インバウンドコラム

【英国最新動向】3年ぶりの日本文化イベント、イギリス人の訪日への興味関心は?

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新型コロナウイルス感染症の拡大期には欧州でも最悪の感染国の一つとなっていた英国。感染したボリス・ジョンソン首相が隔離中に国民に話しかける様子や、マスクをつけていない市民の様子を伝えるニュース映像などまだ記憶に新しいところではないだろうか。しかし、いち早くコロナとの共存を選択した英国では、今年はいつもどおりの夏を迎えているようだ。ロンドンを拠点に、日本の文化を英語で世界に発信するクロスメディアの安藤美香氏によるレポートをお届けする。


▲7月に開催されたHyper Japan、会場前の賑わい(提供:クロスメディア)

 

新型コロナウイルスをめぐるイギリスの2年間

2020年1月に英国内で初の新型コロナウイルス感染者が確認され、3月にはロックダウン規制が始まった。しかし、その時においても一体誰がその後2年にわたり海外渡航ができなくなると予想しただろうか。

夏のホリデーに旅行する習慣のある英国の人々に、ロックダウンによる行動制限が与えた影響は大きかった。人と会うことを恐れ、街中には怖いくらい静かになった。日用品確保のためパニックバイが起こった。心の健康のため、様々なオンラインイベントやツールが開発された。働き方にも変化が見られ、WFH(ワークフロムホーム)が定着した。


▲ロックダウン中のイギリスの様子(左)パニックバイでお店の棚は空っぽに (右)いつもは人で賑わうハマスミス駅のメインストリートも閑散としている(提供:クロスメディア)

その後、世界に先駆けワクチン接種が開始されると、状況は大きく変わる。ロックダウンは段階的に緩和され、2021年7月19日には夏休みを前に国内規制が全面的に解除された。また、渡航前の陰性証明や帰国後の隔離はあったものの海外渡航が解禁され、少しずつ国内に活気が戻った。

その後、オミクロン株の出現もあったが、英国政府が掲げた「Living with COVID-19」政策は国民に受け入れられた。ロックダウンによりクリスマスに家族に会うことを許されなかったり、旅行に行くことができなかったり、大半の人々が行動制限に大きなストレスを抱えていたからである。

2022年3月には渡航に関する制限が撤廃された。ワクチン接種・未接種に関わらず、陰性証明や隔離、搭乗者追跡フォームの提出も不要となった。英国内にも観光客が戻り、ロンドン市内も以前と変わらぬ賑わいを見せるようになった。


▲2022年7月、ウィンブルドンテニスのパブリックビューを楽しむ人々(提供:クロスメディア)

 

新型コロナウイルスはニュースの話題にもならない、イギリスのいま

2022年8月現在、コロナウイルスに関する行動制限は無い。ワクチン接種と集団免疫により、コロナは風邪やインフルエンザと同じレベルとみなされている。GOV.UK(英国政府の各分野の情報を一元的に提供する情報サイト)によると、過去7日間にイングランドで陽性反応が出たのは約5万人とのことだが、そもそも無料テストキット配布が終了しており、きちんとテストをしている人がいるかどうかが疑問である。現状NHS(国民保健サービス)の指示も、コロナウイルスによる症状がある場合は、自主隔離に努めるよう促すのみで、義務付けではない。これも深刻な人手不足により経済が回らない等、コロナ禍におきた様々な事由によるところが大きいと考えられる。

英国内でも未だ公共交通機関利用時にはマスク着用が推奨されているが、ほとんどの人がしていない。「義務」であった時は、皆ほぼルールを守っていたが、推奨であればルール違反ではないので従わない。日本人は推奨されていれば、たいていの人がマスクを着用するのではないかと推測するが、この点は日本と英国で大きく異なる点であろう。

2年前にはあれだけ報道されていたコロナウイルスと感染者数は、現在では話題にのぼらない。街中は賑わい、皆が英国の夏を楽しんでいる様子だ。

 

3年ぶり開催、「HYPER JAPAN」に来場する英国人の興味は?

弊社は、2010年にロンドンにて日本文化総合イベント「HYPER JAPAN」をスタートし、日本の伝統文化、食、観光、アニメ、漫画、音楽、テクノロジーなど、幅広い視点から日本の今を英国の人々に紹介し続けている。来場者は9割以上が英国人で、今では英国最大の日本文化イベントに成長した。2020年はコロナ禍によりイベントを中止し、2021年には7月から8月にかけて1カ月間オンラインイベントを実施した。

今年は、実に3年ぶりに「HYPER JAPAN Festival 2022」を7月22日(金)~24日(日)に行ったが、3日間で来場者は2万人、チケットは完売するなど盛況であった。日本からは東京都や国立公園の訪日観光プロモーション、秋田の漆器や佐賀の着物、広島のお好み焼きなどが出展し、各ブースとも大変な人気であった。

3年ぶりの開催ということもあり、今年はチケットの販売や出展申込みの動きにも変化が見られた。チケットは例年よりも早めに購入する人が多く、イベントを心待ちにしている来場者多いことが感じられた。出展申込みの動きも早く、特に個人や中小ビジネス事業者向けのマーケットエリアは申込み受付開始後数日で完売した。

▲HYPER JAPAN Festival 会場は大勢の人でにぎわった(提供:クロスメディア)

