インバウンドコラム

駐日ジョージア大使から見た日本の魅力と課題を深い洞察で紹介『日本再発見』

2025.01.22

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『日本再発見

著者:ティムラズ・レジャバ / 出版社: 講談社

 

 

駐日ジョージア大使が語る「日本の旨味」

本書は、日本とジョージアの架け橋として精力的に活動されるレジャバ駐日ジョージア大使による日本を良く知るための案内書であり、大使の思いは以下の通りだ。

「外側から見た日本の姿を知りたい日本の方には『ああ、あれは日本独特のものだったのか』と改めて発見して頂きたいですし、日本に関心のある日本人以外の読者の方には、日本文化の本当の入門書のひとつとして、観光しただけではなかなか分からない日本の旨味、良さをお伝えしていきたい」

大使の家系は何と4代にわたって日本と深い縁で結ばれており、日本への愛情と深い洞察が本書に詰まっている。「日本の旨味」と述べていることに注目してもらいたい。旨味は酸味も苦みも含む。本書は日本礼賛書の類ではなく、客観的な立場で日本の複雑さや問題点の指摘も含み、気づかされる点が多い。インバウンドビジネスや観光を通じた地域づくりに関わる人には、以下の観点を意識しながら読み進めることで、様々なヒントが得られるだろう。

・日本人が日本の魅力・自分の住む地域の魅力を再発見すること
・海外の人々が思い描く理想の日本のイメージと現実の日本のギャップ
・限られた滞在時間で訪日旅行者に日本の魅力を伝え、日本のファンを増やしていくか

 

日本人の知らない「日本」を学ぶ

1章では日本の伝統文化に触れ、とりわけ日本文化の最も洗練された形が皇室行事であるとしているが、自身の体験に基づくその鋭い観察眼には驚かされる。空間設計、秒単位で計算された段取り、飾らないシンプルさ、皇居で用意されるお土産のお菓子に関する芸術論、写真撮影や音楽に関するおもてなし論等々、多くの日本人は知り得ない内容ばかりだ。静と動の振れ幅、自然と人間との調和を演出する工夫、引き算の美学など、日本人でも説明が難しいことを大使が言語化してくれることで、日本人自身が日本文化を味わう方法を教えてくれる。

2章から4章は、幼少期、学生時代、就職までの体験を通じた日本文化論が繰り広げられる。「普通の人」のレベルが普通でない国が日本であり、どんな職種、役職であっても高いプロ意識を持っているのは、日本特有のことだという。明文化された契約がなくても、言ったことはすべて守るという価値観に厳格なところや、お金にならないことにも最大限パワーを注ぐ点も驚くべき日本人の特徴だという。欽ちゃんの仮装大賞であっても、子供のPTAでも時間をかけて、かなり細かいところまで丁寧にやる。とても複雑で外国人にとっては難解なほどのルールを徹底的に守る。ジョージア人はみな日本の街の清潔さに驚くが、極め付きは「日本ではゴミさえ抱きしめられる」という大使の妻の発言だ。いずれも、日本人は社会での行いのレベルが非常に高いということだ。

食文化に関する5章では、ラーメンとジョージアワイン作りの共通点や、お弁当は家庭の味を詰め込んだ小宇宙など、どれも自身の経験談を踏まえた日本文化論が展開されていく(ちなみに、大使はジョージアの伝統的なワインを飲む儀式を茶道と比較して、ワイン道と称している)。最終章で語られる、日本が変わるためにやるべき事という提言もしっかりと受け止めたい。

 

激動の時代に観光が担う役割、1人ひとりに求められることは?

幕末から明治にかけては、日本の社会や価値観が大きく変化するなかで、ブルーノ・タウト、アーネスト・フェノロサ、小泉八雲、等々による日本再発見があった。世界情勢が混迷し、気候危機、経済格差等々、様々な問題を抱える現代は、新たな時代への変革期である。ツーリズム産業に従事する人は、観光を通じた異文化交流によって、より良い社会の実現が可能である。それを気づかせてくれるのが本書・日本再発見である。最後に、レジャバ大使の言葉を引用して終わりたい。

「激しく動く世界情勢の中で、今後もほかの大国に振り回されず、ブレずにしっかりと振る舞い、存在感を発揮してほしいと思います。(略)日本に住む皆さんが日本のアイデンティティを見つめ直し、深い歴史を持つ文化・伝統に愛着と自信を持つことが必要だと私は考えます。(略)自分たちの歴史、文化、強み、価値を深く理解しているからこそ、ほかの国や地域がそれぞれに持つ価値の独自性を理解・尊重し、お互いに活かし合うことができるのです。(略)国民ひとりひとりの行動が大切なのです」

文:一般社団法人JARTA 渋谷武明

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