インバウンドコラム
専門家を招いてインバウンド業界の旬なトピックスにフォーカスして話を聞くトークライブシリーズ「観光・インバウンド業界のトレンド」。今回はバイクツーリズムがテーマだ。話を伺ったのは、訪日客向けに1万3000件超のバイク旅をサポートしてきたMOTO TOURS JAPAN株式会社で取締役社長を務める原田美和氏。
バイクに乗って旅そのものを楽しむアクティビティであるバイクツーリズムは、魅力的な観光スポットが点在しながらも交通に課題のあるエリアと相性がよいこともあり、昨今注目されている。世界のライダー人口は1億人を超えるとされ、特に欧米を中心に一般的になりつつあるが、日本においては受け入れの環境が十分とは言えない。だからこそ、今後の発展の可能性に満ちた領域と言える。
ツアー開発はもちろん、自らバイクに乗ってアテンダントもこなす原田氏にバイクツーリズムの基礎知識、現状やライダーならではのニーズなどを聞いた。地方でバイクツーリズムを推進するためにできることとは何か。トークライブの内容の一部をお伝えする。
▲レンタルバイクで日本を巡るライダーたち
レンタルバイク業を活かして旅行業に参入
バイクツアー専門の旅行会社であるMOTO TOURS JAPAN株式会社は二輪車の販売整備、レンタルなどバイクを軸に事業を展開するキズキグループの子会社として2017年に設立された。その10年前の2007年にはレンタルバイクサービスを開始。このレンタル業で培ったネットワークや知見を活かし、バイクツアーを行っているのが特長だ。
2019年からは日本の魅力再発見を掲げた数多くの官民連携事業に携わっている。同社が観光資源をバイクで繋ぐ役割を果たした好例として、三重県との共同事業が挙げられる。三重県は伊勢神宮や熊野古道など集客力の高い観光資源が点在しており、それらの観光地を繋ぐ二次交通に課題があった。そこで、MOTO TOURS JAPAN社は県と協働し主要観光スポットを巡りながら、ライダー目線で魅力のある鈴鹿サーキット、バイクに関わるクラフト工房などにおいてアクティビティができるオリジナルツアーを造成。ツアー客から高い評価を得ながら、二次交通の課題解消の方途を示してみせた。
▲旅の道中で立ちよった、三重県伊勢鳥羽での海女小屋体験の様子
原田氏は「こういった取り組みは全国でできるはず。今はフライトが羽田や成田の両空港に集中していることから関東発のツアーがメインですが、今後は地方での展開も視野に入れています」と話す。
世界で広がるバイクツーリズムの基礎知識
スポーツツーリズムやドライブツーリズムの一つにも数えられるバイクツーリズム。日本ではまだ手掛ける会社が少ないが、世界に目を移すと特にヨーロッパで盛んで約250社、北米やアジアでもそれぞれ80社ほど存在し、富裕層向けのサービスを展開している。その背景には世界のライダー人口が1億人以上いるという、ターゲットとなる層の厚さがあるようだ。
しかも、この数に、道路交通に関するジュネーブ条約やウィーン条約の締結がない中国やベトナム、インドネシアなどは含まれていないという。「私たちは7年で累計1万3000名のバイク旅をサポートしてきましたが、今年はわずか1年間で1万名の利用と急激に伸びています。非常に可能性のある分野だと認識しています」と原田氏は語る。
バイクで日本旅をする人のなかには、バイクレンタルだけの訪日客もいるが、宿や食事やアクティビティなどをカバーするが、ガイドが帯同しないセルフツアーに申し込みする人も一定数いる。また、それに加えてバイクアテンダントやサポートカーが付帯したアテンダント付きツアーに参加する人もある。
同社が提供するサービス価格の目安は、2泊でレンタルのみの場合は5万円、富士山を眺める2泊の富士箱根セルフツアーで15万円、日光などを巡る関東周遊の4泊5日のセルフツアーで30万円。13泊14日のアテンダント付き日本周遊ツアーに至っては、日本発着で約180万円に上る。
▲富士山を拝める富士箱根ツアーは手軽で人気を集めている
原田氏はこう補足する。「来日後、すぐにライダージャケットなど装備品を新調する方もいます。日本の製品は質の高さで知られているので、20万円以上かける方もいます」。なお、さらなる長期滞在のニーズに応えて現在、新たに30泊のツアー造成にも取り組んでいるとのことだ。
アジアの台湾と欧州のスペインからの客が多い理由
利用する国、地域は台湾が群を抜いて多く、全体の40%を占めるに至っている。日本に近いという地理的条件もあるが、バイク保有率が2人に1人と世界で最もスクーターが普及しているスクーター大国であることが理由に挙げられる。2位以降のベスト10は韓国、アメリカ、香港、フランス、オーストラリア、ドイツ、タイ、シンガポール、スペインとなる。
