インバウンドコラム
アジアのツーリズムリーダーを標榜するタイは、エコツーリズムなどタイの新たな魅力を伝えるプロモーションを次々と打ち出している。
6月5日から7日に開催されたTTM+2013(タイランドトラベルマートプラス2013)の取材リポートを中心に、日本とのツーウェイツーリズムの可能性および日本のお手本となる戦略を考察する!
目次
1.世界中からバイヤーを集めたTTM+
2.日本マーケットへの戦略はツーウェイツーリズムも視野に
3.「タイらしさ」強みを伸ばすツーリズム
4.タイや他国とともに“日本”を伸ばせるか
1.世界中からバイヤーを集めたTTM+
バンコク郊外の大きなエキシビジョンエリア・IMPACTで6月5日~7日に開催されたタイ国政府観光庁(以下TAT)主催の「TTM+2013」。
世界中から集まったバイヤーとタイおよび近隣各国のセラーによるタイで最大のB to Bトラベルマートだ。31名の英国を筆頭に24名のインド、地元タイやオーストラリアなどから招待を含め約400名のバイヤーが集合。ブルガリアやアルゼンチン、メキシコなどこれからの可能性を秘めたマーケットのバイヤーも多く、「ニッチマーケットを狙っていく」タイの意気込みが感じられた。
初日である5日はシンポジウムとマッチングによる商談会、オープニングパーティを開催。パーティでは今までタイに対して貢献があった個人や団体を表彰する「Friends of Thailand」があり、日本からは国際ツアーオペレータ部門で沖縄の「ジャンボ・ツアーズ」が選ばれた。2012年に2回、今年4回実施する双方向チャーター便運航の実績を評価された。まさに、日本とタイの「ツーウェイ・ツーリズム」を体現する形になっている。
6日、7日はセラーがブースを構え、そこをバイヤーがまわって商談をする形式。 Eco tourism、Honeymoon、Healthy & Wellnessなどのテーマによりブースをまとめていたが、全体的にはホテルのブースが多い。ゲストハウスから5ツ星ホテルまで、バラエティ豊かな宿泊施設が揃うタイの状況を物語っていた。
また、2015年のアセアン共同体発足を見据えたこともあり、ラオス、ミャンマー、ベトナム、カンボジア、中国の雲南省などメコン川流域の国やエリアが出展。タイ+1ディスティネーションのプロモーションは、特に欧米のバイヤーには新鮮に写っていたようだ。
さすがツーリズムを推進してきたタイだけにこのような旅行見本市のオペレートは手慣れているようで、その点も見習っていきたい。
例えば、期間中開催されるランチは、テーブルのセッティングやあしらわれる生花も毎日華やかに変わる。ベジタリアンメニューもおいしく多彩。タイ各地方の名物を織り交ぜ、毎日変更を加えて飽きさせない工夫が凝らされている。
オープニングパーティで、バンコク各地の名物ストリートフードを屋台風に再現したのも楽しかった。風景看板やトゥクトゥクなどフォトセッションの場所も多く作られていたことも参考にしたい。
2.日本マーケットへの戦略はツーウェイツーリズムも視野に
今回のTTM+には、世界中のメディアも集まっていた。私もそのひとりで、記者会見のプレゼンテーションも非常にわかりやすかった。
タイのマーケット概要をまとめてみよう。
2012年の外客数は約2200万人で前年比15%アップ。
2013年の1月~4月は特に好調で、約884万人と対前年比19.04%のアップかつ過去最高にのぼる勢いだ。なかでも驚異的な伸びを示すのは中国マーケットで、この4ヵ月で153万人が訪れ、同時期92.82%アップとなる。
日本人の訪タイ客数は、2012年は約130万人、2013年は150万人の目標を掲げる。
2013年1月~4月で既に52万人を超え、好調な数字を残している。北海道への新規就航路線や機材の大型化が進み、客席供給数が増加。九州では福岡以外のチャーターなども行ったためと分析している。
日本メディアへのインタビューに応じたサンスーン・ガオランシーTAT副総裁は、日本を「個人旅行70%、リピーター率も高いクオリティマーケット」と位置づけたうえで下記のようなマーケティング戦略を示した。
①ロングステイの推進インラック首相が日本政府と交渉を重ねている。
東京、大阪、福岡の三事務所連携で積極的に推進し、ファムツアーなどを実施する。
②ジュニアゴルフ 若者のゴルフ人材の育成タイにある国際水準を満たすゴルフ場が200ほどある。
価格も安く、気軽に楽しむことができるため、ジュニアゴルファーを誘致する意向。
③修学旅行タイの文化や自然を体験して、視野を広げてもらいたい。
④Thainess to the world「タイらしさ」をプロモーション。
例えば、タイ料理は有名だが、その背景にあるストーリー、深い魅力をPRする。 香辛料や素材を知り、どんな風に健康にいいのか。リアルに体験してもらうためのクッキング教室などが有効。同様に「ムエタイ」はマーシャルアーツ、護身術、ヘルシーな運動として体験できるが、年長者を敬う礼儀作法など深い精神性を伝えたい。具体的には体験ができるスポットのリストアップを行う予定。
