インバウンド特集レポート
2022年10月の訪日客の個人旅行再開に伴い、一気に回復が進むインバウンド市場。JNTOの発表によると、2023年1-2月の訪日客数は2019年比で約56%の水準まで回復しており、訪日団体旅行が再開していない中国市場を除くと回復率は約70%の水準まで戻っている。
本サイトでは、コロナ禍を経たインバウンド客の旅行動向を探るべく、3月に東京を訪れた外国人旅行者を対象に街頭調査を行った。計358名の回答から、旅行スタイルや、情報収集の仕方などについて、以下の考察を得た。
■旅行動向について
・アジア圏はリピーター、ヨーロッパは初訪日が圧倒的多数
・全体的に訪日滞在の長期化進む
・パンデミック禍の旅行回数、欧州は圧倒的に多く、アジアは少なめ
・旅行者の保険加入率 7〜8割で推移も地域ごとに差はあり
■旅行者の情報収集スタイルについて
・SNSの利用が進み、動画の活用も加速
・「訪日」に特化したWEBメディアへの一定の認知度あり。
特にJNTOが運営する外国人旅行者向け公式サイト「Travel Japan」や訪日メディア「japan-guide.com」を参考にする傾向あり。
それではここから、調査結果の詳細を紹介する。
アンケート回答者属性から見る、コロナ禍を経た訪日客のスタイル
今回の調査は、3月13日~17日の5日間、東京駅前の観光案内所(東京シティアイ)と、東京タワーで行い、計358名からの回答を得た。回答者の出身地域、年代、旅行スタイルは以下の通り。回答者の7割強が観光レジャー目的で来訪、9割が個人旅行客だった。
アジア圏はリピーター、ヨーロッパは初訪日が圧倒的多数
回答者の訪日回数を出身地域で見ると、訪日2回目以上のリピーターの割合が最も多かったのは東アジアで8割近くに上り、次が東南アジアで65%となった。なお、ヨーロッパでは初訪日の割合が最も高く、全体の7割以上を占めた。
全体的に訪日滞在の長期化進む
回答者の訪日旅行の滞在日数を地域別で分析したところ、近距離旅行は、短期滞在、長距離旅行ほど長期滞在という傾向はこれまでと変わらなかった。ただ、コロナ禍を経てより長期滞在する傾向が強くなっているのか、全体的に2週間以上の長期滞在の割合が多い。
東アジアや東南アジアでも2週間以上と回答した人が2割近くに上った。また、北米では4割、オセアニアやヨーロッパでも2週間以上の長期旅行をしている人が半数以上いる。
パンデミックにおける旅行回数、欧州は圧倒的に多く、アジアは少なめ
パンデミックにおける海外旅行回数について地域ごとの割合を見ると、早い段階で移動制限を撤廃したヨーロッパでは1回以上旅行を経験した人の割合が最も多く、9割を超えた。また、3割以上が、5回以上と答えた。陸続きとなっている国が多く、国境を越えた移動が容易であったことも要因と考えられる。
なお、移動制限が長く続いた東アジアでは、コロナ禍の海外旅行回数が0回という人が24.4%となり、中南米の25%に次ぐ多さとなった。一方で、中南米で2回以上旅行したという人が6割以上いるのに対し、東アジアでは3割未満となり、大きく差がついた。
旅行者の保険加入率 7〜8割で推移も地域ごとに差はあり
今回の旅行で、クレジット付帯も含め、訪日時に有効な保険に加入していた人は、全体の約7割となった。
なお、地域別での保険加入状況を見ると、北米では保険加入率が低く、半数に届かなかった。また、東南アジアでは、人口に占めるクレジットカード保有率が低いこともあり、クレジットカードなどに付帯の保険を利用した人が1.5%と低く、訪日旅行に向けて保険に加入した人の割合が7割近くの高い水準になった。
訪日旅行の情報収集、SNS利用進む。動画の活用も加速
今回の訪日旅行の情報収集にあたり参考にしたものを、選択肢の中からすべて選んでもらったうえで、最も参考にしたものを1つ選択してもらったところ、「SNS」が他を大きく離して1位となった。また2位以降は「ガイドブック」「検索エンジンでの検索」「知人、友人からの口コミ」が入った。
以前(コロナ禍前)より、情報収集でのSNS活用は一般的になりつつあったが、よりその傾向が顕著になるとともに、動画などの活用も進む傾向にある。一方で、ガイドブックや雑誌などの紙媒体の活用傾向が依然として強いことも見て取れる。
情報収集の仕方、東南アジアはSNSがトップ、北米では個人ブログや口コミを参考に
最も参考にした情報に絞って回答者の出身地域別の特徴を見ると、地域によって傾向に差があることが分かる。
東南アジアでは、半数以上が「SNS」が最も参考になったと回答し圧倒的1位で、その後検索エンジン(13.4%)、旅行ガイドブック(9%)と続いた。東アジア、ヨーロッパ、オセアニアでは1位の「SNS」と2位の「旅行ガイドブック」が拮抗しており、今もなお、雑誌などの紙媒体を積極的に参考にする傾向が強いことが見て取れる。
なお、他の地域と違った動きをしたのが北米で、1位が検索エンジン(29.2%)でその後、知人・友人の口コミ(20.8%)、個人ブログ(14.6%)、SNS(12.5%)という順番だった。
旅行情報の収集、どのようなWebを参考にしているのか?
