インバウンド特集レポート
京都は、日本を代表する観光地。インバウンドにも先進的に取り組んでおり、宿泊利用者の外国人率があがっている。京都市が推進する観光施策は、190を超え、ここ最近は誘客数だけではなく、質へのこだわりを前面に押し出している。全国的に2000万人という目標があるものの、その先を見据えた取り組みは、他のエリアにも参考になる。
目次:
京都は世界が認める観光都市に!
人数から質の向上へ施策を打ち出す!
かゆいところに手が届く免税対応のサポート
地域の特性を最大限にいかす!
国宝をユニークベニューに活用する
施策実現に向けた仕組みづくり
京都は世界が認める観光都市に!
京都市は、観光に関するシンポジウムを本年1月31日に、東京のイイノホールで開催した。 世界的に有力な旅行雑誌「TRAVEL+LEISURE」で2014年にWorld’s Best Cityに選ばれ、それ契機に、全国の地方自治体や観光関係者の方々と訪日外国人旅行者に対する「おもてなし」について今後の方向性を共有するという。その第1弾としての開催だ。
檀上で門川大作京都市長は、京都には190を超える観光施策があり、着々と動いているとコメント。
その成果として、京都の主要ホテルに泊まる人は、4人に一人が外国人という状況になっている。
京都文化交流コンベンションビューローの「2015年1月外国人客宿泊状況調査」によると、調査対象の市内の宿泊施設では外国人利用割合は23.5%(前年20.3%)となり、10か月連続で前年を上回ったそうだ。
外国人宿泊部屋数の構成比を国・地域別でみると、1位は台湾(21.9%)だが、前年の25.0%より縮小。2位の中国(15.5%)が13.1%から拡大。3位の豪州は13.1%で前年とほぼ同じだ。通年の7%より需要が高いのは、1月に人気が高まる北海道や長野へのスキー後の観光として、京都を訪れているからだろう。
百度(バイドゥー※)検索における「京都」の検索回数は、日本の都市別ランキングで東京に次いで第2位となり、月間の京都関連検索回数は50万回を超えている。
(※百度は中国で検索エンジンとして最大規模のサイト。中国にはグーグルがないぶん、圧倒的シェアを誇る。)
多くの外国人観光客が京都を訪れるようになり、京都市は、既に次の一手を打っている。観光地としての「質の向上」を目指しているのだ。つまり人数だけを追いかけないという。
人数から質の向上へ施策を打ち出す!
2008年に就任した門川京都市長は、強い課題意識とリーダーシップによって「量の確保とあわせた質の向上」の方向転換を行っていた。
京都市では2000年に、「京都市観光客5000万人構想」を発表し、人数という目標を立てた。しかし2010年に策定した計画では観光の「質の向上」が加わったのだ。
ところで、質の向上とは何だろう。
ここにこそ、観光先進都市「京都」の本質がありそうだ。
「未来・京都観光振興計画2010+5」において、
「質の向上」を実現させる7つのプロジェクトが立ち上がった。これをもとに116の事業を実施した。
祇園界隈は、景観が整備されている
以下、7つのプロジェクトだ。
「暮らすように旅する」
「歩いてこそ京都」
「市民の京都再発見」
「心で “みる”京都」
「観光客の不満をゼロに」
「新たな京都ファン獲得」
「京都の魅力をうまく伝える」というものだ。
例えば「歩いてこそ京都」の具体的な施策として、よりわかりやすく観光案内標識をアップグレードした。合計506箇所を整備(2015年3月末現在)。
「未来・京都観光振興計画2010+5」の進化形として「京都観光振興計画2020 ~世界があこがれる観光都市~」が採択された。2014年10月~2020年度末という計画期間だ。
以下「3つの基本理念」に基いた計画となっている。
―――――――――――――――――――――
1:世界中の人に京都に行きたいという「あこがれ」をもっていただき尊敬される京都を目指します
2:丹精込めた「おもてなし」により、京都を訪れた方々に、多くの感動を届けます
3:市民、社寺関係者、文化関係者、観光関連業界、地元企業、大学・学生、観光客など、京都を愛する皆様とこの計画を共有し、心を一つにして実現に取り組みます。
―――――――――――――――――――――
これまで以上に質の向上にこだわり、感動の先にある「あこがれ」や「尊敬」を持ってもらえる京都を目指すと宣言したのだ。
京都は、ものづくり(物質文化)・ものがたりづくり(精神文化)を培ってきた強みがある。
日本の精神性を体現した上質な文化、奥深さを求めて、世界中から多くの方が京都に訪れるというストーリーを描こうとしている。
京都市では市内総生産の約10%を観光業が占めると推計されていて、観光の振興は、地域内経済への波及効果が大きい。経済を力強くけん引できるとともに、安定的な雇用を創出し、税収増や都市格の向上を通じて市民生活の向上につながるとみている。