一方で、単価が高額な国ではスペインが1位となる。伝統的にモータースポーツ人気が高いスペイン。気候が暖かく一年中バイクに乗れること、オートバイツーリズムの先進国であり、長期の休みが取りやすいという文化も背景にある。2位以降のベスト10はオーストリア、フランス、アルゼンチン、アラブ首長国連邦、イタリア、ニュージーランド、オーストラリア、スイス、イギリスとなり、滞在日数が長い欧州の国が多い。
欧米からやって来るライダーの特徴を原田氏はこう説明する。「彼らは人気が集中しオーバーツーリズムが起きている場所を避けたがります。たとえ観光地としてのスケールが小さくても、手付かずで多くの旅行者に見つかっていない場所を好みます。本物が見たいという気持ちが強くあるようです」
参加者の属性については、9割5分が男性と大きな男女差が見られるが、パッケージツアーだと配偶者の参加率が増えて男性が8割程度となる。台湾や韓国、香港は訪日リピーターが多く、欧米豪は初来日の割合が多い。年齢はアジアは30~40代と比較的若年だが、欧米豪は55~65歳のシニア世代が一番多い。
▲女性ライダーもいるが全体の95%は男性
世界のライダーたちが日本に期待していること
日本にやって来るライダーで特にヨーロッパなど遠方からの場合、「せっかく日本に行くからには魅力的な観光地を安全かつ快適に旅をしたい」というニーズがある。13泊14日のアテンダント付き日本周遊ツアーはそのニーズを限りなく満たしている。全体で10~15台のグループとなり、平均1日200kmを走行するが、景色が単調になりがちな高速道路をなるべく避け、下道を使用する。また、3~4日ごとに走らない休息日を設けて徒歩などで観光し、走行日でも途中1~2カ所は観光要素を入れるのがポイントだ。原田氏は「旅館やホテルは4スター以上が基本。立ち寄った各地でお土産を購入する姿も見られます」と彼らの様子を明かす。
そんなライダーたちは日本に何を期待しているのか。食、文化、自然、歴史といった一般のインバウンド旅行者と変わらない面に加えて、整備された道や道すがらの風景に魅力を感じているのだという。MOTO TOURS JAPANには「日本は季節ならではの風や香りが感じられ、景色を見ながら安心して旅ができる最高の国」「地域によって瓦の色が違ったり、急に棚田が現れたり、道すがらの全てが観光資源で退屈にならない」などという参加者の声が届いている。
また、日本の自動二輪車の販売台数は世界シェアの約半数を占めるほど人気があり、中でもホンダはトップに君臨。ヤマハ、スズキ、カワサキ(現、カワサキモータース)を含めた日本の4大バイクメーカーは多くの世界のライダーを魅了している。そのため、日本を特別視し、旅をしたいと考えているライダーも少なくないとのことだ。
▲サーキットでの走行体験は鉄板コンテンツの一つ
今後、地方でバイクツーリズムを推進するために
バイクツーリズムがまだ浸透していない日本。海外に比べてバイク専用の駐車場が圧倒的に少ない、という問題点がある。そのため、路上駐車せざるを得ない場面もよくあるのだとか。原田氏は今回、地方でバイクツーリズムを推進するためにできることとして、受入環境整備、観光資源の発掘、広域連携の3点を挙げた。
受入環境整備については、バイクツアーの受け入れを歓迎する姿勢があるとよいとのこと。駐車場についても、豪華でなくとも一画を4輪用として空けてくれるだけで構わないと話す。また、雨天時のチェックインでタオルを渡すなど、少しの気遣いでもライダーは感激するそうだ。
続いて、エリアならではの魅力的な観光資源の発掘。これは伝統的な文化や民芸を始め、バイクや車に関係する観光資源、田園風景や棚田といった里山文化など日本人には当たり前に思えることも訪日ライダーには魅力に思えるものが多くある。こういった価値の再発見を各地域で行いたい。
そして、広域連携の重要性だ。バイクツーリズムは地域や県をまたいで展開されることが多い。だからこそ「うちの地域だけ」といった気持ちを排して、地域を越えた連携に取り組みたい。
原田氏は最後にこう提案する。「地域に例えば富士山や金閣寺といった有名な観光資源がなくても全く構いません。資源発掘を私たちと一緒にして、ライダーたちに響く魅力的なツアーパッケージを共に作り上げていきましょう」
プロフィール:
MOTO TOURS JAPAN株式会社 取締役社長 原田 美和
オーストラリア・メルボルンの大学で観光業を学び帰国後、バイク関連の仕事に約15年間従事。大学で学んだ知識と二輪業界の経験を活かし、バイクツアーに特化したMOTO TOURS JAPANを創設。当初はレンタルバイク手配から始まり、2016年頃より、多数の海外顧客から旅行手配の依頼を受けたことで旅行事業を開始。自身もバイクツアーの開発やアテンダントとしてツアーに同行している。オートバイ産業が地方への送客・二次交通の課題の解決にも寄与できること、日本における「オートバイ産業」と「日本観光」の魅力を伝え、多くの方にバイクに乗って旅をしてほしいという思いを胸に日々奮闘している。
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