インバウンドコラム
『小さな会社のインバウンド売上倍増計画 54の「やるべきこと」と「やってはいけないこと」』
著者:村山慶輔
出版社:日経BP 日本経済新聞出版
本書は、観光政策に関する政府の委員を務める第一級の専門家であり、株式会社やまとごころ代表取締役の村山慶輔氏による10冊目の書籍である。16年以上インバウンドに携わる自身の経験や知見から導き出した「小さな会社(1~50人規模を想定)がいかにしてインバウンドを攻略するか」を目的に、「できるだけお金をかけずに成果につながること」、「今日からでもできること」を、わずか54の項目に絞り、的確にまとめたインバウンドビジネスに関する必読書である。
「インバウンドを制するもの、ビジネスを制す」格言とも言えるメッセージで本書は始まる。その理由は明解である。「加速する人口減少と膨らむ世界」の現実を真剣に受け止めれば、縮小していく国内マーケットが頭打ちになることは目に見えている。それに代わる伸び代のある市場の一つがインバウンドである。さらに、「既存客・常連客とインバウンドは共存以上の関係が成り立つ」と著者は断言する。「既存客や常連客に支えてもらい商売の土台をつくり、成長・利益をインバウンドから獲得する」というバランスが重要なのである。まさに、本書のタイトル「売上倍増計画」である。
第1章では、著者の経験に基づいた成功例がフィクションのストーリー仕立てで語られていく。廃業寸前の老舗の旅館、地方のビジネスホテル、レストラン、地方の土産物店、新規ビジネスに参入したい体験事業者が、売り上げの倍増に見事成功。この時点では半信半疑な読者も、読み進めるにつれ、それが事実であり、この戦略が正攻法であることを確信するだろう。以降の章では、54項目の「やるべきこと」と「やってはいけないこと」が示され、実際に成功した宿泊施設、飲食店等が具体名で説明されていく。とりわけ、第2章「小さな会社は“自己分析”をしてはいけない」と3章「ターゲット市場は絞りすぎてはいけない」は、インバウンドに精通していない事業者が陥りがちな点であり、私自身、欧米マーケットを取り扱う旅行会社でツアーの造成、手配を手がけてきた経験からも、大変共感する内容である。
4章「売れる商品・サービスの作り方」と5章「効率的な集客方法」で述べられる19項目を重点的に取り組めば、必ず成果が出るはずである。顧客のニーズを理解し商品に反映すること、グーグルマップやQRコードのちょっとした工夫など、予算をかけずに今すぐできることがたくさんある。その後、6章と7章の項目を実践することで売上倍増に直結するだろう。
著者は、インバウンドのニーズは小さな会社の「独自性」にこそあると考える。なぜなら、本物志向の旅行者は、その地域・会社ならではの価値を求める傾向にあり、それこそが小さな会社の強みとなるからである。私も強く同意する。
最後に、改めてこの言葉で締めくくりたい。「インバウンドを制するもの、ビジネスを制す」
文:渋谷武明
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