インバウンド特集レポート
今や中国人の消費シーンに欠かせなくなっているキャッシュレス決済。しかし、中国式のQRコード決済の導入だけが先行して進むことは、日本のインバウンドにとっていいことなのだろうか。この点をあらためて考えてみよう。
中国のキャッシュレス化をどう考えるか
本特集レポートでも以前紹介したとおり、中国ではキャッシュレス化が日本よりはるかに進んでいる。その普及ぶりは、必ずしも都市部に限らず、農村地域でもモバイル決済が普通のことになっている。それだけに、日本を訪れた中国客は不便に感じることも多いだろう。
ここ数年で中国の2大決済アプリのアリペイ(支付宝)とウィーチャットペイ(微信支付)の日本進出が加速し、コンビニや大手流通チェーン、家電量販店などを中心に全国で導入が進んだ。中国客の多い北海道の新千歳空港では、全171店舗でウィーチャットペイの決済端末が導入されたことも報じられている。
キャッシュレス化が進む中国に刺激されて、日本でも国内向けのモバイル決済サービスが次々に生まれている。今後導入予定のコンビニ系のファミペイやセブンペイ、さらにすでに大手コンビニで導入されている楽天ペイ、SNS系のLINEペイなどに加え、昨年末にはソフトバンクが鳴り物入りで実施したPayPayのユーザー獲得100億円キャンペーンも話題となった。

▲キャッシュレスにはQRコード型と非接触型がある(出典:時事通信2018年12月27日)
これら日系の決済サービスと中国系の提携も進んでいる。アリペイはソフトバンクのPayPayと提携することで、中国客はPayPayの加盟店でもアリペイが利用できるようになった。中国客の利便性は少しずつだが、向上しつつあるのは確かだろう。
QRコード決済の偏重には疑問
中国の勢いに押されて日本のキャッシュレス化が進むのは悪い話ではないのだが、はたして中国式のQRコード決済の導入だけが先行して進むことは、日本のインバウンドにとっていいことなのだろうか。この点をあらためて考える必要がある。
よく言われる話として「日本を訪れる中国人は全体の4人に1人。消費額は全体の4割を占める。だから、中国客のニーズに応えるべきだ」というわけだが、逆にいえば、残り4人のうち3人はQRコード決済ではなく、クレジットカード利用が過半を占めるのが実際である。各国の人たちに幅広くキャッシュレス化を享受してもらうためには、むしろクレジットカード決済を普及させることが先決だと考えられる。
さらに、問題は地方や小規模小売店ではQRコード決済どころか、カード決済の導入すら進んでいないのが実態であることだ。外国人観光客にとって本当にありがたいのは、都市部ではなく、地方や小規模小売店のキャッシュレス化なのである。
その点、中国では地方の町や農村でもモバイル決済が使えるため、旅行者には心強い。ただし、中国では以前に比べ、銀行窓口によるキャッシュの両替や国際クレジットカードの使用がやりにくくなったため、外国人にとっては不便である。中国客が日本で不便を感じるのと同様に、日本人も中国では不便であり、お互い様なのだ。主流となる決済システムが違うせいである。
すべてが使えるマルチ決済端末こそ求められている
外国人観光客にとって、日本のキャッシュレスサービスは乱立気味で、これが利便性を高めるのを難しくしている。これは国内に住む我々にとっても共通する話だろう。中国のように政府がアリペイ、ウィーチャットペイ、銀聯カードの3つに絞るような統制は日本ではできないせいだが、それにしても乱立は結果的にキャッシュレス化の進行を遅らせているといえる。
なぜ日本で地方や小規模小売店のキャッシュレス化が遅れているかといえば、ひとつの理由は、カードであれQRコード決済であれ、決済端末の導入コストが重荷になっていることが考えられる。また手数料負担が生じることも嫌がられる理由だろう。
だとしたら、いま求められているのは、各種カードやQRコード決済など、あらゆる決済システムに対応した、しかも安価に導入できる端末だということになる。そんなものがあるのだろうか。
ひとつの動きがある。中国でQRコード2社や銀聯カードなどの小売店向けマルチ決済端末を使った大手決済プラットフォーマーであるラカラペイメント(拉卡拉支付)が2018年2月、日本法人である株式会社ラカラジャパンを設立し、日本の小売店向けのマルチ決済端末の導入を始めたことだ。
ラカラジャパンの決済サービスの特徴は、ウィーチャットペイやアリペイなど中国系QRコードの読み取りはもちろん、今後は各種クレジットカード(磁気・ICチップ)や「非接触型ICカード」と呼ばれるSUICAなどのFeliCa系カードの読み込みも可能なマルチ端末の導入を準備している。
▲ラカラ・ジャパン
こうしたマルチ決済端末が安価に導入できるようになれば、小規模小売店の負担も軽くなる。外国人観光客にとっても、これほどありがたいサービスはないといえるだろう。
昨年12月、ラカラジャパンは、2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合と『インバウンド×キャッシュレス地域経済活性化最先端モデル事業』を実施する協定を結んだ。
▲インバウンド×キャッシュレス地域経済活性化最先端モデル事業が協定した際の記者発表会で
同社の日本進出は、競合する国内の決済端末メーカーにとっては脅威になるだろう。だが、キャッシュレス化の進んだ中国の先進的なサービスの登場が、停滞気味の日本にカツを入れてくれるのだとしたら、歓迎すべきではないだろうか。
もうすぐ春節が迫っている。この時期になると、当然、一番活気づくのが中国市場だ。だが一方で彼らもライフスタイルが日々、進化している。常に新しい情報をキャッチアップし続けることも大事だろう。
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