インバウンド特集レポート
日本各地で、地域の食や自然、文化を活かしたタビナカ体験の造成が進んでいる。観光庁や自治体の支援事業の後押しもあり、地域ならではのストーリーを持つ体験コンテンツが各地で生まれてきた。
一方で観光の現場では、「作ったものの売れない」「モニターツアー以降、実売につながらない」といった課題も浮き彫りになっている。なぜ体験コンテンツは“作っただけ”で終わってしまうのか。
本記事では、東北を拠点にアドベンチャートラベルの商品造成や観光コンサルティングを手がける株式会社インアウトバウンド東北代表取締役・西谷雷佐氏への取材をもとに、体験コンテンツを継続的に販売していくための4つの視点「商品」「導線」「価格」「販売」で整理する。
「売りたい商品」と「売れる商品」は違う
体験コンテンツの商品づくりを考えるとき、多くの地域が「売りたい商品」と「売れる商品」を同じものとして考えてしまいがちだ。
「まずはこの違いを理解することが重要です」と株式会社インアウトバウンド東北代表取締役の西谷雷佐氏は指摘する。「地域関係者の目線では“これを売りたい”という体験コンテンツがあったとしても、それが”売れる商品”になるとはかぎりません。しかし、売れる商品でなければ、継続することが難しい」
実際、30種類前後の体験商品をラインナップに持つ株式会インアウトバウンド東北で、現在最も売れている商品は、東北6県の各都市で開催している居酒屋ホッピングツアーだ。地元の人がすすめる居酒屋3軒を巡るというシンプルな内容で、気軽に参加できることから、安定した人気を集めている。
一方で、同社が「売りたい商品」として、最も注力して取り組むのは、東北の自然や文化を深く体験し、地域の経済効果に繋がるアドベンチャートラベルである。
「本当はこうした体験をもっと届けたい。でも、居酒屋ツアーのように安定して売れる商品があるから事業が成り立つのです」と西谷氏は語る。
ブランディングの核となる“売りたい商品”と、事業を支える“売れる商品”。 両方の役割を理解しながら商品全体を組み立てることが、持続可能な体験コンテンツづくり及び会社運営のカギになる。
▲同社が最も力を注意で取り組むのが、東北の自然や文化を深く味わえるアドベンチャートラベルだ
「売りたい商品」へ導く導線をつくる
では「売りたい商品」に関心を持ってもらうにはどうすればよいのか。西谷氏は「商品を単体で売るのではなく、複数の体験を用意すること。そして、それらを地域全体のストーリーとしてつなぐ必要がある」と話す。
その一例が、同社が福島市で提案、実施した体験コンテンツのラインナップである。提案したのは「吾妻五葉松をめぐるハイキングツアー」「日本酒やワインなどの蔵元ガイドツアー」「温泉で酒と地場食材のペアリングを楽しむ宿泊プラン」、そして福島駅近辺の飲食店の協力のもと開催した「ふくさけ酒場」の4種類。“最も売りたい”商品であるハイキングツアーだけでなく、参加のハードルが低い酒蔵ツアーや温泉での食体験、さらに駅近で気軽に楽しめる酒場ツアーを組み合わせた構成となっている。
ポイントは、これらの商品がばらばらに存在しているのではなく、福島の地勢に沿ったストーリーでつながっていることだ。吾妻山麓の自然を歩くハイキングツアーから始まり、その水が育てた酒を蔵元で味わい、温泉で地元食材とのペアリングを楽しむ。最後は福島駅前の酒場で “ふくさけ”を飲む。山から里、そして街へ。福島の自然と文化の流れを体験としてたどれるようになっている。
一方で、街の酒場から旅が始まるケースもある。「酒場で飲んだ“ふくさけ(福島の酒)”をきっかけに、『この酒はどんな水でできているのか』と酒蔵や、水を育む山や自然に興味を持つ人もいます」と西谷氏。街から山へと視線が上がっていく、逆方向の導線も成立している。
商品単体の売れ行きに一喜一憂するのではなく、複数の商品を組み合わせて地域のストーリーをつくる。そこに、売りたい商品へ関心を導くための商品造成のヒントがある。
持続可能な価格は「原価」からはじまる
「いくらで売ればいいのか」「高すぎると売れないのではないか」。体験コンテンツの造成に取り組む地域からは、価格設定に関する悩みがよく聞かれる。
しかし西谷氏は、「まず考えるべきは相場ではなく原価と粗利です」と強調する。「体験商品の価格は、必要な経費を積み上げ、関わる事業者への十分な対価を確保したうえで決めるべきです」
