インバウンド特集レポート

タイからの訪日客が目覚ましい勢いで伸びている。
2年ほど前から始まった訪日旅行ブームに、2013年7月のビザ緩和が後押しをして2014年4月は単月最高の99000人を更新。韓国、台湾、中国についで訪日ランキング4位に。2014年5月まで単月最高を26ヵ月更新中の絶好調なタイ人インバウンド。
この旅行熱は一過性のブームでなくて、これからも続く「本物」だと確信できる。
現地取材やヒアリングを通して検証してみよう
目次:
●ビザ緩和、円安、LCC就航だけじゃない! 人気の要因はコレだ
●タイ人旅行者の心に刺さるポイントとは
●ガイド不足と若者向け&FIT向けの情報発信、タイ人向けおもてなしが課題
ビザ緩和、円安、LCC就航だけじゃない! 人気の要因はコレだ
①新規就航路線ラッシュで人気が加速
2012年26万人から2013年は45万3千人と74%の驚異的な伸びをみせたタイの入国者数は、2014年1月~5月で29.4万人、単月での過去最高記録は26ヵ月以上更新している。2014年4月は5連休のソンクラーン休暇や桜鑑賞ツアーもあって単月最高の99000人を更新。韓国、台湾、中国についで訪日ランキング4位とまさに絶好調という表現がぴったりだ(JNTO発表より)。
昨年ビザが緩和されて以来、タイ人観光客は一気に加速した。円安も手伝って増加の一途だったが、5月20日の戒厳令が暗い影を落とすかと思いきや、市民は通常の生活を送っており、訪日旅行に大きな影響はない。
むしろ航空会社の機材大型化やLCCの新規就航による航空座席増加により、ますますの旅客数の伸びが見込まれている。
まず、2013年末に世界最大級の総2階建て旅客機エアバスA-380を成田、関西に就航させたタイのフラッグシップ・タイ国際航空により飛躍的に座席供給量が増加。

バンコク中心部のセントラルワールド伊勢丹の前にあるパワースポット・トリムルティの祠。昼夜を問わず多くの人が訪れるが、木曜の夜の21時30分は特に効力があるということで、広場を埋め尽くす人が集まる(6月5日の夜)
次にLCCの攻勢が始まり、6月27日にジェットスターが福岡-バンコク(スワンナプーム国際空港)路線を開設。180席のエアバス320型機がデイリーで運航している。
今年9月1日からは、タイ・エアアジアXの成田-バンコク(ドンムアン空港)および関西―バンコク(ドンムアン空港)も就航予定と明るいニュースばかりが続く。
タイの政情不安により訪タイ日本人旅行者の減少した影響で、キャンセルや運休が懸念されたがなんのその。一抹の不安さえも吹き飛ばす形だ。
②日本カルチャーの浸透とインセンティブ旅行による訪日体験が個人旅行へ
もともとタイ人のあらゆる生活シーンに日本製品&日本文化が浸透していた。例えば朝起きての歯磨きからシャンプー、電化製品とあらゆるシーンで日本製の商品を利用している。「ドラえもん」や「一休さん」など日本のマンガやアニメなどよく知られているのは周知の事実。
また、日系企業の進出によりタイ全土で5万人といわれる在住日本人、また訪タイ日本人旅行者の影響も大きい。外食が多いタイ人にとって、和食弁当や高級会席料理、居酒屋と最近は特に「日本食」がブームになっている。
書店に並ぶガイドブックは、エリアガイドのほかに「グルメ」や「鉄道旅行」などテーマ毎に百花繚乱の様相である。どうやったら個人旅行でまわることができるか、細かく指南したものが多い。

