インバウンドコラム

ホスピタリティの言語化、サービス業課題解決のヒントに『スーパーホテル「マニュアル」を超えた感動のおもてなし』

2025.04.09

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『スーパーホテル「マニュアル」を超えた感動のおもてなし

著者:原 良憲、嶋田 敏、星山 英子
出版社: かんき出版

 

本書は、おもてなしを価値化し、収益にインパクトを与える無形資産と捉え、優れたものにしていこうとする、スーパーホテルと京都大学経営管理大学院による共同研究の記録である。研究の過程から得られた知見は、広くサービス産業全体の生産性向上に寄与すると期待されている。直接サービスの現場に携わる人はもちろん、人材育成に関わる人にも、ぜひご一読いただきたい。

 

スーパーホテルの感動を生み出す「おもてなし」の言語化

綿密なマニュアルもなく、スタッフの8割がアルバイトというスーパーホテルの実態と、ビジネスホテル業種Standardクラス第1位[2024年度JCSI(日本版顧客満足度指数)第3回調査結果発表]の座を結ぶ特色は、いかにして生み出されるのか、本書の一部をみていこう。

おもてなしを、再現可能な形式知化することが、本書における共同研究の明確な課題である。ここで「形式知」とは、「明文化・言語化された客観的な知識」を指す。マナーと呼ばれるものは、その好例だ。「会釈の場合は上体を15度くらい倒し、お詫びの場合には45度を目安に上体を倒す」、あるいは「お詫びの時は10秒下げ続けなさい」と具体的に言われれば、共通の理解として受け入れやすく、誰でも同じように行動できる。

本来、おもてなしは、形式知の反対概念である「暗黙知」とされている。「個人個人の経験や勘、感性などに基づく、簡単には言語化できない知識」だから、再現性や普遍性には馴染まない。辞書的には、おもてなしは「心のこもった接遇や歓待、サービス提供などを行うこと」であるが、特に「心のこもった」は、言語化された具体的な知識として定義することは、難しい。誰もが同じ解釈をすることが難しいので、結果的にサービスのばらつきをもたらすことになり得る。

共同研究において、おもてなしを形式知化するということは、言語化を可能にするということだ。言語化が可能になれば、手順を「見える化」することもできる。優秀なスタッフによる優れたおもてなしの再現性が担保されると、新人のスタッフでも実践可能になり、サービスのばらつきが解消される。

 

観察と想像力で最高のサービスを

共同研究では、定点カメラを設置したり、スタッフの声をボイスレコーダーに録音したりして、優秀者と標準者のふるまいの違いに着目した。ひとつの違いを挙げると、観察ポイントの多寡である。優秀者は、お客様が入店された瞬間に、表情・しぐさ・服装や荷物の大きさを確認する。荷物が大きい場合には連泊のお客様かもしれないと想像し、館内案内にコインランドリーの説明を加えるといった配慮を行う。優れたおもてなしには、お客様観察と想像力が欠かせない。この知見は、「観察力・想像力を養う教育プログラム」というワークショップの導入につながり、スタッフが優れたおもてなしをするための、スキル向上に役立てられている。

研究は「サービスの最適設計ループ」として継続中だ。共同研究で得た知見を実践展開し、その結果を再び共同研究に反映させることで、新たな知見を獲得し、さらなる実践へと繋げていく…というように、このループは進化し続ける。スーパーホテルは現在、国内主要都市と海外に、合わせて約170店舗(2024年3月現在)ある。学術的な視点を伴う共同研究は、その強固な礎であろう。本書でその本質を読み解き、読者ご自身の躍進につなげていただけると本望である。

文: 全国通訳案内士 鈴木桂子

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