インバウンドコラム
コロナウイルスの感染拡大は世界的に大きな影響を与えています。中小企業が8割を占める観光業界も人の移動が停止し大打撃を受けていますが、そんな状況下でも観光事業者が「今」着手できることは何か、またアフターコロナに向けての取り組みを紹介します。今回は、徳島県三好市で(一社)大歩危・祖谷いってみる会の会長を務め、自身でも同地域で宿を経営する植田佳宏氏に話を聞きました。
—現在の取り組み全般、事業概要について教えてください。
(一社)大歩危・祖谷いってみる会は「100年後も美しい大歩危祖谷であるために」を理念に2000年に立ち上げました。
当時、四国4県を直結するエックスハイウェイが開通し、徳島県の大歩危祖谷地区が宿泊の伴わない通過型観光地になるのではという危機感があったこと、また、地域のホテル1社による大手旅行会社や航空会社への営業活動にも限界を感じていました。そこで、大歩危・祖谷地区のホテルを運営する5社が一致団結して地域を売っていこうと活動を始めたのが、設立のきっかけです。
ホテルを運営する正会員5社に加え、交通事業者や小規模のゲストハウスなど31社の観光関連事業者に賛助会員として加盟していただいています。現在は、地域のDMC(Destination Marketing Company)として、官民で観光戦略を練るシンクタンクとして情報収集や発信活動などプロモーション活動に注力しています。
インバウンドについては2007年頃から取り組みを開始し、香港や欧米豪などをメインターゲットに捉え、以来、地道に営業活動などを続けています。
—新型コロナウイルスの感染拡大を受けての現在の観光客、訪日客の状況を教えてください。
大歩危・祖谷地域は、世界50カ国からの来訪があり、インバウンド比率は25%程度です。そうした中で海外からの来訪がほぼ止まり、国内客も急ブレーキがかかっているのが現状です。会員ホテルへの聞き取り調査結果、同地域への宿泊客は3月で対前年比30%減、4月以降は50%以上で、なかには80%減という施設もあります。それ以降も予約キャンセルが出ているとの声もあり、さらに状況は深刻です。なお、3月はインバウンド客の利用もわずかながらありましたが、4月以降はほぼゼロという状況です。
また、大歩危・祖谷いってみる会にはタクシー会社や観光施設、酒蔵などの賛助会員もいますが、宿泊客減の影響がこういった事業者にも広がり、その影響は多岐にわたってきています。
—コロナウイルスによるお客様減少を受けて始めた取り組みはどのようなものがありますか。
会員企業を中心とした地域の清掃活動:
大歩危・祖谷いってみる会の会員や賛助会員企業、三好市、観光協会、地域のDMOである一般社団法人そらの郷、県民局の方たちなどで、日ごろお世話になっている場所に感謝の気持ちを込めて清掃活動を始めました。
1回目は3月27日に開催したのですが、このときは、JR四国の社長はじめ社員の方々など総勢60名近くの方が集まり、JR大歩危駅周辺の清掃活動を行いました。2回目は、4月6日、かずら橋周辺を中心に50名ほどで実施しました。まずは4回開催し、以降は変化する情勢を見つつ決める予定です。
徳島県内、近隣県からの近場プランの造成:
今はインバウンド客や国内の都市部からの誘客が難しいゆえ、県内や四国など近場の方にゆったり過ごしてもらえるようなプランの造成を検討しています。県内や四国の方が近隣の観光地に足を運ぶことは少なく、大歩危・祖谷地域にも目を向けていただけるチャンスです。ただ、移動の自粛要請が出ていることもあり、今後の状況も見ながら柔軟に対応する予定です。
地域の料理人向けのメニュー開発研修会:
大歩危祖谷温泉郷の各宿泊施設のシェフを対象に、地元の食材にこだわったメニュー開発の研修を行いました。
料理番組に数多く出演されている堀知佐子さんを講師に招き、掘さんのアイディアをもとに、地元の食材を使った料理を4品開発しました。今後は、「千年の饗膳」という名称で、各宿泊施設でメニューに組み込んでいく予定です。
—観光客の需要回復時に向けた取り組みや、今検討していることはありますか。
官民一体プロジェクトチームの立ち上げ 変化する状況にスピード感を持って対応
これまで以上にスピード感を持って取り組めるメンバー構成で、官民連携のプロジェクトチームを立ち上げました。
三好市、観光協会、徳島県民局、DMOそらの郷、大歩危祖谷いってみる会のメンバーで構成し、先日第1回目の戦略会議を開催しました。
年度変わりに伴う異動で行政の担当者が変わったため、改めて今後取り組むこととその役割分担を決めたほか、今後は、1. 現況でできること、2. 終息が見えてきた際にできることの準備、3. 終息後のスタートダッシュの3ステップに分けて、今後具体的な内容を詰めていきます。
時間ができたいま、地域の魅力を再発掘できる絶好の機会として活用
戦略会議の中で具体的に決まったことの一つに、観光地を回る研修があります。
最近は、地元ではないスタッフも増えていますが、普段は家と勤務地の往復で観光地を回る機会がないため、時間ができた今だからこそ、地域のことを深く知ってもらう機会にします。
それ以外でも、プロモーションの際に使用するタリフや動画、パンフレット等の整理やガイド養成など、営業活動ができない今だからこそ、着地の整備に特化して取り組む予定です。
特に、タリフやパンフレットなどは複数のツールが乱立しており、担当者によって違った説明をしているケースもあります。これを機に今持っているツールを見直し、情報の取捨選択、アップデートをして、共通の認識が持てるように整えていきます。
なお、これらの中には費用がかかる取り組みも多数ありますが、地域全体の取り組みとして、行政の支援を得ながら実践していきます。
—同じような状況にある観光事業者の方たちへ一言メッセージをお願いします。
新型コロナの影響は甚大ですが、まずは資金繰りで自らの会社と社員を守ること、そしてこれまで忙しくてできなかったことをリストアップし着実に実行することが大事です。また、観光は近隣の施設や行政との関係も大切です。この時期は、行政の力も借りながら、まずは地域内で今やれることなど、知恵を出すことです。苦しいのは皆同じですので、反転攻勢の機会を待って準備をしっかりやる時期だと思います。その時は必ずやってきますので、その際はもう一度観光立国日本を目指しましょう。
(執筆:植田佳宏氏、取材 編集:堀内祐香)
一般社団法人大歩危・祖谷いってみる会 会長 植田佳宏氏
香川県高松市出身。航空会社勤務を経て、家業である和の宿ホテル祖谷温泉を継ぐ。以降、大歩危・祖谷地域全体を盛り上げようと2000年「大歩危・祖谷いってみる会」を立ち上げ。2019年に一般社団法人化。
やまとごころ編集部では、新型コロナウイルス拡大による大打撃のなかでも、「今」着手できることや、アフターコロナに向けて準備する観光事業者の取り組みを募集しています。
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