インバウンドコラム

【現地レポ】当たり前の「ヴィーガン」食、米国サンフランシスコの飲食店事情

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アメリカでは年々、環境問題や食品の安全性への関心が高まっていますが、中でも特に環境への意識が高く、ベジタリアンやヴィーガンの人口が多いと言われているサンフランシスコを訪れました。サンフランシスコでは、畜産業よりも環境負荷を軽減できる、植物由来の食材で作った代替肉の「インポッシブルミート」や「ビヨンドミート」が流行しています。

現地で食関係の仕事をしている人によると、世界的な企業が多いのでコロナ前からESGに対する関心は非常に高かったが、コロナ後に大きく加速したこと、そしてITエンジニアの多くがインド人であるという2つの理由により、ベジタリアン・ヴィーガンメニューなしではサンフランシスコの飲食店が成り立たなくなっているとのことでした。

今回は、私がサンフランシスコで訪れた、ヴィーガンメニューを提供する6軒のレストランを紹介します。

 

日系レストラン、ラーメン店

米国発のヴィーガンラーメン、日本にも逆輸入する「麺庄」

Jikasei MENSHO

Jikasei MENSHO は、『MENSHO』『麺や庄の』など、日本の国内外で12店舗のラーメン店を運営する株式会社麺庄(2005年創業)が出店したお店です。同社は「ラーメン文化を世界に根付かせたい」という想いのもと、海外へと規模を拡大しています。今回伺ったJikasei MENSHO は、Twitter本社ビル一階のフードホール内に入っているため、社員も非常に多く利用するそうです。麺庄の創業者でラーメンクリエイターの庄野智治氏はTwitter本社でゲストシェフも務めています。

食材へのこだわりはもちろん、見栄えの悪い野菜やカット後に余った野菜などをグループ内で集めて再利用するなど、フードロス削減にも取り組んでいます。

同店の看板メニューは、植物性食材のみを使った「ヴィーガン坦々麺」。濃厚な坦々スープとモチモチの自家製麺がよく絡み、丁寧にローストされたナスのトッピングとの相性も抜群で、非常に完成度の高いラーメンでした。


▲ヴィーガン坦々麺

なお、トッピングに関しても、動物性由来のお肉のチャーシュー以外にも植物性由来のナスを選択できるようになっています。こうしてヴィーガンやベジタリアンではない人にも選択肢を作ることは、今後重要になってくると思いました。


▲普通のラーメンにも、チャーシューかナスか選択可能

ヴィーガンメニューはもともと、健康志向や環境問題への意識が高いカリフォルニアの顧客向けに開発されたものですが、今では日本の店舗にも逆輸入されており、新宿ミロードや渋谷パルコの店舗でも「ヴィーガン担々麺(1200円)」と「汁なしヴィーガン担々麺(1100円)」を味わうことができます。

 

2種類のヴィーガンラーメンとヴィーガン餃子で米国進出「日の出屋」

Hinodeya Ramen Bar

Hinodeya Ramen Bar のルーツは、1885年(明治18年)に埼玉県蓮田市で創業した食堂「日の出屋」にあります。同店は、株式会社彩々楽(日の出屋の現社名)が2016年に米国で初出店したラーメン店で、現在はサンフランシスコを中心に米国で複数店展開しています。

同社の代表取締兼シェフの栗原正夫氏は東京吉兆帝国ホテル店の料理人や、在オランダ日本大使館料理長を務め、世界各国の要人に料理を提供した経験を持ちます。栗原氏は和食の料理人としての経験を活かし、ラーメンを通じて日本料理のだし(DASHI)文化を世界に広め、日本食の付加価値向上のために海外出店を決意したそうです。


▲HINODEYAのメニュー

Hinodeya Ramen Barには椎茸の出汁と豆乳を使った「CREAMY」と、昆布と椎茸で出汁をとった「ZEN」という2種類のヴィーガンラーメンがあり、メニューでも上部の目立つ場所に掲載されています。また、ヴィーガンのメニューにはグリーンのマークがついています。

店員さんのおすすめは「CREAMY」で、大胆に盛られた厚揚げと野菜が丼を覆い隠していますが、椎茸の出汁がしっかりと効いていてUMAMIたっぷりです。胡麻と豆乳で作られたスープは非常に完成度が高く、ほうれん草を練り込んだ中太麺によく合います。店員さんに聞くと「ヴィーガンラーメンの売り上げは年々大きくなっている」そうで、今後も注力していくとのことでした。


