インバウンドコラム

インバウンド団体客受け入れ、ランチで500万円超売上も。訪日客に選ばれる飲食店になる方法

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インバウンド旅行者向けのビジネスを展開する事業者の方に、現場で起きた事件やエピソードを具体的に紹介してもらうシリーズ。第3回目は、飲食店の訪日客受け入れをテーマに、株式会社ワントリップ代表取締役の片岡究氏に話を伺った。

片岡氏はインバウンド団体旅行を中心に、台湾、韓国、マレーシアをはじめ全世界から年間約20万人以上の食の手配を行っている。また、20代からシェフとして活躍した経験をもとに、ベジタリアンやヴィーガンに対応したメニュー開発や飲食店のプロデュースなども手がけている。

コロナ禍で休業や閉店に追い込まれるなど、長らく低迷が続いた飲食業界だが、渡航制限が緩和された今年の春以降、一気に活気づいている。実際に、片岡氏がプロデュースした飲食店の中には、2021年末より初めて受け入れを開始、わずか半年で売り上げを伸ばし、ランチのみで月商500万円超の成果を出す店舗も出てきている。多様化する訪日客の食ニーズやトレンド、そしてインバウンド客に選ばれる飲食店になるためのポイントなど、トークライブでお話いただいた内容の一部をお届けする。


▲ヴィーガン料理を楽しむ外国人旅行者

 

食専門のランドオペレーターとして、訪日客と飲食店のマッチングを手掛ける

株式会社ワントリップでは、海外の旅行会社・企業と、日本の飲食店をつなげる食専門のランドオペレーターとして、インバウンドメニュー開発をはじめ、実際の予約手配、支払いまでトータルでサポートしています。

私自身は10代の頃、飲食店でアルバイトをしたのをきっかけに、20代前半はシェフもやりながら、接客から調理、仕入れまで現場経験を積んできました。インバウンドの食に関わるようになったのは2007年から。当時勤めていた居酒屋で売り上げが低迷するなか、中国からの訪日客が急増というニュースを耳にして、自ら台湾などアジア各国に直接営業に出向き、現地の旅行会社から送客を取り付けました。銀座で90席ぐらいのお店の現場に立っていましたが、多い日では1日約500人以上のインバウンド客を受け入れていました。当時は中国が最も多く、台湾、香港、 マレーシア、インドのほか、フランス、スペイン、インド、あらゆる国から来店していました。

2011年に会社を設立し、Oicee!!Japan(おいしいJAPAN)というサービスをスタートさせ、本格的にインバウンド誘客に取り組みました。Oicee!Japanでは、海外の旅行会社と日本国内の飲食店をつなげるべく、飲食店のインバウンド向けメニュー開発をはじめ、予約、支払い、プロモーションなどあらゆる面をサポートしています。インバウンド客を初めて受け入れる飲食店には、初日に現場に入って、配膳、接客、皿洗いまでしたこともあります。また、飲食店従業員向けにインバウンドに関する社内研修を実施したり、当日のオペレーション方法まで細かい点もお伝えしたりしています。

海外の旅行会社からは様々な問い合わせがありますが、特に多いのは、ベジタリアンやヴィーガンに対応できるお店はないのかということです。インバウンド団体ツアー客を中心に2019年は年間約20万人を送客していました。


▲Oicee!!Japanの提供するサービス

 

2023年は飲食店手配の相談が急増、当日の手配の依頼も…

コロナ禍で今までインバウンドを受け入れていた大型店舗や大手のチェーンの多くが撤退してしまいました。今、本当にお店も人手も足りない状況なのですが、今年の3~4月の桜シーズンはインバウンド客が急増し、明日の食事場所が決まってないという海外の旅行会社から飲食店を手配してほしいという依頼が毎日続きました。

実際にあった事例ですが、午前11時ぐらいに「今日の夜、95名の団体で焼肉を食べたいが、お店を手配してほしい」という相談の電話がかかってきたこともあります。都内のお店を希望していたのですが、スケジュールを聞くと、当日は足利フラワーパークから都内に入ってくるというルートでした。その間で空いているお店がないか探しまわって、最終的には埼玉県の焼肉屋に受け入れてもらいました。店の方もさすがに「今夜95人ですか?!」とびっくりしていました。まるで、私たちの会社が最後の駆け込み寺のようになっている現状です。

 

手配側の旅行会社と訪日客の「食」への優先度にギャップ

なぜ、このような状況になっているのかというと、コロナ禍でこれまで団体客を受け入れてきた飲食店が閉店したり、人員削減によりお客様を受け入れられず、旅行会社が手配できていないことが挙げられます。

一般的に、旅行客の手配が必要な「あご・あし・まくら」の中で、最も優先順位が高いのはホテル、その次が移動手段のバス、そして最後が食となります。特に今年の桜シーズンは旅行支援策もあいまって国内旅行客が活発だったので、旅行会社はホテル探しで手一杯でした。加えて、ホテルもバス会社も人手不足により手配先が見つからない。となると、食事先の確保は後回しになり、手配が間に合っていないのが現状です。

また、通常、旅行会社では、食の手配をするのは新人の仕事ですが、最近はヴィーガン、ベジタリアン、グルテンフリー、アレルギー対応など食の多様性が求められるので、容易ではありません。

ただ、旅行会社においては最も優先順位の低い食は、実は旅行者にとって優先順位が高い。そこにギャップがあると常々感じてきました。

 

飲食店の訪日客受け入れのポイント、ヴィーガン料理は実は難しくない?!

