インバウンドコラム

【韓国最新動向】今人気の海外旅行先は? 訪日回復はノービザ・個人旅行の解禁がカギ

2022.08.03

帆足 千恵

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コロナ前の2019年、中国に次ぐ2番目の市場規模で、年間約558万人が訪日していた韓国市場。日韓関係の悪化の影響などで、その数は減少傾向にあったが、依然として多くの人々が訪れる場所であった。コロナ禍を経て徐々に海外旅行の復活を見せる韓国の旅行動向や訪日への期待について、現地の旅行業界関係者に聞いた話も踏まえながら、解説する。

 

コロナ前までの韓国市場の旅行動向、海外旅行意欲は旺盛

福岡・九州に拠点を置く筆者は、2001年からインバウンドビジネスを開始し、2002年から韓国市場に取り組んでいる経験から、韓国人の「海外旅行」に対する意欲を肌で感じてきた。実際に、韓国人のパスポート取得率は40%程度あり、若者を中心に個人旅行で世界各地へ旅立ち、留学経験者も多い。対して、日本人のパスポート取得率は2018年度約23%、2020年は21%とコロナの影響もあり減少傾向にある。

そんな海外旅行好きの韓国人がどこへ行っていたのかというと、2017年までは「1位日本、2位中国(香港)、3位ベトナム、4位アメリカ、5位タイ」という順位で、日本は近さ、渡航費用の安さもあり圧倒的な人気を誇っていた。

九州は2泊3日の週末旅行地として人気があり、由布院温泉や黒川温泉、福岡など北部九州に多くの韓国人旅行者が訪れていた。飛行機で、福岡〜釜山が約50分、福岡〜ソウル仁川が約1時間20分と本当に近い。2004年から九州の宿、特に当時まだ知られていなかった温泉旅館を韓国語で予約できる韓国人運営のオンラインサイトをサポートしてきたが、各地のプロモーションを実施するにつれ、2010年くらいから急激に増加した。

一方で、2018年秋に日韓関係が悪化してからは、「日本旅行に行きたくても行けない」という韓国人も増えてきた

2019年以降の状況について、筆者の20年来の韓国のビジネスパートナーであるジャン・ヒーチョンさんに聞いた。彼女は、トラベルブロガーでもあり、Instagramのフォロワー3.6万人のインフルエンサーでもありながら、韓国でトラベルマーケティングとプロモーション事業も手掛けている。

彼女は日本に留学経験もあり、前述の韓国語の旅館・宿予約のオンラインサイトのスタッフだったが、2017年に独立してからは日本の自治体や企業、店舗の韓国プロモーションや、マーケティングのアドバイスを日本語で行ってきた。日本への渡航回数は100回以上にのぼる。

「体験予約サイト「KLOOK」の 2019年1月~11月までの予約数の伸び率をみると、ベトナム、タイ、インドネシア、アメリカ、台湾となっています。2019年上半期まで人気の旅行先だった日本と香港が政治問題などで減少し、その余波で相対的にコスパの高いベトナム、タイが人気を得た形になります。特にベトナムはダナンをはじめ、ニャチャン、フーコック島などビーチが大人気でした」とヒーチョンさんは振り返る。

▲2019年に韓国で人気が高まっていた海外旅行先

 

入国規制緩和で海外旅行再開、韓国人に人気の場所は?

国内旅行は、コロナがいったん落ち着いた2020年夏から人気となり、コロナの状況および規制にともない変動してきた。リゾート地として知られる済州(チェジュ)島は、混雑時は平日でも大変な賑わいを見せたそうだ。

その後、2022年5月くらいから海外各国の入国規制が緩和され、入国前のPCR検査が必要ないタイ、ハワイ、ベトナムなどへ海外旅行をする人が増加している。


▲韓国のリゾート地済州島

2022年7月28日現在、海外から韓国へ入国するには、コロナの陰性証明書が必要で、韓国人は渡航先で検査を行っている。また、帰国後には家の近くの保健所や病院でコロナ検査を48時間以内に受けなければならない。7月後半に入り、急激に陽性者が増えているが、旅行熱は変わらず旺盛だという。

ホテルおよび航空便の予約サイト「 Agoda」は、今年5月の海外人気旅行先トップ10を発表(4月26日までに収集された予約データをもとに、今年5月1日〜31日のチェックイン日をデータから分析)した。韓国市場においては、1位タイ、2位米国、3位ベトナム、4位フィリピン、5位フランス、6位インドネシア、7位グアム、8位スペイン、9位イタリア、10位シンガポールというランキングになった。日本はまったく入っていない。

これについて、ヒーチョンさんは以下のように分析する。

「現在の韓国からの海外旅行の動向を見ていても、このランキングの通りだとだと実感します。特に、旅行にお金をたくさん使う新婚旅行のカップルは、コロナ禍の間は主に国内旅行で我慢していましたが、国境を開いた国に旅行に行くことができるようになりました。彼らは、航空券やホテルが高くてもハワイやヨーロッパを選んで旅行しています。ファミリーやカップルの旅行先としては、グアムやベトナムのビーチが人気があります。私も2021年の秋から今までにベトナムに2回、ハワイ、スペインにインフルエンサーとして招聘されました。観光再開に積極的な国はプロモーションを行っています」

 

訪日旅行への期待、ノービザの個人旅行再開がカギになる?

2022年7月28日現在、韓国から日本への渡航はビジネスもしくは団体旅行パッケージしか認められていない。今後の動向はどのようになるだろうか。

「訪日に関しては、現在団体旅行だけ観光ビザを発給できる状況です。韓国内の大型旅行会社、ハナツアーなどを中心に7月から日本へのチャーター機運営及び旅行商品を販売していました。ところが、観光ビザを発給してもらうために、顧客からパスポートを受け取って書類作成までおよそ3週間を要する状況です。


▲韓国で人気のベトナムのリゾート地ダナン

韓国人にとって日本はもっとも近い旅行地としていつでも旅立つことができるという認識があり、予約は出発日の1〜2週間前にすることが多いです。そのため、観光ビザの発給が間に合わないという問題が発生しているのです。

ハナツアーや多くの旅行会社は7月のチャーター便をキャンセルし、旅行商品も販売中止となっています。8月の販売も難しい見通しです。ただし、韓国の秋夕(チュソク)の連休の期間(9月9日〜12日)は、早目に予約をいれるので、旅行商品の販売も期待できるでしょう」

それでは、個人旅行者の回復はいつになるだろうか。
「ハナツアージャパンでは、個人旅行者のノービザ観光を10月と見ています。私も秋だと見込んでいます」とヒーチョンさん。

日本側が団体旅行だけでなく、個人旅行を受け入れ、そして観光ビザが不要になることが回復のためには必須のポイントとなる。最も身近なのに、遠い国となっている韓国との往来が一刻でも早く再開されることが望まれる。

 

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