そのためには、世界や他の地域の動きも見据えながら、時代に合わせた観光振興に取り組むことが必要だと認識しているのだ。
さて「世界があこがれる観光都市」を目指す191事業の取組をみていこう。
以下4つの柱を軸にそれぞれの事業計画が設定されている。
(1)人づくり、まちづくり
(2)魅力の向上、誘致手法 ~きらめき・いざない~
(3)魅力の発信、コミュニケーション ~ひびき・ひろがり~
(4)MICE戦略 ~つどい~
かゆいところに手が届く免税対応のサポート
さて、4つの軸ごとにみていこう。すべては、網羅できないが、特徴的なことをピックアップした。
(1)人づくり、まちづくり
こちらは66事業があり、そのうちからいくつか紹介しよう。
◆人材面について
地元市民への啓蒙活動が盛んである。
京都市民に京都の歴史や文化の再認識を促し、京都観光の魅力や特性を知ってもらう。「市民の誇り(シビック・プライド)」の醸成・向上に努めているのだ。
京都市民も関心を寄せる京都文化をテーマにしたギャラリーを頻繁に開催
次にガイド制度について。
京都市は、京都の歴史や文化に詳しい通訳ガイドを増やすため、資格取得要件が緩和される国の特区制度の活用を計画している。伝統産業・伝統文化等を説明できる専門性の高い通訳ガイドの育成に向け研修を行い、通訳ガイドの人材バンクを整備する考えだ。
◆免税店拡充について
ショッピングを京都で安心して気持ちよく快適に楽しんでもらうための更なる環境整備を進めている。昨年10月の免税枠拡大を商機ととらえて、様々な施策を進めている。 大阪国税局によると、2014年4月は178店だった免税店の数が、10月1日には334店、そして2015年3月6日には431店(京都文化交流コンベンションビューロー把握)となった。わずか約1年で倍という急増ぶりだ。
まず2014年の4月~5月には、市内商店街、個別商店、商店街組織等へのヒアリングを約30か所実施した。
同年6月には、事業者向け勉強会を実施して、制度改正に関する情報、免税店の資格取得に必要な手続きや制度を解説。
飲食店、宿泊施設、寺院等を含む事業者、商店街関係者にも参加を呼び掛けた。
また、この時期から免税についての相談窓口の設置をした。
京都文化交流コンベンションビューローで担当職員2名を採用し、税理士に監修を依頼し、必要に応じて確認のうえ回答するというもの。
8月には専用ウェブサイトができ、免税事業者と外国人が利用できる構成に。京都市の観光公式サイト「Kyoto Official Travel Guide」に情報がある。
・京都の事業者向け(日本語)には、免税に関する手続きの解説等を掲載。
・外国人観光客向け(外国語)には、日本の免税の仕組み、免税店舗リスト等を掲載。
さらに外国人との対話集なども網羅した。
また、通訳コールセンターを外部委託で設置をした。
商店スタッフと外国人観光客とのコミュニケーションの円滑化を図る。英語、中国語、韓国・朝鮮語、スペイン語、ポルトガル語の5カ国語に対応し、市内の免税店の窓口担当者が専用ダイヤルに電話すると、通訳できるオペレーターが受話器越しに、外国人観光客への免税手続きに関する説明や、質問・注文への回答などを代行してくれる。メールでの問い合わせによる翻訳サービスも行う。
京都市は、市内事業者の不安や疑問を解消し積極的にビジネスチャンスと捉えられるよう支援するとともに、ショッピングの満足度を高める環境を整備している。
これらの取組を通じた買物における環境改善と魅力の向上は、外国人観光客の更なる誘客や消費の拡大につながり、市内事業者への還元、雇用創出の観点からも経済の活性化に寄与すると市サイドは見ている。
西陣のデザインをTシャツなどにいかしたお店。パゴンは外国人にも人気。免税店になっている
また京都市の支援としては、きめ細かいのが特徴だ。
指差し会話集のツール作成はもちろんだが、免税店登録のお店を対象に事業者毎にトレーニングを実施。
京都オリジナルの免税店ステッカーにA4サイズを追加作成もした。これは事業者からの要望に応えるかたちとなった。売り場によって貼れるサイズがまちまちだからだ。また中国語(繁体字・簡体字)、韓国語での表記を追加した。
このように、免税対応のサポートを柔軟に対応していくスタンスがある。
昨年の免税枠拡大の際に必要となった消耗品用免税袋。たまにしか外国人が来店されない店にとっては、在庫管理や備品代が負担になっている。そこで地元の業者が製作。小ロットでも対応するので、小さなお店には役立っていて、その情報を共有している。
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