インバウンド特集レポート

【万博特集】MICEの持つ可能性とは?MICEの基本から諸外国の成功事例、最新動向まで徹底解説

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2025年4月13日開幕の大阪・関西万博は、世界最大規模のMICEとも言える一大イベントだ。近年、観光業界において重要視され、インバウンド需要を大きく効果的に根付かせるための施策としても期待されるMICEは、観光においてどのような役割を果たすのだろうか。

本記事では、観光に携わる人が押さえておきたいMICEの概要から世界市場の動向、MICE誘致の諸外国成功事例、そして日本政府の取り組みなど、MICEに関する基礎知識を網羅的に解説する。

 

MICEの定義

まずは、MICEの言葉の意味を確認する。

MICEとは、Meeting(会議)、Incentive travel(報奨旅行)、Convention(国際会議)、Exhibition/Event(展示会・イベント)の頭文字をとったもの。多くの場合、企業や団体が主催するビジネスイベントを指し、近年では、観光と組み合わせた経済効果の高い観光形態として注目されている。

 

MICEが観光業界において重要視される理由

近年、観光業界においてMICEが重要視される理由は、主に以下の理由が挙げられる。

地域への経済効果

MICE参加者は一般の観光客よりも滞在期間が長く、宿泊費や飲食費などの支出額が高い傾向にあるため、地域経済への波及効果も大きい。2016年の観光庁調査によると、インバウンド一人当たり消費額約16万円に対し、海外からのMICE参加者の一人当たり消費額は、約34万円(約8万円の国際航空券代を含む)であり、MICE参加者の消費規模は相対的に大きいことが分かる。

加えて、MICE開催に向けた企画・運営、施設利用、設営などに伴う事業支出による波及効果も大きい。また、MICEは平日に開催されることが多いため、閑散期の集客など、混雑の分散化や、宿泊施設や飲食店の稼働率向上、雇用創出、生産性アップなどにもつながる。

産業競争力と都市ブランディングの向上

MICE開催を通じて世界から企業や学会の主要メンバーが集うことで、関係者間のネットワーク構築や新規ビジネスの創出、企業誘致が期待できるほか、国際会議等のMICE開催を通じ、都市の競争力やブランディング向上にも活用できる。

地域社会への貢献

MICE開催により、参加者との国際交流を通じた異文化理解や地域のグローバル化に寄与するほか、メディアによる報道が、地域の認知度向上や、住民のシビックプライド醸成を促す効果も期待できる。

 

MICEの世界市場と規模

MICEは世界的にみてどれほどの影響力を持つものだろうか。市場規模や各市場のトレンドを見ていく。

年平均9%、高い成長率が予測されるMICE市場

Grand View Research, Inc.によると、世界のMICE市場は2023年に8025億8680万米ドル(約124兆円)と推定される。2030年には1兆4669億米ドル(約226兆円)規模にまで成長すると見込まれており、年平均9.1%という高い成長率が予測されている。(※1ドル154円で試算)

成長を後押ししている要因は、企業のグローバル化、従業員エンゲージメントへの関心の高まり、テクノロジーの進化など、多岐に渡る。特に、コロナ禍の影響で、オンラインイベントやハイブリッドイベントの需要が高まったことが、市場拡大に大きく貢献している。また、AIを活用したソリューションの導入や、健康・ウェルネスを重視したイベントの増加など、MICE業界は常に進化を続けており、今後も市場の成長が期待される。

 

強みを生かして訴求、各市場ごとのトレンド

世界最大のMICE市場である欧州は、環境問題への意識が高く、サステナビリティを重視したMICEイベントの開催が求められている。環境負荷を低減するための取り組みや、地域社会への貢献などが重視される。

また、北米のMICE市場では、単なる情報収集やビジネス交渉にとどまらず、参加者同士の交流や、新しい発見を重視する傾向が強まっており、ユニークな体験型イベントの需要が高まっているという。

そのようななかで、特に注目すべきは、世界で最も急速に発展している地域の1つと言われているアジア太平洋地域のMICE市場だ。2023年に世界のMICE市場収益の22.90%以上を占め、2024年から2030年にかけて年平均の成長率は10.0%が見込まれている。 

 

諸外国におけるMICE誘致に向けた取り組み

ここからは、MICE誘致に強みを持つ諸外国事例として「シンガポール」「韓国」「アメリカ・シカゴ」の取り組みを見ていく。

サステナビリティに注力、国際競争力のアップに取り組むシンガポール

東京23区ほどの面積ながら、世界有数のMICE開催地として知られているのがシンガポール。国際会議の開催を集計する国際機関「International Congress and Convention Association (ICCA)」の2023年レポートによると、都市別開催件数ランキングでは世界2位となっているが、その理由には、環境への配慮を重視したサステナビリティ戦略にある。

シンガポール政府は、「Singapore Green Plan 2030」に基づき、MICE施設における廃棄物削減やカーボンニュートラル化を推進している他、統合型リゾート施設におけるプラスチック廃棄物削減や、主要なコンベンションセンターでのCO2排出量実質ゼロへの取り組みなどが進んでいる。また、省エネ設計への改修や緑化など、環境に配慮した宿泊施設の運営や、MICEイベントでの使い捨て資材の廃止やサステナブルな食材の利用などを通して、環境負荷の低減に努めている。

シンガポール政府観光局も、環境に配慮したMICE施設を検索できるウェブサイト構築や、MICE主催者向けの支援プログラム提供など、シンガポールのMICE誘致競争力を高める上で重要な役割を果たしている。

 