また、今回の調査では、個別のWebサイトの認知度や、訪日に際しどの程度参照しているかを探るべく、12種類の具体的なWebサイト名を並べて情報収集に参考にした媒体を選んでもらった。その結果、1位が「TripAdvisor」、2位はJNTOが運営する外国人旅行者向け公式サイト「Travel Japan」、3位が「japan-guide.com」となった。
なお、世界最大級の旅行口コミ及び価格比較サイト「TripAdvisor」は、世界49カ国・28言語と全世界に向けて発信しており、2位の「Travel Japan(JNTO)」は日本語も含めて15言語で展開している。なお、3位に入った「japan-guide.com」は、1996年に立ち上がった訪日英字メディアで、日本についての旅行・生活・文化情報等を25年以上にわたり発信しており、特にコンテンツの質の高さに定評がある。
欧州は「Travel Japan」、東南アジアは「japan-guide.com」を参照
旅行者が参考にしたメディア上位3つに絞って、それぞれを選択した人の出身地域ごとに分析した。「TripAdvisor」は世界49カ国に展開しているだけあり、特定の地域に偏りなく参考にされる傾向が見られた。また「Travel Japan(JNTO)」は、東アジア、東南アジアに加え、欧州でより参考にされる傾向がみられた。なお、同サイトはヨーロッパ向けには、英、仏、独、伊、西、葡(ポルトガル)の6言語で展開している。
英語1言語で展開する「japan-guide.com」は、欧米豪圏に加え、東南アジアでより参考にされる傾向が高かった。なお、東南アジアの主要国の中で、英語が公用語として使われているのは、シンガポール、マレーシア、フィリピンの3カ国である。(そのほかは、タイ=タイ語、ベトナム=ベトナム語、インドネシア=インドネシア語)
「Travel Japan(JNTO)」は若年層、「TripAdvisor」「japan-guide.com」幅広く参照
旅行者が参考にしたメディア上位3つの「TripAdvisor」「Travel Japan(JNTO)」「japan-guide.com」に絞って、それぞれを選択した人の年齢ごとの分布をみると、20代以下の若年層が参考にする傾向が高かったのは「Travel Japan(JNTO)」だった。一方、「TripAdvisor」「japan-guide.com」は、幅広い層が参考にする傾向が強いことが伺えた。
急速に回復する観光インバウンド市場において、観光業界が抱える課題や着手すべきことは多々ある。ただ、日本を訪れた旅行者が高い満足度と共に自国へ戻り、周囲の人たちに「次に行くべき旅行先は日本」というポジティブな口コミに繋げるためにも、定期的に外国人旅行者の声に耳を傾け、ニーズを把握していきたい。
[訪日外国人への街頭調査概要]
時期:2023年3月13日〜17日
対象:東京都内を訪れた外国人観光客(N=358から回答を入手)
場所:東京都内(東京タワー、東京シティアイ)
手法:街頭調査
言語:4言語(英語、繁体字、韓国語、タイ語)
協力:株式会社サーベイリサーチセンター
回答者基本属性:以下の通り
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