インバウンドコラム
東南アジアではタイを筆頭に、ワクチン接種完了を条件に国境を再開し、観光キャンペーンを展開するなど外国人観光客を呼び戻す動きが加速している。こうした「開国」の動きに伴い、2022年3月にASEAN主要6カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)から日本を訪れた旅行者(推定値)も2万2900人に上り、前年同月比23倍となった。今回は、インバウンド、アウトバウンドともに活発化している東南アジアのベトナム、マレーシア、フィリピンの動きを紹介する。
ベトナム、3月15日から国境再開。国内観光需要も好調
ベトナムでは3月15日より、外国人観光客の受け入れを再開し、国内の規制も緩和されたことから観光需要が急増している。コロナ禍で大幅な人員削減を行ってきた旅行業界は人手不足が深刻化し、再び人員を取り戻すために奔走しているという。
ベトナムは新型コロナウイルスの流行初期から厳格な規制を敷いてきたが、その反動もあって最近では国内観光需要が高まり、国内線はコロナ前の状況に戻りつつあるようだ。リベンジ旅行先で人気なのは、外国人にも人気の高いベトナム南部のフーコック島。この地のマンゴー・ベイ・リゾートは、米国の2大旅行雑誌の一つ『トラベル・アンド・レジャー(Travel + Leisure)』で、「世界で最も美しいジャングルホテル14選」に選ばれている。
一方、同じく国境を再開した東南アジアの周辺国に比べると著名な観光地が少ないベトナムは、外国人観光客の誘致で苦戦を強いられており、本格的にインバウンド需要が回復するのは今夏以降との見方も強い。新型コロナウイルス流行前の2019年にはインバウンド客数が過去最多の1800万人を記録したが、2022年は500〜600万人程度に留まる見通しとなっている。こうした中、南中部沿岸地方ダナン市では、4月〜6月までに同市を訪れる外国人観光客に対し、SIMカード約5万枚を無料で提供する「エンジョイ・ダナン」プログラムを実施し、インバウンド誘致に積極的に取り組んでいる。
ベトナムでは、2月以降にオミクロン株への感染が急拡大し、3月のピーク時には新規感染者が20万人を越える日が続いていたが、現在は1、2万人程度にまで減少している。ベトナムへ入国する際は、渡航前72時間以内に実施したPCR検査、または渡航前24時間以内に実施した抗原検査の陰性証明書を提示すれば、入国後の検査も隔離も不要。ワクチン接種の有無や回数は入国の条件に規定されていない。
マレーシア、4月1日からインバウンド再開。年内200万人の誘致掲げる
マレーシアは4月1日より、新型コロナウイルスのワクチン接種完了を条件に、外国人観光客の隔離なしでの受け入れを再開した。ただし、渡航前48時間以内と、入国後24時間以内に新型コロナウイルス検査を受ける必要がある。マレーシアのイスマイル・サブリ首相は3月8日に、「4月1日からこの国はエンデミック(風土病)への移行段階に入る」と宣言している。マレーシアは2025年に外国人観光客を2200万人誘致することを目標としており、観光業再開による景気回復に期待が寄せられている。同国には新型コロナウイルス流行前の2019年に、2610万人の外国人観光客が訪れていた。
マレーシア政府観光局は、マレーシアとインド間の航空定期便の再開により、旅行需要が高まっていることを受け、インド主要6都市で観光キャンペーンを展開している。新型コロナウイルス感染拡大前は、マレーシアを訪れるインド人の数は70万人以上で、7番目に多かったという。同局は、4月20日〜22日にカザフスタンで行われた「カザフスタン国際観光フェア」にも参加し、国境再開をアピールした。マレーシア政府は今年、200万人のインバウンド誘致と、86億リンギット(約2510億円)の観光収入を目指している。
マレーシアでは、3月中旬に1日の新規感染者が3万人を超えるなど、感染拡大のピークを迎えていたが、その後減少に転じ、現在は1万人以下となっている。
フィリピン マニラで観光国際会議。2022年中に航空路線8割を目指す
フィリピンは4月1日から外国人の受け入れを再開した。新型コロナウイルスワクチンの2回目の接種を完了していることや、渡航前48時間以内のPCR検査または24時間以内の抗原検査による陰性証明書の提示などが条件となっている。
フィリピンの首都マニラでは4月20日より、世界最大規模の観光国際会議「世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の第21回グローバルサミット」が開催された。同サミットでWTTCは、今後10年間でフィリピンにおける旅行・観光産業の年平均成長率は年平均6.7%となり、フィリピン全体の年平均成長率である5.6%を上回ると予測していることを発表。さらに、旅行・観光産業における雇用は毎年平均3%増加して290万人の新規雇用を生み出し、フィリピンの全雇用の21.5%を占めるとの予測データも示された。
フィリピンのボラカイ島には、4月14日〜17日の聖週間(ホーリー・ウィーク)の連休中に1日当たり2万人の観光客が押し寄せた。政府は環境保護のために、同島への入島者数を1日当たり1万9000人に設定しているが、国内観光のリバウンド需要により、この人数制限を超過してしまったようだ。移動規制が解除されつつあるフィリピン国内では、再び航空便の需要も高まってきており、同国のLCCであるセブパシフィック航空は、夏季休暇シーズンに向けた国内線の増便を発表した。ナショナルフラッグキャリアのフィリピン航空も、国内線と国際線を合わせた運航本数を、年内に新型コロナウイルス感染拡大前の80%まで回復させると発表している。
フィリピンでは今年1月に感染のピークを迎え、1日の新規感染者が3万人を超える日もあったが、現在は200人程度で推移している。
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