インバウンドコラム

東大生が徹底調査、日本の魅力再発見に役立つ『外国人しか知らない日本の観光名所』

2024.09.25

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『外国人しか知らない日本の観光名所

著者:東大カルペ・ディエム / 出版社: 講談社

 

 

「最近外国人とすれ違うことが多いのよ。見知った人しか歩かない住宅街なんだけど」と、知人が驚きの表情で話してくれたのは、半年前のことだ。彼女は続けて言った。「近所の豪徳寺が目的地のようだけど、招き猫が人気なのかしら」

訪日外国人が何に興味を持っているかに、興味が尽きない評者は、その数日後に豪徳寺を訪れることにした。最寄り駅に着いたのは午後3時過ぎ。お寺までの道で、14、5名の外国人とすれ違う。正門から境内に入り、歩いてみると、ほとんどの訪問客が、整然と鎮座する招福猫児の周りにいた。50名くらいだろうか。99パーセントは外国人だった。

前置きが長くなったが、本書の紹介に移ろう。日本人が意外に思ったり、想像し難いコンテンツが、外国人の心を掴んでいるという事実を知るのに役立つ一冊だ。冒頭で挙げた豪徳寺は、本書によると「東京でも屈指の隠れ観光地の一つ」である。

 

海外メディアが注目する観光地には意外な場所がたくさん

日本全国47の都道府県から56カ所が厳選されており、それぞれが、「概略紹介 / 人気の理由 / 注目ポイント」に分けてまとめられた上で、3ページ以内に収まっている。そのおかげで、非常に読み進めやすい。著者の東大カルぺ・ディエムは、ご存知の読者もおられると拝察するが、西岡壱誠氏を代表として、2020年に結成された東大生集団である。本書の巻末には、執筆協力者として17名の氏名が列挙されており、多様な視点からの編纂が成されたことが伺える。

読んでみてまず気づくのは、海外のメディアで取り上げられた名所が多いことだ。また、名所を訪れた外国人が撮影した動画や写真を投稿したSNSが、多くの耳目を惹きつけたというケースも多い。外国人が、聖地だと言ってこぞって足を運ぶ場所も掲載されているが、それらが、実は海外で制作され上映された映画やドラマのロケ地であれば、日本に住む日本人の想像が及ばないのは当然かもしれない。

 

訪日客を魅了する、多様な自然とアートの融合

アート関連の施設も目立つ。多様な樹種に恵まれた日本の自然は、季節の移ろいに応じて、その姿を変えていく。訪れるたびに、新たな出会いに心弾む時間を過ごせる施設は、自然の風景と調和を保つのはもちろん、訪問者自身がアートの一部になるような工夫が施されている。日本国内では、毎年どこかで芸術祭が開かれて活況を呈しているし、都内のチームラボボーダレスの訪問者は、半数が外国人だというデータもある。島根県にある足立美術館の庭園が、米国の専門誌で20年以上連続で日本一に輝いたことは有名だが、芸術的側面からも魅力的な名所は多いのだと、あらためて感じ入る。

猛暑が続いた夏を見送りつつ、冬の雪などで注目される北海道に触れておこう。本書では、ニセコを始めとして、4カ所が紹介されている。ニセコに行くと「ここは日本だろうか」と思うほど外国人が多いが、シルキーパウダースノーという雪質の良さを最初に広めたのは、観光客として訪れたオーストラリア人だ。地元の人には当たり前すぎるのだろう。ただ、雪がある冬だけでなく、夏にも観光客が楽しめることをつくり出したのは、地元の人であり、この多様性がニセコの魅力でもあるといえる。ニセコの多様性については、デービッド・アトキンソン氏の『新 観光立国論』に詳しい。日本の気候や自然の多様性が備える可能性を探る章は、論旨明快で示唆に富んでいる。考察を深めたい向きには、併読をおすすめしたい。

文:全国通訳案内士 鈴木桂子

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