▲豆乳ベースのヴィーガンラーメン「CREAMY」

Hinodeya Ramen Barはラーメンブームの続くサンフランシスコでも行列の絶えない店舗として知られており、ネット上では「ヴィーガンラーメンだけでなくヴィーガン餃子もあるので満足した」「ヴィーガンとは思えないほど濃厚」「世界一のヴィーガンクリーミーラーメン!」などといった口コミも見られます。


▲左:ヴィーガン餃子 右;ラーメンと餃子で約4245円(1ドル=130円計算)

 

日本食レストラン

伝統と旬の素材で寿司と居酒屋メニューを組み合わせした日本食レストラン

SHIZEN vegan sushi bar & izakaya

2015年にオープンした「Shizen Vegan Sushi Bar」は、香港生まれ、ハワイ育ちのシェフのキン・ルイ氏とレイ・ワン氏、海洋保護活動家のキャソン・トレナー氏の3人によって運営されています。彼らは、Shizen Vegan Sushi Barの他にも西海岸やハワイで複数店のレストランを展開しています。

ヴィーガン料理に魅了されたシェフのキン・ルイ氏は、寿司の芸術性を維持・進化させると同時に、寿司産業がダメージを与えてきた海洋生物を保護する方法を見出すために、できるだけ多くの地域で植物由来の寿司を提供することに力を注いでいます。

同店では、寿司と居酒屋メニューが混在し、伝統的な精進料理の技法と旬の食材を組み合わせています。メニューにはグルテンフリーのオプションも掲載されています。野菜の握りが2貫で8ドル(1040円 ※1ドル130円計算)と決して安くはありませんが、予約も非常に取りづらく、来店時も常に満席の状態でした。店員さんに聞くと「Twitter社など世界的なIT企業も近くにあり、従業員やクライアントにもベジタリアン・ヴィーガンがとても多いので、接待なども含めてよくご来店される」とのことでした。


▲左:SHIZEN vegan sushi bar & izakayaのメニュー 右:一押しの「Boddy and Soul」

世界最大級のベジタリアン・ヴィーガン対応レストランの検索サイトHappy Cowが選ぶ「Vegan Friendly Restaurants in San Francisco」で1位を獲得したのにも頷けます。また、店員さんが「サンフランシスコにおいて、日本食は安いことが価値にはならない」とのお話をされていたことも印象的でした。


▲ラーメンも提供

実際に食べてみると味のクオリティが非常に高く、とてもおいしく満足度高く頂きました。また、日本酒では世界初のヴィーガン認証を取得した南部美人の梅酒も販売されていました。

 

アメリカンレストラン

売り上げの一部を環境保全推進団体に寄付する飲食店「Wildseed」

Wildseed

ヴィーガンレストランWildseedは、サンフランシスコを中心に22店舗のレストランを展開する飲食店グループ「Back of the House」によって運営されています。2022年3月に立ち上げられたばかりですが、すでに行列のできる人気店となっています。同店は気候変動などの課題を掲げ、体にも環境にもいい食べ物をテーマに運営しているほか、すべての会計から10セントを非営利組織「Friends of the Urban Forest」に寄付し、二酸化炭素排出量の削減、空気の清浄化、地球温暖化防止に貢献しています。


▲WildSeed店内

店員さんおすすめのピザを食べてみたのですが、非常に高いクオリティでヴィーガンとは全く分からないレベルでした。また、FAQページで「プラントベースの食事は健康に良いですか?」「植物ベースの食事で十分なタンパク質を摂取できますか?」などといった質問に答えていて、ベジタリアン・ヴィーガン初心者やこれから考えていきたいという人への情報提供もしっかりと行っていました。


▲WildSeedのスパイシーソーセージピザ

Wildseedは、Happy Cowが選ぶVegan Friendly Restaurants in San Franciscoで2位に選ばれています。Happy Cowの口コミには「今までで一番美味しいヴィーガン料理」「グルテンフリーのオプションが豊富」「家族や友人にヴィーガン料理を紹介するならここ」などと書かれており、非常に高い評価を獲得していました。