ガイドの人件費や移動費、施設利用料などを含めた原価を把握し、そのうえでどの程度の利益を乗せるのかを考える。こうして初めて、事業として成立する価格が見えてくる。「相場がこれくらいだから」と根拠のない価格設定をしてしまうと、利益が出ず、関係者が疲弊してしまう。結果として商品そのものが続かなくなるケースも少なくない。
特に、農家や酒蔵などといった地域の事業者と連携する体験では、適切な対価の設定が重要になる。彼らの多くは観光が本業ではないため、日々の仕事を止めて受け入れる以上、実施頻度はもちろん、それに見合った報酬が必要になるからだ。
「体験商品は地域の人たちと一緒につくるもの。関わる人がきちんと報われる価格でなければ、長く続きません」と西谷氏は説く。
また、ファムツアーやモニターツアーは、地域や体験コンテンツを知ってもらう入口として低価格で実施されることが多い。しかしそれはあくまで認知を広げるための「期間限定の割引価格」として、実際に販売する商品は、原価と利益を踏まえた値付けや、最小/
地域事業者に適切な対価を支払いながら継続できる価格と仕組みを構築すること。それが、体験コンテンツを商品として長く販売し続けていくための前提条件になる。
▲東北各都市で開催される居酒屋ホッピングツアー。同社では継続できる価格として、1人2万2000円で販売する
売るための仕組みを整える
商品を造成しても、それだけでは売れない。体験コンテンツを実際の販売につなげるためには、営業や予約など、売るための仕組みを整えることも重要になる。
例えば、海外バイヤーとのBtoB商談会の場でも、商品の魅力の伝え方は成果を左右する。往々にして見られるのが、売り手が一方的に説明を続けてしまうケースだ。語学に自信がない場合、概要の説明は事前に用意した英語資料や字幕付き動画で補うこともできる。しかし、それだけでは直接対話の機会を十分に活かすことはできない。
対面の商談だからこそ、会社概要だけでなく、自身のことも含めて丁寧に紹介することが求められる。“any questions?” “any requests?” と相手の関心やニーズに寄り添いながら、双方向の対話を重ねていく。その場のやり取りや何気ない会話も含めて、商談の質を左右する要素になる。
「説明(explain)ではなく、相手に応じたコミュニケーションによる体験(experience)を。商談の時点から、“商品の体験”は始まっています」と西谷氏は語る。海外バイヤーの記憶に残る商談にすることが、購買意欲を動かす第一歩になる。
▲商談では、雑談などのコミュニケーションを通じた雰囲気づくりも欠かせない
また、販売機会を広げるうえで見落とされがちなのが予約や決済の仕組みである。たとえばOTAに掲載する場合、予約締め切りが1週間前まででは、旅行中に体験を探す訪日客の需要を取り込むことは難しい。少なくとも数日前、理想的には前日または当日まで予約できる仕組みを整えることで、地方においてもタビナカ需要を取り込める可能性が広がる。
地方に訪日客を呼び込むための工夫
地方の体験商品では、アクセス情報の提示も重要だ。例えば、広島と東京を巡る旅程を考える海外の旅行会社に仙台を提案すると、「東北は遠い」と思われてしまうことも少なくない。しかし実際には広島と仙台の間には直行便があり、フライト時間は約1時間半、1日3往復している。さらに仙台から東京までも新幹線を使えば約90分で移動が可能だ。こうした地方都市同士を結ぶアクセスは、海外の旅行会社に十分知られていないケースも多い。地方都市を結ぶ移動手段を具体的に提示することで、旅行会社は商品を旅程に組み込みやすくなり、販売機会も広がる。
体験コンテンツは作るだけでは売れない。売れる商品と売りたい商品を分けて考え、商品をつなぐ導線をつくり、原価から価格を決め、販売の仕組みまで整える。そうして初めて、体験は継続的に売れる商品になる。
「PDCAよりDO! DO! DO! DO!です。まずはすぐやってみましょう」と西谷氏は、各地で体験づくりに挑戦する事業者へのエールを送る。
▲今回お話をお伺いした株式会社インアウトバウンド東北代表取締役の西谷氏
(写真提供:株式会社インアウトバウンド東北)
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