インバウンド特集レポート
これまで、日本のお菓子について日本の売り場の様子や、KOLによるブログや日本の情報サイトでどのように取り上げられているかを紹介してきた。情報は海外にどうやって広まっていくのだろう。担い手となったのは、インフルエンサーやKOLたちだが、その活躍の場となったのが「SNS型ECアプリ」と呼ばれる中国の「小紅書」である。
日本のお菓子が中国に広がった経緯
中国のインターネット上に日本のお菓子情報がこれほど詳しく流通しているとは驚くばかりだが、それは自然に伝播したというより、明らかに意図的に広めている人たちがいると考えたほうがいい。
それが誰かを答える前に、中国で日本のお菓子が評判になるまでに、あるプロセスがあったというので、そこから話を始めよう。話をしてくれたのは、前回登場したインバウンドKOLとして中国のSNSに日々日本情報を発信している宗杏梅さんだ。
彼女は3年前まで上海の日系PR会社にいた。彼女の働くオフィスには、よく日本からの出張者が訪ねてきて、みやげとして「白い恋人」をくれたという。2012年当時、上海のOLにとってそれはうれしいみやげだった。
ところが、2014年頃になると「『白い恋人』はもういいという気分になった。毎回同じで飽きてしまったから」と宗さんは笑いながら話す。その頃、留学生や在日中国人による代購(代理購入)で、さまざまなお菓子情報が少しずつ広まり始めたせいでもあった。当時、宗さんたちは「ROYCE」「じゃがポックル(中国では三兄弟と呼ばれる)」などは知っていたという。代購などで持ち込まれた日本のお菓子がタオバオなどのECサイトで販売され始めていたのだ。
そして、「爆買い」が話題となった2015年、日本を旅行する中国人自身が日本のお菓子を大量購入して帰る現象が起きた(もちろん、以前からあったが、そのピークがこの年だった)。それらの多くは、配りみやげとして購入されるだけでなく、日本に旅行に行くと聞くと友人知人が「これ買ってきて」とSNSで伝えてくるので、仕方なく買わざるを得ないという「頼まれ買い」もあったという。そんなことまで頼もうとする図々しいところもそうだが、人間関係を気にしてそれに逆らえないところも、いかにも中国人らしい。その頃にはすでに中国のネット上に日本のお菓子情報があふれていたのだ。
インフルエンサーやKOLを通じて広がる日本のお菓子
その後、中国政府による、みやげに対する関税強化で「爆買い」が終焉すると、今度は越境ECで日本のお菓子が中国で広まっていく。その際、新たに注目を浴びたのが、インフルエンサーであり、KOLだった。
今日、情報伝播の経路は実に多様といっていい。なかでも、中国の若い女性に絶大な影響力を持つのが、中国の口コミアプリ「小紅书(小紅書)」 だろう。これはSNSのインスタグラムとECサイトのアマゾンが一体化したようなサービスで、アプリ内で商品を購入できる。それゆえ「SNS型ECアプリ」と呼ばれる。
ここではさまざまなインフルエンサーが日本のお菓子情報を発信している。たとえば、中国の有名女優の金晨さんで、小紅書の彼女のページでは、森永のミルクキャラメルや塩キャラメルなどを109万人というフォロワー相手にすすめてくれている。
小紅書には、有名無名のさまざまなインフルエンサーがいて、細かな情報を発信してくれているが、Estherさんのような情熱を感じさせる女性もいる。
Estherさんの「東京必買いみやげ情報(东京必买手信 !网红伴手礼 !)」では、日本旅行に来て、日本の人気菓子「Newyork Perfect Cheese」(台湾のネット上の「東京必買い2019年みやげ菓子」2位で、行列必須)を買うために、2回並んで売り切れとなり、3回目にようやく買えたというエピソードを披露している。
また、2005年の中国湖南テレビの人気オーディション番組「超級女声」でデビューした歌手の黄雅莉さんも、以下の動画で日本のお菓子をすすめてくれている。
黄雅莉 さん(小紅書)
越境ECはKOLやインフルエンサーが販売のカギに
これをビジネスとして行うライブコマースの世界もある。これはテレフォンショッピングの進化系で、ネット上でリアルタイムに発信される動画上で商品販売する手法のことだ。出演するのは、多くのフォロワーをもつKOLたちだ。中国ですでに広く普及しているキャッシュレス化や越境ECなどにみられる販売方法の新動向といえるだろう。
このように、日本人が知らないところで多くの日本菓子が中国全土にネットで広められている以上、日本の製菓メーカーが中国や台湾のKOLにアプローチしないわけがない。KOLたちも、プロとして情報伝播に努めている。ここがインフルエンサーとは違うところである。ただし、面白いのは、ヒット商品が必ずしもプロのKOL発で生まれるとも限らないことだ。
中国や台湾のKOLたちに話を聞いていると、彼らにとってみやげ選びは大変だとわかる。なぜなら、渡す相手によって東京ばな奈のような定番人気菓子がいいのか、まだ広く知られていないとっておきのレア菓子がいいのか、価値の調整が必要になるからだ。心斎橋商店街で大きな袋に大量の駄菓子を購入していた中国の中年男性がいたので、そんなに多く何を買ったのかと尋ねてみると、彼は工場長で、帰国したら工員たちに多くの菓子を配らなければならないという。駄菓子買いもまた必要なのだ。
▲上野のアメ横で見かけた外国人観光客の手には、必ずお菓子を入れた袋が下げられている
旅行先の国や地域に対する親しみをもたらすお菓子
我々の想像を超えた彼らのみやげ選びの情報源も、それをどう使うかという基準も、事情を知れば日本人にも理解できなくはないのではなかろうか。日本人だっていまどき海外旅行先でブランド品などめったに買わないだろう。せいぜいみやげはスーパーに直行し、配りみやげのことも頭に入れながら、現地の食材やお菓子を買って帰る。そのとき考えていることは、日本を訪れた外国人と変わらないのだ。
たかがお菓子、されどお菓子。ひとつ確実にいえることは、お菓子はその国に対する親しみを生むと思う。日本のお菓子をたくさん買って帰る外国人観光客たちが、帰国後日本のことを思い出しながら、お菓子を食べたり、友人と分かち合ったり。そんな光景を思い浮かべると、心がほっこりしないだろうか。
確かにお菓子は単価が安い。だが、もしもっと単価の高い商品を外国人観光客に購入してもらいたければ、競争力のある商品を生む努力をするしかない。なぜなら、海外には日本よりはるかに競争力のある商品はいくらでもあるからだ。
(完)
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