インバウンドコラム
日本の自治体主催では初めてとなる海外デジタルノマド誘致プログラム「Colive Fukuoka」が2023年10月に開催された。シェアリビングの宿泊施設を拠点に、福岡・九州の観光・体験プログラムや多様なコワーキングスペースでのビジネス交流イベント、地域の人ともかかわるプログラムなど60以上のコンテンツを展開していた。
ここでは、400名を超えるデジタルノマドが参加した、第2回目となる2024年の模様をレポートする。
45カ国から400名が参加、リピート率も高かった福岡でのデジタルノマドイベント
Colive Fukuoka 2024は、2023年同様に10月1日からスタートし、45カ国から400名超(うち外国人が220名超)が参加した。2023年の参加者が24カ国から約50名だったことを考えると、倍以上の飛躍をとげている。海外からの参加者の構成をみると、アメリカ、イギリスなどの欧米が63%で、東アジアが8割をしめる福岡市の従来のインバウンドの割合とは大きく異なる構成となった。
▲メインカンファレンス1日目は、エストニア・フィリピン・マレーシアなど各国の政府機関や民間企業がノマドビザの取り組みについて紹介。近藤麻理恵さんによる特別講演も行われた
メインイベントとなる10月23日から3日間にわたり開催されたカンファレンスの初日を取材した。再会を喜びあうデジタルノマドたちや国内の参加者で賑い、明るく華やかな雰囲気に包まれていた。どのようにしてこれだけのノマドたちを集客できたのか、事務局である(株)遊行 代表取締役の大瀬良亮さんにきいた。
「嬉しいことに、2023年の参加者の半分以上がリピーターとして今回の福岡に参加してくれました。彼らがアンバサダーとなって口コミを広めてくれたことが一番大きいと思っています。私自身も世界中のデジタルノマドのコミュニティと実際に話し、直接セールスを行いました。SNSやWeb広告、英語記事での露出など広報活動にも注力しました」
観光プログラムだけでないイベント、交流会も人気
カンファレンス以外の日程では、地域のコワーキングスペースを訪れての仕事や地域の酒蔵ツアーに参加、屋台巡り、スタートアップイベントへの参加など、前年に引き続き開催したプログラムを実施。特に、今回の取り組みで好評だったのは下記のプログラムだという。
スポンサーのMicrosoftやSUNTORYとの共創体験
プラチナスポンサーであるLenovo・Microsoftのプログラムは「AI PC」に関するデジタルノマドとの共創。「AI PC」は、AI機能がPC本体に組み込まれ、ローカル環境でもAI機能を活用できるモデル。マイクロソフト認証の「Copilot+ PC」は、AI機能を効率的に活用する高性能モデルとして注目され、「Copilot+ PC」に認証されたLenovoのラインナップが展示された。バッテリー接続時間が長く、軽量化されたPCを実際に体験することもでき、場所を選ばずに仕事をするデジタルノマドには使い勝手がよさそうだった。
SUNTORYの共創体験では、世界へ発信することを目的に、参加者のデジタルノマドの中からアンバサダーを5名選出。Instagramのストーリーで「#Kamiawasmile チャレンジ」というキャンペーンを展開し、72投稿、4.2万人超へのリーチを創出した。また、講義や熊本工場への見学も行われたという。
▲カンファレンス時のLenovo・Microsoftスポンサーとのプログラム
福岡市内の不動産内見ツアー
長い時には数カ月滞在するデジタルノマドにとって、居住費を安価に抑えらえるかどうかは大切なポイントの1つ。特に、欧米出身で、アジア周遊のための拠点がほしいデジタルノマドにとって、国際線が就航する空港が、市街地から近い福岡市は最適な場所といえる。
参加者からは「予想以上に家賃が安い」「畳のある和室は日本ならではの文化で素晴らしい」といった声や「作業用のデスクをどう設置するかは考える必要がある」といった感想のほか、日本ならではの賃貸慣習(敷金礼金、最低契約期間など)に関する質問も多く挙がった。
▲不動産内見ツアー
福岡を代表するスタートアップ・ヌーラボ社での交流会
このように、観光だけでなく、地域経済や企業とのオープンイノベーションに貢献するイベントにも多くの参加者が集まった。
▲着付けプログラムを体験したアメリカからの女性は、2023年のイベントのことをノマド仲間からきいて参加を決定。別のアメリカからの参加者は、デジタルノマドのFacebookから今回のプログラムを知って申し込んだという
参加したデジタルノマドの半分以上が「福岡初訪問」だったが、参加したデジタルノマドのコミュニティオーナーをはじめとして「福岡がこんなにいい街だとは知らなかった」「今回はカンファレンスを中心に参加したが、次回はもっと長く滞在したい」という声が多数届いたという。
大瀬良氏は「やはり福岡市は、長期滞在を見据えた『住人目線』での魅力は世界トップクラス」という確信を得たという。
▲朝のアクティビティで。空手の体験プログラムも楽しんだ
長期滞在しやすい環境整備が、デジタルノマド誘致のカギに
今回の参加者は、前回をはるかに上回り、海外から200名以上を含む400名を超えたという。
自治体として日本初のデジタルノマド誘致プログラムに取り組んでいる福岡市役所・横山裕一氏(経済観光文化局観光コンベンション部 観光産業課観光産業係長)によると、東アジアからの旅行者がほとんどの福岡市において、欧米からの参加者が63%(外国人参加者の割合、2023年は45%)という突出した数値が出たことからも、デジタルノマドの取り組みは大変価値があるものだと改めて感じたという。
「世界のデジタルノマドがアジア滞在の拠点として『福岡市』を選んでくれる、そんなポテンシャルも十分にあると感じることができました。国内、アジアへの直行便も多いので、福岡を拠点に九州や関西、東京圏など国内の他エリアを旅し、福岡に戻って出国するというスタイルが増えると期待しています」
また、国内外のノマドコミュニティ、関心がある自治体や大企業、スタートアップなど多様なステークホルダーと連携できたことも大きな収穫だったそうだ。
そのうえで、今後の課題としては、長期滞在できる宿泊施設の数だという。「福岡市もホテルの稼働率、料金ともに高くなっており、特に金土日が高くなる。1カ月はゆっくりと滞在できる施設を増やしていきたい」とのことだ。
今回は2023年に引き続き10月を中心にプログラムを展開したが、今後は年間を通してノマドの方々に来てもらえるよう、受入れができるコミュニティ作りやノマド向けのコンテンツ拡大にも取り組みたいと考えているという。
実際に話をきいたアメリカ人のノマドは、「10月20日に日本に入り、メインカンファレンスを楽しんで、11月初旬まで福岡・九州にステイし、それから京都へ旅する予定」と話しており、3週間〜1カ月程度の予定で滞在する参加者も多かった。そして日本国内のノマドも多く参加したことで、「ワーケーション」の枠組から一歩深まったような感覚もある。
「Colive Fukuoka」は、福岡・日本の認知度拡大はもちろん、訪れる人の滞在期間を伸長させ、福岡を「暮らす・働く」拠点として、ファンになる人の増加に着実につながっている。
▼2023年の開催についてはこちら
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