インバウンド特集レポート
~「旅館」から「RYOKAN」へ、世界のキラーコンテンツに躍り出る~
世界の旅行の申し込み方法は、オンラインによるシェアが高まっている。海外では半数、国内でも急速に伸びている。そこに「旅館」というアナログ的な宿泊施設が対応できるのだろうか。OTA(オンライン・トラベル・エージェント)から見える世界に向けた旅館の魅力と課題を追った。
目次:
旅館は日本文化が体験できる宝庫
OTAホテル予約の新しい潮流
ホテル専門のOTAでは世界ナンバーワンがbooking.com
旅館へは幅広いニーズが存在している
OTAからの予約を増やすコツがある
エクスペディアは旅館をカテゴリーとして打ち出す
地域と連携したOTA活用が効果的だ
OTAにはメリットとデメリットが存在する
小野氏がすすめるOTAとの賢い付き合い方はこれだ
旅館は日本文化が体験できる宝庫
旅館は外国人にとって日本文化が体験できる施設だ。
庭は純和風、なかには古い木造建築も残り、エキゾチックにうつる。女将さんは和服姿で出迎え、部屋では浴衣を着る経験もできる。裸で温泉に浸かり、晩の料理は和食三昧とくる。
現代的なライフスタイルになった日本にあって、旅館は和テーストが色濃く残る空間だ。伝統的な和文化に触れられるということで、海外のOTA(オンライン・トラベル・エージェント)は旅館に注目しているという。
例えば、高野山の「宿坊」(宿泊施設を備えた寺)も広い意味での旅館にカテゴライズされていて、外国人の人気ランキングで上位になる。外国人の比率でいうと、1位がフランス人、2位がアメリカ人、3位がオーストラリア・ニュージーランド人と、圧倒的に欧米人に人気となっている。 受け入れを強化すべく、52ある宿坊のうち、英語が通じる宿坊は約10カ所に増えている。
純和風の屋内には、高級な調度品が並び、絵師によって手書きで描かれている襖。螺鈿細工のテーブル。床の間には書画の掛け軸が飾られている。庭園には枯山水だ。
そして食事は小僧さんが精進料理を部屋に持ってくる。
ある宿坊では、毎朝6時から7時15分まで朝の勤行を行っていて、般若心経を一緒に唱える。護摩を焚く宿坊もあり、外国人の参加率も高い。
まさに宿坊に泊まることが、高野山の歴史・文化に触れると共に日本文化体験そのものになっている。ホテルでは経験できない旅の醍醐味が凝縮されているのだ。
高野山の宿坊への予約は、OTAと呼ばれるオンライン・トラベル・エージェント経由が多いという。
OTAホテル予約の新しい潮流
そのOTAについて説明しよう。
日本では、国内向けにあるホテル予約サイト「じゃらん」や「楽天トラベル」といえばピーンと来るだろう。
インバウンドで頭角を出してきているのが、エクスペディア (Expedia)、ホテルズ・ドットコム (Hotels.com)、ブッキング・ドットコム(Booking.com)、アゴダ (Agoda)等だ。ちなみに、エクスペディアとホテルズ・ドットコムは兄弟会社で、同じエクスペディアグループだ。Booking.comとアゴダも同じプライスライン (Priceline)グループなので、実質的には、エクスペディア連合とプライスライン連合の戦いという図式に世界のOTA業界が動いている。
ところでOTAとは、店舗を持って営業活動を行っている従来型の旅行会社に対し、インターネット上だけで取引を行う旅行会社のことだ。特徴は、24時間いつでも膨大な数の商品を閲覧・検索でき、店舗へ出向く必要がない。
この利便性が消費者の支持を得て、ここ10数年で急速に伸びている業種だ。
投資額が少ないことから事業者の数も増え、また、旅行業以外からの参入も多く見られる。
エクスペディアはMicrosoftの旅行部門からスタートした経緯を持つ。
6月に東京で開催された「WIT JAPAN & NORTH ASIA 2015」(※1)で発表されたデータによると、オンラインとリアル店舗での販売比率は、米国が43%、欧州が42%と半数に迫る勢いだ。一方で、日本においては、2010年の27%から毎年2~3%数値を伸ばし、2014年は38%となっている。今年2015年は確実にそれを超える勢いだ。
※1:旅行業界のオンライン分野に特化した国際会議
日本における2013年度のオンライン旅行市場規模は、2兆9千億円と2011年度と比較すると23%増加。
市場拡大の主な要因として、