訪日客を受け入れたいと考える飲食店から「どのようなメニューを作ればいいのか」と相談されることが多いのですが、「はじめの一歩としてベジタリアンヴィーガン対応メニューを用意すること」と答えています。必ずしも植物由来100%のヴィーガンメニューが用意できなくても構いませんが、何も用意しておかなければ、飲食店選びの際に選択肢から外れてしまいます。数百人の大規模ツアーはもちろん、数十人の団体ツアーでも必ずベジタリアン、ヴィーガンが1人はいます。


▲クルーズ団体客の食の要望をまとめたもの、リクエストは多種多様だ

そもそも、ベジタリアン、ヴィーガン料理は実はそこまで難しくありません。和食は豆腐や野菜を使ったものが多いので、それらをベースに考えれば、想像より容易にできます。加えて、ハラルやグルテンフリー、アレルギー対応などできる範囲が広がれば、選ばれる確率が上がります。

 

説明なしではお客様に理解されない、料理の丁寧な説明で満足度アップ

インバウンド客受け入れには、提供する食事の説明も非常に大切です。

アジア圏の場合はたいてい、焼き鮭にお味噌汁とご飯を出すと、説明がなくとも理解してもらえるのですが、欧米圏の旅行客は初訪日の人も多いので、自分たちが何を食べているのか、理解できていないことも多いです。

メキシコからの団体客をある飲食店に連れて行った時のこと。その店では、自社農場でオーガニック栽培の朝採れ野菜を使った料理を提供しているのですが、そのことを、丁度現場にい合わせた農場長の紹介とともに、野菜への想い、背景などを簡単な英語でお伝えしました。すると、拍手喝采が起き、とても皆さん楽しんで食べて頂いたこともあります。簡単でも構わないので、外国語での説明をつけると、目の前にある料理の価値が高まり、一気にお客さんの満足度が上がります。


▲自社農園直送の野菜を使ったオーガニックレストラン

仮に、店員さんが直接お客様に多言語で案内せずとも、例えば動画で撮って見せたり、お店のコンセプトを自動翻訳でプレゼンテーションすることで、満足度アップにもつなげられます。

 

インバウンド団体客受け入れで、食事のクレームトップ3

訪日客にとって、和食はもちろん1番重要です。ただ、初めて訪日する欧米顧客にとっては3食すべて和食ではなく、間に1食でも洋食もはさむようにしてバリエーションがあったほうが、お客さんにも喜ばれることもあります。最近では、とんかつフライなどの日本的な洋食や、ワインを飲みながらつまみを食べるようなビストロスタイルも要望が増えています。

欧米圏からの団体客に関しては、3食すべてウェスタンスタイルを希望するツアーも多いです。ただ、実際に参加者に聞いてみると、やっぱり鮨や和牛も食べたいという声もよく耳にするので、滞在中のどこかで食べられるように調整することもあります。

また、国地域に関係なく、クレームでよくあるのは、量が少ない、料理が冷めているという声です。特に台湾・アジア諸国のお客さまは、ご飯が冷めていると仏前の供え物と同じという捉え方をされるので、気をつけたいポイントです。少しでも温かいものを提供できるように、オペレーションを考え直しましょう。

なお、団体受け入れの場合、料理の提供スピードが遅いのもクレームになります。団体の場合、食事の時間は1時間程度に限られているケースが多いため、限られた人数でどれだけ効率よく、スピーディーに温かい料理を出せるかが肝心になります。


▲ギリシャからの20名ほどの団体、この規模になる必ず食の多様性への対応が欠かせない

 

訪日客受け入れて稼ぐ飲食店、ランチのみで月500万超円売上

団体客だと、単価が安くて儲からないという声も聞こえてきますが、そんなことはありません。

ある観光地に近い飲食店では、これまでは日本人向けに1000円以内でランチを提供していましたが、半年ほど前からインバウンドの受け入れをはじめました。1800円、2500円、3500円の3パターンのランチメニューを作り、団体客向けに提供しています。最も人気があるのは、一番低価格の1800円のメニューでしたが、ここ最近の円安効果や世界的に高品質を求める傾向、また来年春節シーズンの動きもあり、最近は高価格帯のオーダーが急増しています。

この飲食店では、今ではほぼ毎日、大型観光バス3台ほどがやってきて、ランチ営業だけで月500万円を超える売り上げを出しています。そのため、ランチはインバウンド団体客のみに絞って営業し、夜は地元客や個人の観光客も受け入れる形で営業しています。ランチだけで家賃が払える程度稼げるというのは、飲食店経営において非常に魅力的です。