海外旅行を取扱うテレビ番組も多く、訪日に特化した「MAJIDE JAPAN」や「SUGOI JAPAN」など人気があるという。
タイ人が「日本」や「日本旅行」に接するシーンは本当に多いというわけだ。
さらにタイの訪日熱が高まる理由として、「好調な経済成長に支えられた新たな団体旅行マーケットの増加にある」とタイのイオンクレジット顧問である石亀智氏は語る。
社員旅行を海外にする企業の増加
失業率が0.5%と低いタイでは、従業員が企業を選ぶ立場にあり、また法律で「給料を下げる」ことが禁止されている。そのため、雇用者側、特に工業団地を持っている企業は、いかに労働者を確保するかに苦心している。今後のことを考えると「給料を上げる」のは危険なため「ボーナスをたくさん出す」もしくは「社員旅行」などで対応してきた(実際にある日系企業は11ヵ月分のボーナスを出したこともあるそう)
社員旅行は1泊2日のバス旅行が主流だったが、行先を海外にする企業も出てきた。隣国のシンガポールや香港、それから韓国、日本とシフトしてきており、新たな団体旅行マーケットが生まれている。
ディラーインセンティブトリップの行先が日本へ集中
2006年ころから自動車や家電、保険といった業界でのディーラー向けインセンティブトリップが盛んにおこなわれるようになってきた。行く先はアジアのみならずヨーロッパなど世界各地へ。しかし欧米では「(タイ人が食べられない)ビーフばかり出てくる」と食の好みが合わなかったり、サービス対応がよくないなどの声が多くきかれた。
対照的に日本は「食が美味しい」「自然も美しい」「人が親切」などの高評価が多かった。そのため、日本旅行を5年に1回行っていた企業が毎年にするなど、日本に集中する傾向をみせている
懸賞の特賞が日本旅行
ここ2,3年盛んになってきたのが懸賞に出される旅行。行き先が日本というのがもっともポピュラーになっている。新たな団体旅行マーケットとして見られている。
石亀氏は、もともとJTBタイランドに10年ほど勤務。当初はタイのインバウンド(日本人のタイ旅行)担当であったが、2005年からタイ人アウトバウンドの本格的な立ち上げに携わり、2013年までタイ人旅行の企画・販売に従事していたため、マーケットの急成長ぶりを肌で感じている。
2005、2006年は年に5本ほどであった日本へのこれらの団体旅行が、いまや月20本、年間で200~300本と増えているという。
これらの団体旅行で日本を経験したタイ人は「今度は自分たちで自由に個人旅行したい」と考える場合が多い。
「この訪日の人気は、これからもますます伸びて、衰えることはないと思いますよ。経済がさらに拡大していく中で、今では普通のOLや、タクシーの運転手でもお金を貯めて日本へ旅行ができるほどですから」と石亀氏。
石亀氏が現在顧問を務めるタイのイオンクレジットのカード会員は600万人(そのうちクレジット機能を持つカード会員200万人)。6500万人のタイの人口のなんと約10分の1が所持していることになる。タイローカルのカードとして認知され、日本の企業だというイメージをもつタイ人は少ないという。クレジットカードを作ることができる月収1万5000バーツに満たない人が、月賦で商品を買いたいためにイオンクレジットの会員になる場合が多いそうだが、今後は日本旅行の情報を絡めて出していくことで高所得者層を増やしてきたい考えだ。
会員の旺盛な消費傾向からタイ全体の富裕層、新中間層の増加を見込んでいるという。
富裕層の増加が進展
富裕層や新中間層の増加を経済成長の勢いから予感はできるが、実際はどうなのだろう。
タイ情報発信サイト「anngle」では、民間の調査機関ユーロモニターの統計から、タイの富裕層増加についてレポートしている。
2009年時点では可処分所得が1万5000ドル以上の上位中間層、富裕層が全体の17.9%であるのに対し、2015年には30%を超え、2020年には40%強になるという予測が出ている。2020年には、可処分所得が5000ドル以上の下位中間層まで含めると、80%以上が中間層となる。タイ人がますます世界に羽ばたくようになる日は近い。
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