インバウンド特集レポート
今年1~10月の訪日外国人旅行者数は過去最高の1100万9000人。年間では1300万人前後になる見込みとJNTOは予測している。今年の訪日外国人旅行者数は何が押し上げたのか。円安効果だけではない、その要因を検証する。
目次:
5人のうち4人がアジアからの旅行者
アジア各国の精力的な訪日路線の拡充
一回の寄航で2000人以上を運ぶ大型クルーズ船
10年の積み重ねが巨大な吸引力を生んだ
このまま増え続ける保証はない
今年1~10月の訪日外国人旅行者数が過去最高の1100万9000人(日本政府観光局(JNTO)調べ)になったことを、各メディアが先週一斉に報じた。昨年は年間1036万人で、今年は早くも10月までで1100万人を突破。前年度比27.1%増という高い伸率は、日本の経済指標の中でも数少ない成長事例といえるだろう。「年間では1300万人前後になる見込み」とJNTOは予測している。
では、今年の訪日外国人旅行者数は何がこれほど押し上げたのだろうか?
すぐに思いつくのは、今秋以降さらに顕著となった円安効果だろう。だが、それだけが理由とはいえない。通貨安となった国がどこでも観光客が増えるかというと、必ずしもそうではないからだ。ならば、背景には何があるのか。以下、JNTOのリリースを基にその要因を検証したい。
5人のうち4人がアジアからの旅行者
2014年1~10月の訪日外国人旅行者数トップ10の国別訪日外客数(推計値)と伸率は以下のとおりである。ここから何が読み取れるのか。
1位 台湾 2,381,200(26.4%)
2位 韓国 2,245,400(6.8%)
3位 中国 2,011,800(80.3%)
4位 米国 744,900(11.9%)
5位 香港 734,400(20.2%)
6位 タイ 513,300(48.2%)
7位 豪州 242,900(22.6%)
8位 英国 184,700(14.0%)
9位 マレーシア 182,500(49.8%)
10位 シンガポール 153,400(17.0%)
※( )内は前年度比
トップ5(台湾、韓国、中国、米国、香港)はこの10年間変わらないが、今年初めて台湾がこれまで不動のトップだった韓国を抜いて1位に躍り出た。背景には、台湾と日本の間で結ばれた航空協定(オープンスカイ)による路線の拡充がある。同協定が調印された2011年11月以降、日台を結ぶ航空便は飛躍的に増加。13年2月以降は21カ月連続で訪日客数が過去最高を更新と、その勢いは今年に入っても変わっていない。台湾の航空便は日本の多くの地方都市と結ばれているのが特徴だ。その結果、訪問地の多様化が進む台湾は訪日旅行市場の中で最も成熟しているといわれる。
※台湾がトップとなった背景については、やまとごころコラム「25回 過去最高200万人超えなるか!? 今年の訪日5人に1人が台湾客となった理由」参照。
2位は韓国。他と比べ伸率(6.8%)が低い理由は、4月の旅客船沈没事故の影響が指摘される。ただし、夏以降回復傾向が見られる。4位は米国。米国経済の回復基調が続き、今年4月以降、7カ月連続で各月の過去最高を更新している。5位は香港。こちらも台湾同様、21カ月連続で過去最高を更新。「9月末からのセントラルのデモの影響はまったくない」(現地関係者)という。
一方、伸率でみると、3位の中国は前年度比80.3%増と最も勢いがある。12年秋の尖閣問題で一時激減したが、昨秋以降大幅回復を見せているのだ(その背景については後述する)。タイ(6位)やマレーシア(9位)、シンガポール(10位)など、昨年団体観光ビザを撤廃したアセアン諸国も急増している。フィリピン(63.5 %増)やベトナム(49.1 %増)などの伸びの高さからも、政府の実施したビザ緩和がアセアン諸国の訪日客急増のもうひとつの要因であることがわかる。
いまや訪日外客数全体でアジア諸国が占めるのは約8割だ。今年、欧米主要国からの旅行者も各国平均10%以上増えており、欧米人ツーリストの姿をよく見かけるようになったと感じた人も多いだろう。だが、実際には5人のうち4人がアジアからの旅行者である。それが訪日旅行市場の実像だ。国別の伸率をみる限り、この傾向はますます強まりそうだ。
アジア各国の精力的な訪日路線の拡充
こうした訪日旅行市場の概況をふまえ、今年訪日旅行者数を押し上げた具体的な要因を考えてみたい。
観光白書(平成26年版)によると、訪日外客数の国別ランキングで日本は27位(2013年)だが、陸路で国々がつながる欧州やアジア諸国と違い、島国である日本が訪日客を増やすには、基本的に航空便の増便や新規就航で座席数を積み上げていくことしかない。つまり、今年伸率の高い国ほど訪日路線が拡充したことを物語っている。
なかでも突出しているのが中国だ。
今年の日中の航空路線の動きで注目すべきは、中国ナンバーワンLCCの春秋航空の路線拡充と天津航空の新規就航だろう。春秋航空は昨年までの上海から茨城、高松、佐賀の3路線に加え、今春以降、関空、新千歳の2路線と、内陸都市の重慶、武漢、天津から関空への3路線を新規就航させ、全8路線となった。夏には春秋航空日本(スプリングジャパン)が国内4社目のLCCとして成田から国内3路線(広島、高松、佐賀)を就航している。これは中国客の乗継需要も活かせるため、外資LCCならではの新しい動きといえる。天津航空は夏季限定の天津・那覇、静岡(ただし、静岡はチャーター便)を就航した。
春秋航空日本の成田・佐賀線初就航便
※春秋航空については、やまとごころコラム「31回 中国客の訪問地の分散化に期待。中国ナンバーワン旅行会社、春秋国際旅行」参照。
今年6月以降、中国国際航空や中国東方航空などの国営キャリアでも、上海発を中心に関空や新千歳、那覇などの増便が目立っている。7~8月、中国南方航空の広州・新千歳のチャーター便も多数運航された。総計で週に約40便が増便され、路線も拡充した背景には、旺盛な中国の訪日旅行需要があったことは間違いない。
今年出遅れていた韓国も、8月以降回復基調をみせており、10月の訪日客の前年同月比は57.7%増となった。実際、日韓間の増便やチャーター便の運航は増えている。主なところでは、エアプサンの釜山・福岡、ティーウェイのソウル・那覇などのLCCの路線拡充が目立つ。大韓航空のソウル・旭川などの夏季限定のチャーター便など、北海道や九州、沖縄方面への増便が多いのも特徴だ。韓国の訪日旅行市場も台湾同様成熟しており、訪問地の多様化がさらに進むことが期待される。
本来、航空路線の拡充は日本と海外の双方向の人の流れが基調となるべきだが、日本からの中国・韓国方面への渡航者は一方的に減少している。そのため、日系エアラインはこの方面のレジャー路線を絞り、ビジネス路線に傾注せざるを得ない状況にある。つまり、拡大するアジアの訪日旅行市場は海外のエアラインのレジャー路線拡充戦略にかなりの部分握られているといえるだろう。市場規模は中韓に比べればまだ小さいアセアン諸国でも、精力的な路線拡充の動きはみられる。一部、日系LCCのアジア路線の就航の動きもあるが、全般的にみてこの状況は変わりそうにない。
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