 

4ドルでヴィーガンオプションに変更可能なバーガー店「GOTT‘S」

GOTT’S

GOTT’Sは、ジョエル&ダンカン・ゴット兄弟によって1999年に創業されたハンバーガー店で、現在はサンフランシスコを中心に複数店展開しています。高品質の食品、サステナビリティー、地元産の食材に重点を置いた同店では、ハンバーガーのほかにも、ポテト、サラダ、タコス、サンドイッチ、ホットドッグなどを提供しています。ヴィーガン専門のレストランではありませんが、インポッシブルバーガー、フムスプレート、ファラフェルサラダなど、ヴィーガンメニューも取り揃えています。中でも2017年にデビューしたインポッシブルバーガーは高い人気を誇ります。


▲ヴィーガン&グルテンフリーバーガー

同店では、ベジパティ(乳製品を含む)を無料で、インポッシブルバーガーパティ(ヴィーガン&グルテンフリー)を+4ドルで、グルテンフリーのバンズは+1ドルで変更可能というサービスを行っていました。特に、ヴィーガンメニューに対して4ドルも多くチャージできると、お店の売り上げとしてもかなり大きいのではないでしょうか。


▲ヴィーガンやグルテンフリーのオプションは赤字で記載されている

またお肉については「Vegetarian FED(植物由来のエサで育った動物)」、魚は養殖ではないもの、パンは地元産としっかり表記されています。

Happy Cowには「素晴らしいヴィーガンオプション!」「メニューにヴィーガンのオプションが明確に書かれている」などの口コミが投稿されています。


▲食材のポリシーも、メニューの下部に記載されている

 

多国籍料理もヴィーガン対応、スタジアム内のレストラン

The Green House/Chase Center内(ゴールデンステイト・ウォリアーズの本拠地)

サンフランシスコに本拠を置く全米プロバスケットボール協会(NBA)のチーム「ゴールデンステイト・ウォリアーズ」の本拠地であるChase Centerにも、ヴィーガン料理店「The Green House」が入っていました。


▲左:Chase Center 右:Chase Center内のヴィーガン専門店

同店はNBA初の植物性由来のレストランのひとつで、バインミー、ハンバーガー、ミートボールサブ、ルーベンサンド、タコス、ローテーションサラダなど、様々な異文化料理から選ぶことができます。

The Green Houseでは、2019年創業のブラジルの植物性食品会社「Future Farm」が開発した、肉なしタンパク質を使用しているそうです。ひよこ豆、えんどう豆、大豆タンパク質をブレンドした代替肉なのですが、大豆の栽培は森林破壊を引き起こす可能性があるため、同社は非遺伝子組み換えのサステナブルな大豆を栽培しているそうです。

また、Chase Center内の他の飲食店でもそれぞれのメニューに「ベジタリアン」「ヴィーガン」「グルテンフリー」の表記がしっかりと入っています。


▲メニュー名の横に、ベジタリアン・ヴィーガン・グルテンフリー表記がある

サンフランシスコでは、ヴィーガンメニューが食の選択肢として必ずと言っていいほどあります。しかしながら日本ではそのような選択肢を探すことはとても難しいのが現状です。世界屈指の物価高のエリアから来る旅行者に、しっかりと消費を行っていただくための食事整備はとても重要な課題ではないでしょうか。

 

プロフィール:

フードダイバーシティ株式会社 代表取締役 守護 彰浩

楽天株式会社を経て、日本国内のハラール情報を6カ国語で発信するポータルサイトHALAL MEDIA JAPAN 運営。国内最大級のハラールトレードショー・HALAL EXPO JAPAN を4年連続で主催。2018年よりベジタリアン事業にも注力、中国語でのベジタリアン情報サイト「日本素食餐廳攻略」や、英語圏のベジタリアンへの情報発信に向け、世界最大のベジタリアンアプリ「HappyCow」の日本企業唯一の業務提携を交わす。フードダイバーシティをコンセプトにハラール、ベジタリアン、ヴィーガン、コーシャなど、あらゆる食の禁忌に対応する講演やコンサルティングを提供中。 2020年、観光戦略実行推進会議にて、菅元総理大臣に食分野における政策提言の実績あり。流通経済大学の非常勤講師。

 

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