インバウンド特集レポート
2025年、日本の観光・インバウンド市場は「回復」と「変化」が交錯する転換期となった。
やまとごころ編集部が2025年11月に実施したアンケート調査(有効回答数204件)では、売上や施策の重点、サステナビリティ対応など、現場の実態を映し出す定量データが集まった。本稿ではその結果をもとに、2025年の市場を総括する。
売上は「増加」55% 一方で横ばい・減少も16%と二極化
2025年のインバウンド売上動向(2024年比)を見ると、「増加」の回答が多数派を占め、回復基調にあることが分かる。
売上が増加(微増〜大幅増)したと回答した人は全体の55.35%だった。内訳は、「増加(1.2倍〜1.5倍未満)」が29.27%、「微増(1.0倍〜1.2倍未満)」が23.58%、「大幅増(1.5倍以上)」が6.5%となり、売上の回復傾向がうかがえる。
一方で、「変わらない(2024年と同水準)」は13.82%、「減少(0.7倍〜1.0倍未満)」は2.44%で、合わせて16.26%の事業者が横ばいまたは減少と回答しており、回復の恩恵が一様ではない現状が浮かび上がった。
売上回復の要因は「訪日客数増」に加え、戦略的取り組みが功を奏す
この売上増加の主な要因(複数回答)について尋ねたところ、最も多かったのは「訪問観光客数の増加」(67.74%)で、インバウンド市場の活況・拡大が売上の下支えとなっていることが分かる。
次いで、内部的な取り組みとして「プロモーション活動の効果」(31.18%)や「消費者行動やニーズの変化」(30.11%)、「商品やサービス内容の変更」(27.96%)が3割前後を占めた。これらの回答から、単なる市場の勢いに頼るだけでなく、各事業者が商品造成やプロモーションを戦略的に進めたことが、売上の押し上げにつながったと読み取れる。
一方、外部要因である「為替の影響」も26.88%と高い割合で挙げられた。これは、各事業者の戦略的な取り組みとは独立して売上に影響を与えた要因であり、円安などの為替変動が売上増に寄与した側面を反映している。
注力テーマは「商品造成」と「人材育成」 質の向上が主眼に
2025年に最も注力したテーマを尋ねた結果、「商品造成」(17.89%)と「プロモーション/販路開拓」(17.07%)、「人材育成」(16.26%)が上位を占めた。
回復局面において、単なる集客や数量増ではなく、「商品」や「人」の質を高める取り組みが重視された。また、「地域・他業種との連携」(13.01%)や「富裕層/プレミアム対応」(9.76%)にも一定の回答があり、供給体制や顧客単価への対応も意識された1年だった。
サステナビリティ対応は地域連携がカギに
サステナビリティへの取り組み状況(複数回答)では、「地産地消、地域資源の活用など、地域と連携した取り組み」が43.90%と最も高い実施率となった。これは、地域との共存がインバウンド事業の基盤となるという現場の意識の現れとも言える。
次いで「従業員・関係者への教育、意識啓発」(26.02%)、「環境負荷の低減」(25.20%)、「サステナビリティに関する方針、基本計画の策定」(23.58%)、「サステナブルな商品/サービスの開発、提供」(21.95%)と続いた。
一方で、「取り組んでいない」との回答は28.46%に上った。自由記述には「取り組みたいが、金銭的に難しい」といった声もあり、組織規模やリソースに応じた取り組みの格差が浮き彫りになった。
サステナビリティ認証の取得状況「取り組んでいない」が半数超え
観光業界におけるサステナビリティ認証取得への対応状況を見ると、「取り組んでいない」が58.54%と半数を超え、未対応の企業が多いことがわかる。一方で、「取得準備中」が11.38%、「認証取得済み」が8.94%となっており、合計で約2割の企業が認証に向けて動き出している状況だ。また、「分からない」と回答した企業も17.89%見られた。
中小と大手で分かれた対応、見えてきた現場のリアル
組織規模別に見ると、サステナビリティへの取り組みには明確な傾向が見られる。
従業員10名未満の小規模事業者では「地域と連携した取り組み」の実施率が高く(1名:54.55%、2–9名:26.32%)、中小企業(10–99名)でも59.26%に上った。地域との連携が、規模にかかわらず現場で実行可能な手段と認識されていることがうかがえる。
一方、「サステナビリティに関する基本方針・計画の策定」は、5000名以上の大企業で58.33%、1000–4999名では47.06%と大規模組織での実施が顕著だった。「第三者評価・外部認証の取得、あるいは準備中」も、5000名以上および1000–4999名でいずれも33.33%と進んでいる。
逆に、「取り組んでいない」と回答した割合は、2–9名の事業者で47.37%と最も高く、小規模な事業者における対応の遅れが目立った。
2026年市場予測、拡大見通しの中に潜むリスク
2026年の訪日市場見通しについては、「2025年と比較して拡大する」との回答が66.67%に上り、全体としては楽観的な予測が多かった。
一方で、「横ばい」(29.06%)、「縮小する」(4.27%)とする声も一定数あり、為替変動や国際情勢など外部リスクへの懸念も根強い。成長への期待と同時に、不確実性を見据えた慎重な姿勢も見受けられた。
数字が映す2025年の「温度差」、回復期に広がる「次に備える」意識
2025年は、売上増加が過半数を占める一方で、地域・業種間で格差や温度差が生まれた1年だった。回復の波に乗れた事業者と、依然として厳しい状況にある事業者の差は広がっており、観光市場の「二極化」が進んでいる。
「商品造成」「人材育成」「富裕層対応」「地域連携」など、注力されたテーマは、いずれも“質の向上”を目指した取り組みだった。単なる回復にとどまらず、“次に備える意識”が広がり始めた一年だったとも言える。
2026年以降、市場拡大を見込む声が多い中、持続可能性や外的リスクへの備えを強化し、構造的な変化にどう対応するかが問われている。
次回【後編:定性データ編】では、自由記述から見える現場のリアルな声と、注目キーワードをもとに、より具体的な課題と挑戦を紹介する。
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「2025年の観光・インバウンド市場と2026年の展望」に関する調査概要
調査実施時期:2025年11月6日~11月21日
調査対象:やまとごころ.jp読者(N=204)
調査手法:オンライン
アンケート回答者属性:

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