インバウンド特集レポート
2015年の訪日外国人旅行者数は2000万人まであとわずかに迫ったが、最大の要因は東アジアの国々と日本を結ぶ航空路線の飛躍的な拡充にある。地方空港への就航も相次いでおり、訪日客の分散化を進めるうえで重要な進展だ。一方、中国経済の減速や日系企業の中国進出の減少、急速な拡充に伴う供給過多の声もある。地方空港の現状と今後の行方を見渡してみたい。
目次:
2015年、国際定期便が3→16に増えた静岡空港
関空の中国路線増加の呼び水は春秋航空
背景にはオープンスカイとLCC市場の拡大
佐賀空港の誘致サクセスストーリーに学べ
慎重な日系エアラインと供給過剰の声
2015年の訪日外国人旅行者数は2000万人(約1974万人)まであとわずかに迫ったが、島国である日本においてその最大の要因となったのは、東アジアの国々と結ぶ航空路線の飛躍的な拡充にある。
2015年国・地域別訪日外国人旅行者数(日本政府観光局(JNTO)調べ)
1位 中国 499万3800人
2位 韓国 400万2100人
3位 台湾 367万7100人
4位 香港 152万4300人
5位 米国 103万3200人
訪日外国人旅行者の内訳をみると、中国、韓国、台湾、香港の東アジア4国・地域で全体の7割を占めている。なかでも国別で初めてトップとなった中国市場は500万人(499万人)規模にふくらんだが、15年の日中間の新規路線の増加は目を見張るものがあった。これまでの主なゲートウェイだった成田や関空、羽田、新千歳といった主要空港のみならず、地方空港への就航も相次いでいる。これは地方へ訪日客の分散化を進めるうえで重要な進展といえるだろう。
2015年、国際定期便が3→16に増えた静岡空港
いまや東アジアの航空網は新時代を迎えているのだ。
なかでも2015年、地方空港として大きく躍進したのが静岡空港である。
09年6月、全国で98番目の空港として誕生した静岡空港は、開港当初から需要予測の甘さが指摘され、赤字経営が続いていた。
ところが、15年に入り、それまで上海、台北、ソウルまでの週13便しか定期便のなかった国際線に、中国13都市から一気に新規就航が相次いだ。現在は、冬期スケジュールに入っているため運休便もあるが、一時最大16路線週53便になった。わずか1年で静岡空港の国際線の便数は4倍になったのだ。地方管理空港ではいまや全国一の規模である。
背景にはもちろん、中国の訪日旅行需要の急激な拡大がある。成田や関空の乗り入れがいっぱいになり、東京・大阪ゴールデンルートの第3のゲートウェイとして静岡空港に白羽の矢が立ったのだ。
静岡県観光部空港利用促進課の稲垣孝博課長は「開港以来、東日本大震災の影響などで国際線は低迷していたが、14年頃から徐々に上昇し、15年には初めて国内客を国際客が上回った。その理由は、中国からの路線が一気に増えたためだが、呼び水となったのが15年1月に定期便となった天津航空の天津線」だという。
中国大手エアラインの海南航空グループに属する天津航空は14年春からすでに週5便のチャーター便を運航していたが、搭乗率は8~9割と好調だった。14年12月には北京首都航空の杭州線のチャーター便も始まり、翌年から中国東方航空や中国南方航空なども一斉に乗り入れてきた。
2015年中国系エアラインの新規就航状況
※( )は就航日。中国東方航空上海線を除く
静岡空港は全国の地方管理空港の中で
最も中国路線が多い
中国東方航空
寧波(2015.3.31)※チャーター便は15.2.17~
温州(2015.7.1)
南京(2015.7.4)
合肥(2015.9.23)
天津航空
天津(2015.1.28)※チャーター便は14.5.28~
西安(2015.5.16)
中国南方航空
武漢(2015.5.15)
南寧(2015.5.15)
鄭州(2015.6.28)
長沙(2015.7.2)
北京首都航空
杭州(2015.7.2)※チャーター便は14.12.25~
塩城(海口)(2015.9.3)※チャーター便は15.5.27~
石家荘(2015.9.5)※チャーター便は15.5.27~
※北京首都航空も海南航空グループに属している。
静岡空港の愛称は「富士山静岡空港」
