予算を五輪前:中:後で、2:2:6に配分。オリンピック開催決定の2年後となる2007年以降、開催年の2012年までは毎年、ロンドンオリンピックをテーマに1,000人程度の海外メディアを招聘したり、海外メディアが活用しやすいようオリンピック関係の画像・映像のデータベースを作成し、無料公開するなど、徹底したメディア対策を行いました。さらに、2012年オリンピック開催直前の3月には、世界トップクラスのジャーナリスト35人をオリンピック等の重要イベントの内覧に招待するなど、統一メッセージ”THIS IS GREAT”のもと様々な情報発信の機会を設けていました。
オリンピック閉幕後も、”Memories are GREAT Britain”をテーマに、オリンピック効果を観光につなげるため、航空会社、ホテル、旅行会社等が135万ポンド(約2億円)を拠出し、キャンペーンを実施したのです。
またロンドンだけに留まらず、他の地域への観光客誘致のための取り組みも行われました。”Cultural Olympiad”と銘打った文化の祭典がイギリス全土で行われ、1,000以上の開催地で約18万件のイベントが開催され、延べ4,300万人が参加したということです。
オリンピック開催中にも、ロンドン以外のイギリスをめぐるメディアツアーが用意され、500を超す海外メディアがロンドンから離れ、イングランド郊外、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドを訪れたということです。
このような取り組みが功を奏し、ロンドンオリンピック後のイギリスは、世界主要50カ国を対象とした「総合的な国家ブランドランキング」で順位を1つ上げて4位となったほか、63%の人が「オリンピックのおかげでイギリス旅行への関心が高まった」と回答し、75%の人が「ロンドン以外のイギリス各地も訪れてみたい」と回答したというデータもあります。
このように、世界中から注目が集まるスポーツイベントでは、ゲームが開催される会場となる地域はもちろんのこと、それ以外のエリアにも海外からの関心が寄せられる可能性が高いということがわかります。
ゴールデン・スポーツイヤーズの3年間は、スポーツを切り口とした地方の活性化やインバウンド誘致を図る絶好の機会です。また、この3年間だけではなく、大会後も継続的に地域を訪れてもらうために、次世代に継承できるレガシーの創出を念頭に置きながら、世界中の注目が集まるビックイベントを踏まえた施策を実施していくことをおすすめします。
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