インバウンドコラム
今年5月27日から30日にかけて、富裕層旅行に特化した商談会「ILTM(International Luxury Travel Market)Asia Pacific 2019」がシンガポールのマリーナベイ・サンズで開催された。日本ブースにはJNTOのほか、旅行会社やホテル運営会社、DMO、観光協会など22社が参加。JNTOはビジット・ジャパン事業の一貫として特設ブースを出展し、日本の魅力をPRした。今回はILTMの様子とともに、商談会で明らかになった富裕層旅行者の傾向についてレポートする。
富裕層に特化したBtoB 旅行商談会「ILTM」
ロンドンに本社を置くReed Travel Exhibitions社が主催するILTMは、2002年にフランス・カンヌで初開催され、世界の富裕層旅行市場において最も権威のあるBtoB商談イベントとして知られている。今年は4月のILTM Arabia(ドバイ)を皮切りに、ILTM Latin America(サンパウロ)、ILTM Asia Pacific(シンガポール)、ILTM North America(リビエラマヤ)、ILTM China(上海)、そしてILTM Cannes(カンヌ)の6都市で開催されるなど、世界最大規模のイベントとなっている。いずれも厳格な審査を経て選ばれた参加者のみが出展でき、事前アポイント制でBtoB商談が行われている。
5月に開催されたILTM Asia Pacific 2019は、アジア太平洋地域に関心を持つ世界中のバイヤーが集まるアジア地区最大の富裕旅行商談会で、JNTOは昨年に引き続き2度目の参加となった。今回は世界16カ国のバイヤー550名と、約600社の出展者が参加し、商談数は3万件にも及んだ。JNTOはオープニングイベントで訪日PR映像を放映したほか、会場では日本の美しい風景の写真を展示するなど、世界各国のバイヤーやメディアに向けて日本の魅力を発信。商談会に参加したJNTO市場横断プロモーション部の小林大祐氏は、「日本ブースには多くのバイヤーが訪れました。出展者のアポイントがほぼ全て埋まるほどの盛況ぶりで、それぞれに活発な商談が繰り広げられていました」とその様子を語る。
日本ブースはアポイントがほぼ埋まるほどの人気ぶり。その成果は?
商談会に参加した出展者は実際にどのような成果を得たのだろうか。小林氏は「富裕層市場はクローズドな性質を持つことから、一般的なマーケティングでは富裕層にリーチすることが難しいと言われています。商談会に参加するバイヤーは自社で富裕層顧客を抱えているため、商談会を通じてバイヤーとのネットワークを構築し、情報を発信することで富裕層にアプローチが可能となります。実際に訪日手配依頼がくれば、直接顧客とつながることもできるのです」と、出展のメリットを語る。参加した出展者からは、バイヤーへの情報発信、関係構築・強化、ビジネス展開において、それぞれに収穫があったとの声が上がっているようだ。
富裕層旅行者は、地方の知られざるコンテンツを求めている
富裕層顧客を抱える世界のバイヤーやメディアは旅行先としての日本に何を期待しているのだろうか。JNTOは、今回の商談会で見られた主な傾向として、以下2つの点を挙げている。
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①東京や京都、大阪ついての情報はもちろんのこと、まだ知られていない地方の富裕旅行向けコンテンツに対して高い関心を持っている。
②健康分野に強い関心があるようで、温泉旅館や宿坊のコンテンツに興味を持つメディアが多かった。
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商談会では、東京や大阪といったメジャーな都市ではなく、まだあまり外国人が訪れていない地域や訪問先の情報を求める声が多かったという。また、彼らは物見遊山的な観光ではなく、その土地でしか味わえない魅力を深く知ることができる体験コンテンツを探している。加えて、富裕層ならではの特別感やエクスクルーシブな対応も、当然のことながら重要なポイントとなってくるだろう。
世界のバイヤーに響いた地域は?
では実際、日本のどんな地方やコンテンツが響いたのだろうか。世界のバイヤーやメディアは、日本にはまだ知られていない魅力的な地方があるとの認識はあっても、具体的にそれがどういったところかの情報は持っていない。しかし、JNTOが彼らに紹介した中で特に響いた地域は、四国や九州で、特にJR九州の高級列車「ななつ星」による旅や、瀬戸内海の高級客船「ガンツウ」によるクルーズの旅への反応がよかったという。
小林氏はさらに、「列車やクルーズは欧州等ではすでに一般的ですし、ななつ星やガンツウは、富裕層向けのラグジュアリーで特別感のある仕様、そして日本ならではの魅力があります」と続ける。この魅力に通じるコンテンツとして、非公開寺院などの歴史的な建物をリノベーションした空間で、禅や読経、茶礼等を貸し切りで体験できる宿坊体験プログラムへの関心も高かったという。世界的な観光トレンドがモノ消費からコト消費へと変遷する中、富裕層もその場所でしか味わえないエクスクルーシブな体験を求めているようだ。
富裕層を取り入れていくために、インバウンド業界は何をすべきか
最後に、今回のイベントを通じて感じたこと、そして富裕層を取り入れていくために日本のインバウンド業界は何をすべきかを尋ねた。
「今回の商談会では、富裕層市場においても日本の認知度がどんどん向上してきていることを実感しました。普通の観光では満足しない富裕層を満足させるための観光コンテンツを作り、磨いていくことが重要です。次に、磨き上げたコンテンツをしっかりと発信していかなくてはいけません。そして富裕層は高い消費額が期待されるだけ、要求レベルも高い。間際でのリクエストや度重なる変更、特別なアレンジの要望など、さまざまな要望に対応できる受け入れ体制を整備することも重要なポイントです」
JNTOでは、今回の商談会のようなBtoB向けプロモーションと並行して、富裕層向けサイト「Luxury Japan」を活用したBtoC向けプロモーションも強化している。また、これまでは欧米豪市場に対して重点的に取り組んできたが、今後は中東や中国、アジア圏も含め、対象市場の拡大を図っていくという。商談会の最終日には、カクテルイベントで日本各地の日本酒がバイヤーやメディアに振る舞われた。集まった人々は、商談とは異なる雰囲気のもと思い思いに交流し、イベントは盛況のうちに幕を閉じた。
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