人件費、食材原価、輸入コストも高くなっている今、どれだけ効率的に飲食店を経営していけるか。その一つの方法が、やっぱりインバウンドで稼ぐことだと思います。

別の飲食店でも、夜の平均単価3000~4000円の居酒屋チェーンで、インバウンド向けに海鮮を中心とした1万5000円の夕食プラン作ろうとしていたり、こういった動きは今加速しています。

 

旅行者の食べたいメニューで、まずは高品質、高単価メニューを用意

ただし、価格をあげればお客様が動くというわけではありません。高価格帯にするには、この地域でとれた、この食材を使った料理だから、この価格になるという、高い品質と説得材料が必要です。さらに、それをインバウンド客と彼らを案内するガイドの方に理解してもらえるよう、伝える必要があります。伝わらなければ、その価値が理解されず、何を食べているのかわからないままで、お客様の満足度は上がりません。

選択肢を広げるという意味でも、例えば1万円以上の高品質、高価格のコースをメニューに用意しておくとよいでしょう。インバウンドのお客様は、安いもの食べに日本に来ているのではなく、おいしいものを食べたい、自分がやりたいことを経験したいという思いで、はるばる遠くから足を運んでいるのです。

お店によっては仕入れ先や提供方法が決まっていて、新規開拓や変更が難しいという場合もあるかもしれませんが、まずは一度、できる限り満足してもらえる高品質、高単価のメニューを作ってみてください。季節によって旬なものも仕入れ価格も変わるので、あくまで一例で構いません。

特に、高品質、高単価の商品を選んでいただきやすいインセンティブやMICEなどの団体ツアーは、ツアー実施までには半年~1年の準備期間があるケースが多いです。そのため、問い合わせが来てから、具体的な仕入れや調達を考えても十分間に合います。

むしろ、高品質、高単価の商品を求めている団体ツアーの場合、1000円や2000円程度のメニューしかラインナップがない場合、選択肢から除外される可能性もあります。また、今、自分のお店で出しているメニューと同じものにこだわる必要もありません。先ほどお話した、ランチで売り上げ500万円を超えるまでになった飲食店のメニュー開発にあたっては、近隣の飲食店の状況を調査し、その観光地ですき焼きを提供するお店がなかったことから、すき焼きメインのラインナップからスタートしました。マーケットインの視点で、訪日客ニーズに合うものを用意すればいいのです。今では来年の春節や訪日ピークシーズンに向けて、さらに新たなメニュー開発をしている最中です。

 

飲食店の団体誘致のコツ、添乗員やドライバーへ営業して口コミで広げる

飲食店が訪日団体客を呼び込みたい場合、どのようなプロモーションを仕掛けるのが効果的なのでしょうか。

私が飲食店勤務時代に台湾からの団体旅行客の営業ために実践していたのは、実際にお客様を案内している添乗員の方やバスドライバーの方に直接アタックすることです。お店のパンフレットを渡して、ぜひ一度来てくださいと声をかけました。なぜなら、実は彼らもインバウンド対応をしている飲食店の情報を欲しがっているからです。

彼らは、添乗員仲間のネットワークを持っており、良い情報は口コミですぐ広がります。

特に、台湾や中国のガイドさんはWeChatやLineなどを使ったグループコミュニティに入っているケースもあり、「あの店良かったよ」「新しくこんなお店できたらしいよ」と一気に情報が拡散します。お金もかからないし、すぐに情報が広がるという点で一定の効果があったように感じます。

コロナ禍でインバウンド市場から撤退したり、閉店してしまった飲食店も多く、訪日団体客を受け入れられる飲食店が減っているなか、今まさにインバウンド市場に取り組むことでチャンスが広がります。

団体旅行と言っても、低価格のツアーだけでなく、むしろコロナ前よりも品質やクオリティを重視するMICEやSITツアーなど、高品質、高価格帯の商品を求めるツアーが増加しています。

受け入れ態勢を整えるのは大変だと構えすぎず、まずは、受け入れてみて、添乗員や旅行者から生の声を聞きながら改善していく、というやり方でぜひ挑戦してみていただければ幸いです。

(写真提供:株式会社ワントリップ)

 

プロフィール:

株式会社ワントリップ 代表取締役 片岡 究

幼少時より海外へ強い関心を持ち、手に職をつけ世界を廻るため飲食業界へ。様々な店舗にて調理、店舗運営、マーケティング企画・開発責任者を経験しながらアジアを中心にバックパッカーとして旅をする。2007年より飲食店舗インバウンド誘致と現場改革に関わり、僅か1年で前年比売上最大400%UPを実現。2011年株式会社インテージア設立。飲食店様向けインバウンド誘致サポートサービス【Oicee !! Japan〜オイシージャパン〜】を通じ独自のマーケティング・現場プロデュースを実施。売上が急増する店舗が続出している。サポート客数は年間20万人を突破。専門誌への執筆・セミナー多数。現在では、訪日観光客をあたたかく受け入れられる店舗を日本全国に増やすため、教育事業にも積極的に取り組んでいる。

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