インバウンドコラム
著者:島崎 秀定 / 出版社: 文芸社
意外と知らない、日本の魅力を世界へ伝える「通訳ガイド」とは?
日本語を覚えるために、日本で自転車旅をするという外国人について、あるテレビ番組で見たことがある。その番組は、来日する様々な外国人の行動を、インタビューを交えながら報じるものだ。他にも、日本各地を旅する外国人が、どんな体験をし、何をお土産に買って帰るのかなどを伝える番組もある。訪日客の動向を、メディアを通して詳しく知る機会が増えてきた。
日本政府観光局(JNTO)の最新の発表によれば、10月時点で訪日外国人の累計数が3019万2600人と、過去最速で3000万人を突破する結果となった。注目される観光地だけでなく、意外な名所で外国人を見かけることも珍しくなくなった現状は、データでも明示されているということだ。
増えている訪日客に関する情報に比べれば、その外国人に付き添い、日本を案内する「通訳ガイド」の情報が着目される機会は少ないかもしれない。本書の主人公美桜が従事するこの「通訳ガイド」という職業について、下記で少し紙幅を費やして紹介しよう。
「通訳ガイド」は、国家資格のひとつである「全国通訳案内士」の通称だ。通訳案内士法第一章第二条において「報酬を得て、通訳案内(外国人に付き添い、外国語を用いて、旅行に関する案内をすることをいう)を行うことを業とする」と定められている。「外国語」の種類は、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語の10種類に及ぶが、英語の登録者が全言語の約7割を占めているのが現状である。通訳ガイドとして就業するためには、毎年1回実施される国家試験に合格し、居住する都道府県に登録することが必要で、その後も、5年に1度、観光庁が登録した研修期間が実施する研修を受講することが義務付けられている。
細やかな描写が魅力、通訳ガイドへの理解が深まる一冊
2024年4月1日現在の、全国通訳案内士の言語別延べ登録者数は2万7590人。本書の著者である島崎氏は、アメリカとフランスで1年ずつ学んだ経験や、経営コンサルティング会社、海外旅行の企画・添乗などで得た多くの経験を活かしながら、2009年末より通訳ガイドとして活動しておられる。 自身の経験や得意分野を、存分に活用した異文化交流を可能にするのが、この資格の魅力のひとつなのだ。
本書では、通訳ガイドとして働く美桜の奮闘ぶりが描かれているが、これは島崎氏が「実際に体験したことからイメージを膨らませて創作」した内容だ。様々な外国人観光客との交流を通して成長していく美桜の様子が、実に念入りな描写で描かれている。島崎氏が、現場できめ細やかな心配りに満ちた仕事をしておられるからこその賜物であろう。目で字を追いながら情景を思い浮かべ、登場人物に感情移入し、人生の糧となるような心の機微を感じる、という小説を読む醍醐味も感じる一冊である。読後に、通訳ガイドについて更なる興味を抱かれた方には、島崎氏の筆による『通訳ガイドというおしごと』(2016年)も合わせてお薦めしたい。私淑する大先輩である島崎氏の著作について、書く好機に恵まれたことに深く感謝をしつつ、このあたりで筆を擱くことにしよう。
▼関連情報
文:全国通訳案内士 鈴木桂子
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