インバウンドコラム

100年後も残るための、持続可能な観光地域づくり必読書『ヒストリカル・ブランディング 脱コモディティ化の地域ブランド論』

2024.07.03

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『ヒストリカル・ブランディング 脱コモディティ化の地域ブランド論』

著者:久保 健治
出版社:KADOKAWA/角川新書

 

本書におけるキーワードは、「脱コモディティ化」「負けないための競争」であり、そのために「歴史」を活用した地域ブランドの確立が有効であると説く。その方法をヒストリカル・ブランディングと呼び、地方の具体例とそれを支える理論によって、すぐに行動を起こせる実践の書となっている。

 

模倣できない「歴史」を武器に、他地域との差別化を

著者は想定とする読者として、「もし、あなたが手っ取り早く短時間で金銭的に儲かる方法に興味があるのならば、本書はその期待には全く応えられない。しかし、時間はかかっても良いので、100年後にも残る地域になりたいと思うなら、是非読んでほしい。歴史が大きな武器になることを実感できるはずだ」と断言する。そのため、持続可能な観光や地域づくりに関心がある人にとっては必読書だ。

地域ブランドとは、1.地域そのものである地域空間と、2.地域にある産品・サービスといった地域商品の2つに分類され、相互作用によって構築されていく。

もし、読者の地域にすでに観光資源があれば、1章「北海道小樽の運河」と2章「千葉県佐原の大祭」、地場産業があるのなら4章「千葉県横芝光町の大木式ソーセージ」、あまり観光らしい資源も地場産業もなければ5章「熊本県菊池市の菊池一族のファンコミュニティによるブランディング」を読んでみることをお勧めする。地域の人たちの郷土愛、努力と工夫、生きざまが伝わってきて、共感できる部分が多いはずだ。そして何かピンとくるものがあれば、理論的背景の章をじっくり読み理解を深め、周囲への働きかけや説得、あるいは自身の勇気を奮い立たせるものとして活用できるはずだ。地域ブランドの観点から、具体例と理論が交互に展開されるので非常に説得力があり、今後の観光の在り方を考えるうえで、気付かされる点が多い。

では実際に、自分事としてどのように地域ブランドを成功させられるのか。著者はその理由を次のように述べる、「方法は1つではなく、無数にあるが、地域において最も注目されているものの1つが歴史である。今や、観光や地方創生分野において歴史的資源の活用という言葉は必ず出てくる。皆さんの中にも、実践している人も多いだろう。なぜコモディティ化を解決する方法になるのだろうか。言い換えれば、なぜ差別化を実現する方法として歴史の活用が重要なのだろうか。それは、次の一言で表現することができる。歴史は模倣できない」からだ。

 

小さな「ブランド」の集積が、巨大ブランドに負けない価値に

最後に評者の感想を述べて終わりたい。過度な資本主義社会の限界として、脱成長論をよく耳にする。Win Win or No Deal(自分も勝ち相手も勝つ、それが無理なら取引しないこと)という方法も、持続可能な観光においては、有効だと思う。しかし、本書では、「負けないための競争」は、同じ価値基準の優劣差異を競うものから、新たな価値基準の構築によって、分類差異を競うことができ、勝者が敗者を駆逐するのではなく、むしろ共創を生み出す可能性を有すると述べる。

そして、大きなブランド群を強化するという意味では統一されているが、それぞれの価値を前面に押し出そうとするので、ブランドの中に多様性が生まれ、こうした競争的環境の中での協調が実現すると、多様性を武器にして、単一ブランドでは獲得できない需要を獲得できるようになる。小さなブランドであることがメリットになるのだ。グローバル化が進む状況下、一部の巨大資本ブランドへの過度な一極集中が進み、多くの中小ブランドは危機に陥っている。地域におけるビジネスは、その危機の最先端にいるといってもいい。だからこそ、地域ブランドが示唆する「負けないための競争」は、各企業の多様性を保持しながらも、全体としてはグローバル・ブランドに対抗するという新しい道を示している。これこそが、持続可能な観光を推進するうえで、地域や地域の中小企業が主体となり活躍するために目指す方向性だ。

文:一般社団法人JARTA 渋谷武明

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