既存の旅行会社がオンライン販売強化をしていること、ダイナミック・パッケージ販売の増加、エクスペディアやアゴダ、Booking.comなどを中心とする海外OTAサイトの影響があげられている。
宿泊施設側のオンライン販売比率は32%で、オンライン旅行市場全体における販売額シェアは41%とトップである。
しかし、宿泊施設の業態によってオンライン比率は大きく異なり、ビジネスホテルが60%、リゾートホテル、シティーホテルなどは3割以下、そして旅館は18%となっている。つまり旅館については、取引が進んでいないというのが現状だ。今後を見据えたテコ入れにOTAは動いている。
ホテル専門のOTAでは世界ナンバーワンがbooking.com
7月7日、都内の高級ホテルで、Booking.com Japan は、2014 年度中に格別のパフォーマンスを上げられた宿泊施設を招待し、『Booking.com 感謝の夕べ』を開催した。
今回は、関東甲信越+静岡地区でのイベントで、営業所ごとに、札幌、大阪、京都、福岡と各地でも開催。
Booking.comとしては、今年は取扱いを加速させるため、このようなイベントを開催して、宿泊施設との関係強化を図りたいと担当者。
各部門の表彰があり、ホテル部門、リゾート部門、ゲストハウスその他部門、チェーン部門、そして旅館部門と分かれている。
旅館部門では、「河口湖温泉寺 露天風呂の宿 夢殿」、「ホテル仙景」の2施設が表彰された。旅館というものを明確に一つのジャンルとして位置づけているのだ。
このBooking.comは、ホテルだけに特化したOTAで、この部門では世界シェア率1位で2位以下を大きく引き離している。
1996年にオランダで設立されたオンライン宿泊予約サイトだ。
現在では、42か国語に対応しており、215 の国と地域の70万軒以上におよぶ宿泊施設を予約することができる。
60か国に展開する170以上のオフィスには、9,300 人の社員が働いている(2015 年 7 月現在)。日本市場においては、 2009年に日本オフィスを開設し、現在では5つの事業所(表参道、渋谷、大阪、福岡、札幌)において、約200名の従業員が在籍する。
利用者の旅行スタイルやニーズに合った宿泊施設を、最安値保証かつ予約手数料無料で提供している。
日本オフィスを立ち上げて以来、初の広告キャンペーンを始動するなど、2015年の後半から取り組みを加速させている。来年には、スタッフの大幅増員も視野に入れ、アクセルを踏み込む勢いだ。
日本地区統括リージョナル・マネージャーの勝瀬博則氏に、旅館についての可能性をうかがった。
「前提として、Booking.comが目指しているのは宿泊予約について、ウィキペディア的なあらゆる情報が載っているサイト。欲しい情報、予約を入れるなど、検索したいときに見つかるのがbooking.comでありたいのです。当然、旅館についても幅広く扱いたいジャンルです。」
旅館へは幅広いニーズが存在している
ここ最近の旅館については、ニーズが高くなっているのだろうか?
「アクセス解析を集計した結果、要望があがっているのは確かです。どの旅館タイプが希望かは、実に幅が広いですね。」
小さな町屋タイプから超高級旅館などさまざまだという。
やはり「旅館」の認知度が海外からあがってきたのが背景にあると勝瀬氏はみている。
口コミで、「旅館」というキーワードが書かれていれば、知らない人は、すぐにインターネットで調べる。英語や他のいろいろな言語で紹介されているので、ユーザーはすぐに理解可能だ。
まさにインターネット時代だからこそ、急加速で認知度が高まる。
そういった追い風の状況で、まずは掲載してもらうのが、重要だと勝瀬氏。
ユーザーが欲している幅広いニーズに応えるべく、様々な施設を掲載したいと意気込む。
掲載は無料で、出来高制でコミッションとして一定のパーセンテージを支払う仕組みだ。
初期投資がかからず、気軽に始められる。
またBooking.comの強みは、電話でのオペレーションセンターの充実にある。カスタマーサービスで重要なのは、トラブル対応だ。ユーザーへの対応を迅速にできる。例えばフランス人が旅館に泊まって手違いがあれば、オペレーションセンターでフランス語対応のスタッフが、旅館との間に立って解決へと導く。
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