路線数は急に増えたが、上海線や天津線を除くと、内陸の地方都市からの便が多いのが静岡線の特徴だ。中国の地方都市から日本の地方都市への直行便が結ばれたという意味では画期的ともいえるが、内陸都市の旅客は団体が大半なので、県内には1泊程度の滞在しかないのが現状だ。「富士山は誰でも知っているが、それが静岡県にあることはあまり知られていない」と語る山梨利之国際観光班長は、今後県内の連伯や外国客向けの観光プランの造成を進めていきたいという。
静岡空港の就航都市は 空港内のショップには
国内より海外のほうが多い 中国人観光客向けの定番土産が並ぶ
関空の中国路線増加の呼び水は春秋航空
中国からの新規路線が増えているのは静岡空港だけではない。中国路線の数でいえば、関西国際空港が国内最大だ。
もともと関空はアジア方面からのLCCの運航数の比率も31.7%(15年冬期)と突出しているが、以下のリリースをみても、国際線の就航便数は2011年以降、右肩上がりである。関空に乗り入れる東アジアの航空路線が急増しているからだが、特に14年以降、中国路線の勢いが目につく。
関西国際空港の国際定期便運航計画について(2015年冬期スケジュール)
http://www.nkiac.co.jp/news/2015/2277/2015winter.pdf
15年冬期の関西国際空港の国際旅客便の方面別内訳(週)をみると、以下のとおり。
東日本大震災の年も国際線の
運航数が伸びていた関西国際空港
韓国 245便 3都市
中国 441便 41都市
台湾 147便 3都市
他アジア 121便 11都市
北米 35便 3都市
欧州 27便 5都市
その他 53便 7都市
そのためこの数年、関西を訪れる訪日外国人も急増している。15年は全国的に増えたことは確かだが、関西の伸び率は全国平均を大きく上回っている。
関西を訪れる外国客の特徴は、買い物を好む東アジアや東南アジアからの観光客が多いことだ。こうしたLCCを利用して賢く旅する旅行者を「関西バジェットトラベラー」と呼ぶ。一般に東京には出張や公費で訪れる旅客も多いのに対し、関西は「自分のお金で楽しみたい人が訪れる」といわれ、リピーター比率も東京より高い。
大阪観光局によると、関空の中国路線は、14年3月の春秋航空の上海線の就航が呼び水となったという。さらに、4月に上海吉祥空港が就航し、中国のLCC2社が揃うと、その後国営キャリアやその傘下にあるローカルエアラインが中国の地方都市からの就航を加速させたことで、これほど拡大したのだ。
関空には、一般の日本人は知らないような中国の地方都市からのフライトがあることに加え、山東航空や深圳航空のような聞きなれないエアラインも乗り入れている。直行便も増えたが、地方都市から上海や北京などの乗継便も急増しており、中国全土から訪日旅行客が現れていることを物語っている。これが15年に中国市場が前年2倍増の500万人規模にふくらんだ大きな理由なのである。
※そのプッシュ要員となったのは、15年1月に実施された日本政府によるビザ緩和である。以下のやまとごころレポート参照。
19回 「爆買い」はいつまで続くのか? 500万人市場になった中国インバウンド大盛況の舞台裏
https://yamatogokoro.jp/report/2015/report_19.html
ただし、関係者によると、関空の入国手続きや大阪府内の宿泊施設はすでに「キャパオーバー」の兆候を見せており、最近では中国系エアラインの新規就航が中部国際空港へとシフトする傾向も見られるという。
実際、中部国際空港の中国路線も、すでに以下の24都市に就航している。
北京、上海、長春、長沙、常州、大連、福州、杭州、貴陽、ハルビン、合肥、フフホト、昆明、南通、寧波、青島、瀋陽、石家荘、太原、天津、武漢、西安、煙台、銀川
中部国際空港フライトスケジュール(2016年2月1日~2016年2月29日)より
http://www.centrair.jp/airport/flight_info/monthly/1198613_1744.html
中国の内陸都市からこれほど多くの航空便が中部地区に乗り入れるという状況は、数年前には考えられなかっただろう。
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