インバウンドコラム
著者:林 菜央 / 出版社: 朝日新聞出版
世界遺産が担う地域活性化
屋久島、姫路、京都などで世界遺産登録30周年を記念するイベントが2023年から相次いで開催された。この先も広島、沖縄、島根などで周年行事がみられるであろう。1972年に採択された「世界遺産条約」に、遅れること1992年に日本が加入し、その翌年から日本各所が認定されるにいたったからだ。そのような節目を各地で迎えるにあたって、読んでいただきたいのが本書である。
2010年代からの日本の空間再編は、大都市部のメガイベントや再開発と、それ以外の地域の人口減少対策の両輪で進められた。前者は、2021年の東京五輪(2013年に招致決定)と2025年の大阪・関西万博(2018年に開催決定)などであり、後者は2014年に発表された「増田リポート」(中公新書『地方消滅』)を契機として政府が重要課題とするにいたった「地方創生」である。メガイベントについては、札幌での冬期五輪開催が非現実的となり、日本で今後どのようなものが可能なのか不透明である。一方で、地方創生については、現在まで試行錯誤が続けられており、そのカギとして観光への期待が高まる結果となっている。
観光事業者が知っておきたい世界遺産のシステムについて学べる
世界遺産という制度は、日本の観光政策の柱である「地方を中心としたインバウンド誘客」と「国内交流の拡大」をもたらすものと考える人も多いだろう。本書には、日欧で古代史や開発学を学んだ後にパリ・ユネスコ本部で20年以上にわたり世界遺産の実務を主導している日本人によって、「そもそも世界遺産とは何か?」「どのように選定され、登録されるとどのようなメリット・デメリットがあるのか?」「世界遺産(あるいはそれに準じる国際認証)を地域活性化の最終兵器として期待する前に知っておくべきこと」などが、記されている。また、日本が世界遺産の認定・保護に果たしてきたこと、それゆえに期待されていること、そして、私たち一人ひとりに求められていることも論じられている。
日本では、観光が自動車産業につづく輸出産業となっており、全国各地の特徴や魅力を世界に伝えることがますます重要となっている。そして、専門知識を持ってグローバルな現場の前線に立つ著者のような人材が、日本から数多く羽ばたき、さらに観光分野で活躍することが必要とされている。その意味で、将来のキャリアを考える人々にも読んでほしい本である。
文:神戸大学准教授 辛島理人
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