日本とタイは相互に送客するツーウェイ・ツーリズムの時代という認識も強く、日本で有名な「ゆるキャラ」とTATのマスコット「ハッピーちゃん」で共同のプロモーションを行う計画もあるそう。
これだけみてもボリュームゾーンをとりにいくマーケット戦略ではなく、セグメントされたニッチな市場を見据えてのプランだということがわかる。さらに、料理やムエタイの表面的なPRではなく、深い部分を全面的に押し出している。
観光後発国である日本はマスも取りつつ、このマーケティングも同時に手がけていく必要がある。
3.「タイらしさ」強みを伸ばすツーリズム
開会に先立つ6月4日、招待されたバイヤーやメディアは、半日のプレツアーに無料で参加することができた。タイ料理のクッキング教室や新しいウォーターレジャースポット見学、チャイナタウンや水上マーケットなどの商店街めぐり、ムエタイ体験など6つのツアーがあったが、私は「タイ:ハーバルローゼンジーとワット・ポー&タイマッサージを学ぶ」を体験した。
まずは、薬草などから伝統的な手法で薬を作るタイで最初に作られた薬局を訪問。3代目オーナーの実演を観ながら、商品の説明を受けていく。次にワット・ポー見学。そこで技を習得したスタッフによるタイ・マッサージを体験し、休憩と軽食という流れだ。
すべて英語での説明で、15名ほどの参加者はほとんど興味を抱いていた。ただ、この薬局を旅行関係者が訪れるのは初めてとのこと。今回のTTM+に合わせ「タイらしさ」を考えて、半日ツアーとしてトライしたという。日本人には、やはり日本語でどんな効能があるのか、タイ・マッサージの基本精神やちょっとしたツボを教えてもらうようなミニ講座があり、3000円程度であれば新しいツアーになるのではないか?
同じように体験型ツアーやファムツアーを行うこともある私にとっては、とても勉強になった。いくら素材がよくても、オペレートのスムーズさやちょっとした工夫の有無で成否が変わってくる。もちろん何回も試行すれば改良できるのだが、ぶっつけ本番も多いので留意していきたい。
タイの強みはほかにもある。ネイチャーリゾートやバラエティ豊かなホテル、タイ料理、エコツーリズム、旅行者へのメディカルツーリズムなど枚挙にいとまがない。
バンコクにいたっては、大きな強みは「夜も楽しい」こともあげられる。ショッピング施設が夜遅くまであいていて、ファミリーで楽しめる。
夜店が並ぶ歓楽街やマッサージサロンを練り歩くのもバンコクならでは。有名なニューハーフショーやミュージカルなどのエンターテインメントも充実している。我が九州・地元福岡ではグルメ以外の要素が少なすぎることを痛感させられる。
今回は韓国発で世界に広がるパフォーマンス「NANTA」を観た。今年オープンしたばかりでまだ認知度は低く、観客は少なかったが、その圧倒的な迫力と観る者を巻き込む技はさすが。
各国の言語で舞台設定とルールを説明するユニークな字幕イントロダクション。キッチンをステージにした打楽器やアクロバティックなパフォーマンスは、韓国語が分からなくても引き込まれていく。
終盤では中国人観光客から「加油!加油!(がんばれ)」の声も沸き起こるほどだ。演出の一部をタイ仕様にするなどの工夫もなされている。
4.タイや他国とともに“日本”を伸ばせるか
今回は会期中に世界中のバイヤー(旅行代理店)から話しをきくことができた。
「世界の交流人口は飛躍的にのび続ける」ことを体が震えるほど強く感じた。
中でもタイ+1のディスティネーションとしてあがっていたカンボジアやミャンマーの旅行エージェントはインもアウトも両方やっている。
「特に本国からは(旅行商品を)作れば作るだけ売れる。来ることももちろんウェルカムだが、(日本や他国へ)送り出す際の情報がもっと欲しい」
とアグレッシブに動いていた。
イン・アウトを行い、日本へは企業視察などを行っているインド・ムンバイの旅行代理店の社長は日本へのアウトバウンドが高価格でもどんどん伸びていると語った。
インドからの旅行者は、タイでSONYかSAMSUNGの高級テレビを購入することが人気だとのこと。インドより安く、差額が大きいことが理由だそうだ。
アルゼンチンの旅行エージェントは、まだ東南アジアや日本の旅行商品は手がけていないが、新しく興す会社の方で作ってみようと意欲的。3週間ほどと長い休暇が多いので、東南アジア+日本という旅行商品は十分可能性があると語っていた。
やはり私たちはもっともっと現場をマーケティングして勉強していかなければ、この成長する市場をとらえていけない。
以前TITFのレポートコラムで語ったように「タイには日本がいっぱい」ではあるが、それに甘んじていては危険である。
韓国のK-POPスターはここでも人気で、韓国料理店もフードコートに並び、しかも旅行商品は安い。やっとビザがいらなくなったタイ人をはじめ成長する周辺諸国のパワーと向き合って、どう交流していくのか。スピーディーな対応も望まれるところである。
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