スマートシティを掲げ、住民と観光客双方の利便性向上を目指す韓国

韓国・ソウル市では、「スマート観光都市」というビジョンを掲げ、住民が利用するシステムが観光客にとっても利便性の高いものとなることを目指している。その一環として、デジタル技術を活用して効率やアクセス性を高めながら、参加者満足度を向上させる「スマートMICE」という、先進的な取り組みを行っている。

具体的には、VRやAR技術を駆使し、参加者への没入型イベントを提供しているほか、交通情報システムやアプリによる円滑な移動と情報提供、ペーパーレス化による環境配慮など多面的にも取り組んでいる。

 

学術都市としての特徴活かし、国際会議誘致に注力するアメリカ・シカゴ

アメリカは、世界でも有数のMICE開催国であり、ラスベガス、オーランド、シカゴ、ニューヨークなど、多くの都市がMICE開催地として人気を集める。各都市が地域の魅力を活かした戦略を立て、MICE誘致に役立てている。

例えば、シカゴは、シカゴ大学やノースウェスタン大学など、世界の大学ランキング上位に位置する大学が集積する学術都市としての強みを活かし、医療、科学技術、イノベーション分野などの国際会議の誘致に力を入れている。

会議開催の拠点となる大型コンベンションホール「McCormick Place」は、国際空港から約30分とアクセスが良く、アリーナや展示ホールを備えているほか、周辺には宿泊施設や飲食施設も充実しており、MICE開催に最適な環境が整っている。

国際会議の誘致は「Choose Chicago」という組織が中心に行っており、アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)や北米放射線学会(RSNA)など、大規模な国際会議の安定的な誘致などの実績も挙げている。

 

MICEにおける日本政府の方針や取組

日本国内のMICEを取り巻く状況を見ていこう。

アジア主要国トップ、世界で5番目の国際会議開催国を目指す日本

日本政府は、「観光立国推進基本計画」(2023年3月改定)においてMICE誘致の重要性を示し、「大阪・関西万博の機会も捉え、我が国のMICE開催地としてのプレゼンスを改めて向上させる」と述べている。目標として、2025年までに国際会議件数でアジア主要国トップの座を奪還する(アジア主要国でシェア3割以上)こと、2030年までに世界で5位以内の開催件数を目指すことを掲げている。

また、観光立国基本計画で定めた目標の実現に向けた具体的な施策を示した「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」では、従来の観光にとどまらない「ビジネス」「教育・研究」「文化芸術・スポーツ・自然」の3つの新しい分野を掲げ、インバウンド需要をより大きく効果的に根付かせるためのアクションに注力している。

例えば、地域が持つスポーツ施設や文化財などのユニークベニューや、施設の早朝、夜間活用、歴史や文化体験など、地域固有の文化資源の活用や、開催地のサステナビリティの取り組み促進などを通じて、日本のMICE競争力向上に取り組んでいく。また、政府としても、国際会議の誘致に向け、政府一体となって、MICE開催に向けて働きかけていく。MICEを通じて、人の流れを促し、ビジネス交流を拡大することで、日本を国際的なビジネスネットワークの拠点にし、世界経済での日本の存在感を高めることを目指す。

 

2025年4月に始まる万博に向けた日本の取り組み

2025年は、世界最大規模の展示会と言われる大阪・関西万博が4月13日から184日間にわたり、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催される。大阪・関西万博に向けた日本の取り組みや万博による経済や観光業会への影響について解説する。

サステナビリティを訴求、2800万人が来場予定の大阪万博

大阪・関西万博の会場は大阪市臨海部の人工島「夢洲」で、総面積は155ヘクタール。150以上の国と地域、25の国際機関が参加予定で、約2800万人の来場者が見込まれており、世界最大規模のMICEとも言える大阪・関西万博に向け、準備が進められている。

特に、大阪・関西万博では、SDGs達成に向けた取り組みを世界に発信する絶好の機会と捉え、会場では、SDGsをテーマにした展示やアクティビティのほか、食品ロスの削減やマイバッグ利用の推進など、環境に配慮した運営が計画されている。パビリオンの出展者は、SDGsの17の目標から必ず1つは展示に盛り込むことを求めるなど、万博全体でSDGs達成に向けた機運を高める取り組みが行われている。

 

経済効果は2兆円以上、期待が高まる大型MICE

大阪・関西万博開催による経済波及効果も大きい。2024年3月、経済産業省は大阪・関西万博の経済波及効果の試算値を発表。その金額は2兆9000億円に上るという。また、同年1月に(一社)アジア太平洋研究所の試算では、2兆7500万円になるという。大阪府内の経済効果は約1兆6000億円にのぼる見込みだ。

また、大阪・関西万博に来場するインバウンド観光客は約350万人と見込んでおり、万博を契機とした訪日やその前後での観光による地方訪問にも期待がかかる。

(公財)日本交通公社と日本政策投資銀行が2024年、アジア・欧米豪の訪日旅行者を対象に行った調査によると、訪日旅行検討中の約半数が万博を認知しており、7割以上が万博への訪問を希望していることがわかった。さらに、約4割が万博をきっかけとした訪日旅行を期待しているという結果が出ており、万博をフックとした観光や地方誘致にも期待がかかる。

大阪・関西万博に来場する訪日外国人がもたらす経済効果に着目すると、京都や奈良、兵庫などの関西圏だけでなく全国に経済効果が波及すると推測されており、その規模は約1.3倍とも言われている。

それらに対応するべく、日本各地では、万博を契機に訪れたインバウンド観光客の地方誘致に向け、新たな観光ルート開発や、地域独自の文化や歴史を活かした魅力的な観光コンテンツの創出が進んでいる。また、万博公式観光ポータルサイト「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」では、日本各地での過ごし方や体験情報を発信し、万博来場者の地方誘客を促進している。

 

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