インバウンドコラム
2018年に外国船社が運航するクルーズ船の寄港回数は前年比 5.0%減の1,913回、クルーズ船で入国した外国人旅客数(訪日クルーズ旅客数)は前年比3.3%減の244.6万人と、「2020年に500万人」の目標を前に停滞している。
そんななか、外国クルーズ船寄港数4年連続一位の博多港を持つ福岡で「第5回クルーズ会議」が1月30日に開催された。
九州・下関7都市で「クルーズ船受入に関する連携協定」締結
2018年の外国クルーズ船寄港数をみると、1位:博多港(263回)2位:那覇港(236回)、3位:長崎港(216回)、4位:平良港(142回)、5位:石垣港/佐世保港(105回)と九州・沖縄が上位を占める。
今回の福岡クルーズ会議で発表された「クルーズ船受入に関する連携協定」は、下関市、八代市、北九州市、別府市、日南市、佐世保市と福岡市の7都市により締結。クルーズ船受け入れ環境の改善や寄港地観光の魅力向上や広域観光などについて、定期的に協議する。また、福岡市は2017年に導入した団体バスの集中による交通渋滞を解消するオリジナルシステム「クルーズNAVI」を無償提供するなど、様々なノウハウを共有する。(※クルーズNAVIほか博多港の取組はこちら)
連携発表の後、各都市は港や寄港地観光の魅力をプレゼンテーションした。いずれも16万トン〜22万トンの船が寄港できる港湾を整備(もしくは整備中)、1時間以内で多彩な観光地にアクセスでき、歓迎セレモニーやシャトルバスの準備、区域外からのタクシー呼び寄せなど受入体制を整えている。また、下関市では「ふく刺身作り体験」を企画するなど、体験プログラムの開発にも注力している。
中国発およびアジアクルーズは今後も成長するのか
国土交通省の発表によると、2018年のクルーズ船の寄港回数は前年比5.9%増の2928回となり、過去最高を記録したものの、最大のシェアをもつ中国発クルーズは961回と対前年比17.8%減、中国発の訪日クルーズ旅客も202万人(対前年比 7.0%減)と減少している。これら中国発クルーズの減少は、中国のクルーズマーケット急拡大に伴い、各社が配船を急増させ、競争が過熱した結果、マーケットが軟化し調整局面に入ったことによると考えられている。各社の計画によれば、2019年も引き続き調整局面が続くと見込まれるが、各社は販売価格回復に向けた取り組みを進めており、2020年に向けて再び中国マーケットへのクルーズ船の配船増加を表明している。
(2019年1月18日 国土交通省報道資料より)
アジアのクルーズ市場に対する提言
「アジア・クルーズ産業の概況」と題した基調講演では、クルーズ船社国際協会(CLIA)北アジア会長であるジナン・リウ氏が、現状の分析と提案を行った。
○アジアのクルーズは2日〜6日のショートクルーズが79%を占めている。
○様々な大きさのクルーズ船が航海しており、船が着岸する港湾整備の拡充も望まれている
○今後伸びしろのある分野はフライ&クルーズで、今後も増加が予想される
こういった現状をふまえつつ、日本政府に対するカジノ規制緩和への提言もあった。
「現在、日本の公海上はカジノの運営ができない。そのため、日本を航行する際、例えば福岡から鹿児島への移動でも公海を避けて遠まわりをしなければならず、競合する北米などのクルーズ市場と比べても利益が得られにくい。アラスカでは、港から3マイル離れるとカジノがオープンでき、イギリスでは港から1分離れると外国人客ならばカジノを利用できる。そこで、日本でも外国人客に限り、港から2~3マイル離れたらカジノができるようにしてほしい」
更に、リウ氏は、中国市場の今後についても分析と予測を行った。
「中国は、世界最大のクルーズ市場になるとの期待感があるが、ここ数年間は成長が滞っている。クルーズ商品を利用できる中間所得層が2億人から3億人に成長した。現在の中国のクルーズ人口は、全人口のわずか0.17%(240万人÷中国人口13.86億人)にすぎないが、米国のクルーズ人口は3.6%(1190万人÷米国人口3.26億人)を占める。(※2017年ベース、CLIA統計から)。
中国でのクルーズ旅行の浸透率がアメリカと同等になると、非常に大きなマーケットとなる。しかし、アメリカでさえクルーズが定着するのに20年以上かかった。市場の成熟度をはかるリピート率は中国10%だが、アメリカは80%にもなる。中国はいままさにクルーズマーケットが成長している途中段階である。
大手のホールセラーに頼った販売方法から船社による直販や、小規模のリテーラーによる販売など供給の方法も整理されている途中でもある。寄港地はクルーズを選ぶ大きなキーポイントであり、日本や韓国は現在でも人気があるものの、東南アジアのタイやヨーロッパ市場と戦うためには、もっと日本の各地域と協力して魅力のある観光資源を開発していく必要がある」
また、「アジアのクルーズ市場、特に中国市場は、将来世界最大のクルーズ市場になる可能性を持つが、まだ発展途上の段階にあり、日本側もさらに連携して推進しなければならない」というキーノートは、力強く明快な展開に思われた。
アジアへ真にクルーズを根付かせるために
最後に行われた「アジアへ真にクルーズを根付かせるために」というパネルディスカッションでは、ロイヤル・カリビアン・インターナショナル、カーニバル・アジア、コスタ・グループ、MSCクルーズ、ノルウェージャン・クルーズ・ライン、ゲンティン・クルーズラインの6社の船社の代表が参加。
パネリストの概ね一致した意見として
「アジア、中国のクルーズ市場自体がチャレンジをしている時期。消費者にクルーズ商品はまだ知られておらず、それだけ価値や魅力があるものだと意識を高めているところ。今後、さらなる成長が見込まれるが、大手ホールセラーに頼り、毎年倍増ベースで急伸させてきた販売チャネルを正常化し、直販を増やしていく必要がある。1週間以上のロングクルーズの増加もキーポイント」と、持続可能な発展を長期的に見通していた。
「港に着いて1時間で終了する」入国手続きの簡素化や、「どの港も同じようなテイストや寄港地観光で差別化できていない。そこでしか味わうことのできない、もっと本物の日本ならではの魅力をしっかり提示するべき」と日本の寄港地側のさらなる努力を求める声も多かった。
「供給する船社側の理論やオペレートの視点ではなく、本当にこれで満足しているのか、改善点は何か消費者の声をきいて改善すべき。印象が悪ければリピートしない」と、マーケットインの視点の必要を求める意見もあった。
また、日本は港と観光スポットや市街地が近いなど、フライ&クルーズに適しているとの評価も高かった。
東アジアのクルーズ市場はここ7~8年の新しい挑戦であり、急伸による反作用から正常化へ向かう第2ステージに入ったといえる。北米のクルーズと比べても歴史は浅く、直近2~3年の結果だけをみて、一喜一憂することはあさはかな判断だと思われる。日本の各エリアは、中国市場だけでなく、世界に選ばれる寄港地、クルーズ拠点として、観光資源を磨き、広域でも連携をして努力をする時期ではないだろうか。
(やまとごころ九州支部 帆足千恵 プロフィール及びコラム一覧はこちら)
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