インバウンドコラム
昨年12月、中国政府は3年間続いたゼロコロナ政策を大幅に緩和し、一気にウィズコロナへ舵を切った。その後、中国各地で感染者が爆発的に拡大し、一時パニック状態に陥ったが、現在は多くの都市で感染症のピークは通り過ぎ、閑散としていた街に人の姿が戻っている。
ようやく、中国が、「自由で、かつ平穏な日常生活」を取り戻しつつあるなか、1月21日~27日には、中国の春節休暇が始まる。ここでは、昨年12月以降のゼロコロナ政策終了及び水際対策緩和の動きを解説するとともに、2023年の春節の旅行動向や、訪日回復の時期を予測する。
ゼロコロナ政策を終了した中国からの訪日、春節は回復するのか?
中国の国内旅行は、過去3年間の大型連休で省を跨ぐ移動を制限され、里帰りできなかった人々が一斉に帰省したり、遠方への旅行を楽しむために、すでに春節休暇前から国内大移動が始まっている。感染状況はまだ完全に収束しているとは言えないが、一説には集団免疫を獲得したとの国民感情もあり、今月末の春節休暇に向けて旅行熱が非常に高まっている。
▲上海空港の様子、1月8日以降、大勢の人が入国している
それでは、訪日旅行や海外旅行はどうだろう。こちらは少し事情が違い、春節時期での回復は難しいと見る。
中国からのインバウンド回復のカギとなる4つのポイント
そもそも、中国インバウンド(中国人観光客)が回復するためには、下記4項目が焦点となると考えられている。
1.中国入国時の水際対策緩和
2.訪日観光ビザの発給再開
3.中国政府(文化と旅遊部)の海外旅行に対する方針転換
4.日中間の航空路線の増便(回復)である。
まず、最も重要な「1.中国入国時の水際対策緩和」であるが、これは、1月8日から完全に撤廃され、コロナ前と同じく自由に入国が出来る状況となった。
そして、「2.訪日観光ビザの発給再開」であるが、これまで在中国日本大使館・領事館で発給されていたビジネスビザ、親族訪問ビザに加え、1月9日からは、個人観光ビザについても、認可代理店である旅行会社からの申請受付を再開した。現時点では、5年間有効な個人観光マルチビザのみの再開のため、直近で訪日できる人の数は限られているが、近いうちに全種類の観光ビザの発給が可能になると思われる。
▲大量に積まれた訪日観光ビザ申請書類(提供:北京旅行社)
続いて、「3.中国政府(文化と旅游部)の方針転換」であるが、ゼロコロナ政策中は政府が中国の旅行会社に対し、海外旅行の販売自粛通告を口頭ベースで発出していたが、入国制限の撤廃に伴い、緩やかに解除され、今後は一転して、海外旅行を促進する可能性もある。
以上3点は、すでに解決されているが、現在、ネックになっているのは、「4.日中間の航空路線の増便(回復)」が間に合っていないこと、そして座席供給量が少ないがゆえ航空運賃が高騰していることである。
昨年10月の党大会以降、少しずつ国際線は増便されてきたが、現時点で、日中間の航空便は、コロナ前の10%程度までしか運航されておらず、航空運賃も、コロナ前に比べて3~5倍の水準で高止まっており、気軽に訪日観光に行けない状況である。
日本―中国の航空路線増便のカギとなる『5つの1政策』とは?
それでは、果たして航空便の回復はいつになるのか? 昨年12月26日、中国政府は1月8日から入国制限を撤廃すると発表すると同時に、航空会社へ課していた国際線運航に関する規制『5つの1政策』を撤廃すると発表した。私は、その報道を知った際、このセットの政策転換は、インバウンドの回復に、大きなプラス要因になると確信した。そこで、ポイントとなる国際線規制『5つの1政策』について、解説したい。
5つの1政策とは、『1社、1国、1路線、1週間に1便しか運航出来ないルール』である。これが撤廃されれば、例えば、各航空会社が現状の運航路線を、週1便から週7便にデイリ―運航するだけで、単純に7倍となり、それに加え、競合航空会社(例:南方航空vs東方航空/ANA vs JAL)が同一路線の運航を再開させれば、インパクトは10倍以上となり、すぐにでもコロナ前の座席供給量まで復活させることが可能となる。
この政策の撤廃により、すでに運航路線が回復しつつあるが、今年3月頃まで、急激に、増便・再開されることは間違いなく、懸念される航空運賃の高騰も、コロナ前の水準に戻る可能性が高い。ただ、各航空会社の機材繰りは問題ないと思われるが、空港や機内での運航スタッフの再雇用には、やや不安が残らざるを得えず、回復度合いやスピードに影響を与えるだろう。
日本の水際対策強化に対する、中国旅行会社からの反応は?
さらに、懸念されることとして、コロナ感染が落ち着いていない中国から日本への水際対策の強化と、それに対する中国政府による対抗措置がある。
まず、日本の水際対策については、昨年12月に中国で感染者が爆発的に増加したことを考えれば、当然の対策であり、政治的な意図は感じられない。中国人の入国を認めないと差別しているわけではなく、日本人の帰国者を含む「中国」からの入国者に対して、出国前の陰性証明とPCR検査さえクリアすれば、自由に入国を認めているのだ。
中国の旅行会社からも、「中国の感染状況では当然の政策だ」、「昨年11月まで、あれほど理不尽な隔離措置を強制していた中国政府が、なぜ、この程度のことに文句を言えるのか」、「仮に自分が陽性だったら隔離は仕方がない、しかも、日本政府が隔離費用を負担してくれるなら感謝しかない(中国入国時の隔離措置は自己負担)」など、肯定的な意見が多い。一般的な中国国民からも、過度に反発するようなコメントは少なく、水際対策に関しては、訪日再開に向けて、大きな問題にはならないと感じている。
それに対して、1月10日、中国政府が発表した対抗措置「日本人に対する中国入国ビザの発給停止」は、非常に幼稚で、お門違いである。これは、中国政府として、中国国民に対し、国家としての面目を保つためだけのアピールに過ぎず、今後の両国の経済への影響を考えると、おそらく長期化することはないであろう。日本政府が、この幼稚な対抗策に対して、子供の戦争を仕掛けず、スルーすることを願うばかりだ。
つまり、これ以上の水際対策などの規制強化により、両国の関係が悪化しない限り、中国の感染状況の落ち着きとともに、日本の水際対策が緩和され、この懸念は払拭されるだろう。両国間を自由に行き来できる日が来るのも、それほど先ではないはずだ。
徹底予測! 中国からの訪日観光回復のシナリオ
最後に、中国人の旅行動向全般について予測する。
まずは、今月下旬の春節シーズンには国内を中心に旅行ブームが起き、徐々に東南アジア(タイ・マレーシア)への海外旅行が増えはじめる。
訪日旅行は、春節期間に高い航空運賃を払っても日本に来たいと思う5年マルチビザを取得する裕福なアッパー層が中心になると考えられる。
その後、2月末~3月には、中国での感染状況の収束、航空便の増便に伴って、訪日旅行が回復していくだろう。そして、春の桜シーズンから夏シーズンにかけて、一気にコロナ前の水準まで完全回復するのではないか。日本は、衛生面でも、観光でも、ショッピングでも、グルメでも、一流のレベルであり、今後も変わらず、中国人観光客にとって人気の目的地であることは間違いない。 まもなく、3年ぶりに中国人観光客が戻ってくる。 臆することなく、自信を持って、普段通りのホスピタリティを発揮して、心から歓迎して欲しい。
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