インバウンドコラム
『データでわかる2030年 雇用の未来(日経プレミアシリーズ)』
著者:夫馬賢治 / 出版社:日経BP
日本人の知らない21世紀の産業革命
衝撃的なプロローグで本書は始まる。「私たちの社会は大きく行き詰っている。その結果、2030年に新たな産業革命が世界中で始まる。その産業革命の規模は、18世紀後半から19世紀にかけてイギリスで始まったかつての産業革命を超えるものになるだろう。(中略)だが、いまにも始まろうとしている新しい産業革命を前に、あまりにも私たちは無防備だ。ほとんどの人はこれから産業革命が始まろうとしていることにも気づいていない。この状態で、日本社会が産業革命時代に突入していけば、私たちは時代の変化に適応できなくなってしまう。そうなれば、産業は弱体化し、雇用は失われ、そして経済は落ち込み、社会は衰退していくだろう。(後略)」
本書は、サステナビリティ経営の第一人者・夫馬賢治氏の最新刊だ。これまでの著作と同様、今回も豊富な情報源と最新のデータを駆使し、長期的な視野で示唆に富む分析、鋭い視点が凝縮している。ツーリズム産業に従事するすべての人に本書を手に取ってもらい、激動の現代社会、激変していく未来を生きていくための智慧を育んでほしい。
21世紀の産業革命はすべての職種に影響する
本書の構成は、世の中の職業を12種類に分類し、気候変動対策、AI産業革命等々によって影響を受ける内容を、各章で職業別に説明していく。ツーリズム産業の中心となるサービス職業従事者については7章で扱われており、キーワードを以下に提示する。読者の多くが現在抱えている問題ではないだろうか。
・深刻化する日本の人手不足
・追い打ちをかける「2030年問題」と「2035年問題」
・労働生産性を上げるという解決策
・過労死とワークライフバランス
・上がらない労働生産性
・ICTで労働生産性が上がった業種、上がらなかった業種
・ICT活用のために日本企業が導入してきた情報システムの多くは、各事業部が既存の業務フローに合わせて個別に開発したことが原因で、会社全体でのシステム統合が難しくなっている
・「2025年の崖」で見込まれる年12兆円の経済損失
・技能伝承クライシス
・外国人労働者という選択肢
・労働生産性向上から新たな労働力確保へ
・職場での価値観を転換できない企業は存続できない
産業革命時代の幸福な生き方
これから起こる変化を悲観するのが本書の目的ではない。「いま、政府にも、企業にも、そして私たち一人ひとりにも必要なことは、すでに始まりかけている産業革命の内容を理解し、将来の雇用の大転換に備えていくことだ」、そして「世の中を持続可能にするための21世紀の産業革命は、イギリス産業革命以上に大義がある」。著者のこうした力強い主張をしっかりと受け止め、行動を起こすべきだ。
本書の最後で、産業革命時代の幸福な生き方(ウェルビーイング)について述べているので、評者の意見を提示して終わりたい。ウェルビーイングとは、身体・精神・社会のそれぞれの観点で良好な状態でい続けるということを指し、以下の4つの因子のうち満たしている数が多いほど、幸福を感じられるという。
1. 自己実現と成長の因子(やってみよう因子)
2. つながりと感謝の因子(ありがとう因子)
3. 前向きと楽観の因子(なんとかなる因子)
4. 独立とあなたらしさの因子(ありのままに因子)
これらはすべて旅を通じて実現できる。ツーリズム産業に従事する私たちが、21世紀の産業革命で果たす役割は大きいはずだ。
1.旅に出ること
2.旅を通じて体験する事
3.旅を通じて学ぶこと
4.自分の旅のスタイルの確立
文:一般社団法人JARTA 渋谷武明
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