数年前に比べて、来場者の興味関心も変わってきたようだ。食エリアは変わらず大人気であるが、アニメ・漫画などに加え、最近は日本らしいオーセンティックなコンテンツも幅広い世代に支持されている。会場内装飾の桜の下ではコスプレイヤーを含めた多くの人が撮影していたし、漆器ブースでは若年層にも簪(かんざし)や、紅葉や笹モチーフの器に`Amazing’`Cool’という声が集まっていた。自然を愛する英国人には、こういった日本の独特なコンテンツが特に魅力的に映るのであろう。

また書道や茶道、折り紙などの有料ワークショップのチケットは早々に完売し、子供を含めた参加者は皆、熱心に取り組んでいた。ある来場者は、「日本に行くために今お金を貯めている」と語り、コロナ禍を経ても英国人からの日本人気は全く衰えていないことがわかる。

▲日本の伝統的な漆器も注目が集まる(提供:クロスメディア)

 

7割の旅行客が訪日を「延期」、自由に日本旅行できる日を心待ちに

英国の訪日専門エージェントによると、70%の顧客がコロナ前に予約した訪日商品を「キャンセル」ではなく「延期」しているそうだ。英国旅行業協会(ABTA)は、コロナ禍で制限されていた海外旅行の楽しみを取り返すため、よりお金も時間もかけた旅をする傾向がみられると伝えている。英国人の旅行好きは変わらず、今まで通り、行きたいところには行きたいし、お金も時間もかけて旅行する準備は万全だ。

一方で、人々の旅行ニーズを妨げる様々な問題も起きている。この2年間でスタッフの解雇を余儀なくされた旅行業界各企業は、今では新規雇用に苦労しており、また空港は人材不足により、長蛇の列やフライトのキャンセルが相次いでいる。

6月に再開された日本の慎重な観光客受け入れに対して、業界の反応は冷静である。大手新聞『The Telegraph』は、「世界が首を長くして待っていた日本の開国だが、日本現地では多くの人が『外国人がコロナウイルスを持ち込みクラスターが発生するかもしれない』と不安を抱えている。果たして訪日観光客が歓迎されるのか心配だ」と報じた。各旅行会社からも、「長く待ち望んだニュースではあるが、ガイド付きツアーではなく個人ツアーを好む英国人顧客は、観光客受け入れがもう少し緩和されるのを待ちたいようだ」という声が聞かれる。

 

今、英国市場向けに日本ができる観光プロモーションとは?

そんな英国市場に向けて、今できる訪日観光プロモーションとは一体何だろうか。

「日本好き」が集結するHYPER JAPAN Festival 2022の来場者アンケートでも、63%が日本へ行ったことがないと答えており、英国にはまだまだ多数の潜在的訪日観光客が存在する。

弊社では年1回のリアルイベント「HYPER JAPAN Festival」の他、ウェブサイトやオンラインイベント、ニュースレター、SNSでも日本の情報を発信しているが、オンラインツールは継続的に日本への関心を繋ぎとめるのに最適である。以前取ったアンケートでは、春や秋に訪日旅行をしたいと考えている人が多かったし、ウェブサイトのニュース記事では、お寿司や鍋などの日本食・日本酒はもちろんのこと、お花見や自然を楽しむアクティビティ、温泉、お祭りなどへのアクセスが多い。

 
▲HYPER JAPAN Festival で人気の日本の文化(提供:クロスメディア)

また、英国では様々な展示会が再開されているので、業界向けのイベントに出展するのも一つの手であろう。その他、業界紙への広告出稿やインフルエンサーとの連携施策、各旅行会社へのセールス活動、リリース配信、単独イベントや商談会の実施など、できることは多様にある。先述の通り、オーセンティックな日本文化、伝統、歴史、食、自然などの人気が非常に高いため、こういったコンテンツを継続的かつ全面を打ち出しながらプロモーションをすることが、訪日観光復活へのカギとなるだろう。


▲HYPER JAPAN Festivalで日本食を楽しむ人々(提供:クロスメディア)

 

クロスメディア 安藤 美香

ロンドン在住。株式会社マイナビにて営業、イベント企画運営、経営企画に従事し、パリJAPAN EXPOでの業務にも携わる。渡英後はクロスメディアにて自社メディア兼イベント『HYPER JAPAN』のマネージャーを務める。英国人の趣味嗜好に合わせ、様々な角度から日本の「今」を伝える。

 

<クロスメディア会社概要>
ロンドンに拠点を置き、1987年の設立後35年以上、イベントや出版物、デジタルプロモーション等を通して日本文化を英語で正しく世界に発信し続けている。2001年に日本食普及事業EAT-JAPANを開始。食・観光のPRはもちろんのこと、音楽・ファッション・伝統文化・漫画・アニメ等多様な面から日本の「今」を紹介している。30年以上の経験を通じて培ったノウハウ、クールジャパンコンテンツへの造詣、イギリスの現地コミュニティや英系メディアとの強固なリレーションを活かし、日本企業・公官庁・地方自治体等のイギリスにおける活動をサポート。イベントの企画運営、マーケティング、広報、広告宣伝代行、ウェブサイトや販促ツールの制作等、様々な方法で日本とイギリスの架け橋となる活動を行っている。

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