インバウンドコラム

地方創生の可能性を考える。「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」第1回NIPPONIAサミット報告レポート

2019.11.15

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11月8日大阪梅田で、第1回NIPPONIAサミットが開催された。

イベント主催者の一般社団法人ノオトは「日本人が捨ててきたものを拾い集め、再生する企業」というコンセプトで、地方創生のための観光まちづくりを進めており、NIPPONIAのブランドネームで全国各地で歴史地区再生の活動を実施。各地のプレーヤーが一つのチームとなり、地方の歴史ある建築物に滞在しながら、ローカルフードや生活を体験できる宿泊施設を運営している。

「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」がテーマの今回のサミットには、5つの地域で活動をしているプレーヤーが登壇。古民家などを利用した地方創生を実施している現場の話が聞けるとあり、日本各地から自治体やDMO関係者、宿泊施設経営者など200名を超す人々が集まった。

山梨県小菅村との共同事業で築150年以上の地元名士の邸宅を古民家ホテルとして改修した株式会社EDGE。岐阜県美濃市でユネスコ無形文化遺産に認定されている美濃和紙をテーマに古民家を改装した、みのまちや株式会社。和歌山県串本で町が所有する古民家2棟を再生させた株式会社一樹の蔭。これまで宿泊施設がなかったため、町全体を巻き込んで展開している熊本県甲佐町の株式会社パレット。それぞれが宿泊施設を完成させるまでのエピソードなどとともに事例を語った。

▲食事はオプションで、集落の料理上手なお母さん達に依頼することができるようにしている

▲冬の寒さが厳しい地域だけに室内は暖かく改築されている

また、福島県西会津の一般社団法人BOOTからは楢山集落で「Narayama Planetary Village Project(惑星のような楢山集落プロジェクト)を立ち上げた矢部佳宏氏が登壇。会津地方の中でももっとも山深い秘境、雲海を見下ろすような場所にあるたった2軒の楢山集落で、築370年の自宅に付随する築130年の蔵や納屋を1棟貸しの宿泊施設へと改築した際の話をした。自己資金や農林水産省の農泊推進のための補助金、クラウドファンディングを利用した資金調達の方法や、生まれて初めて雪を見たタイからの訪問者が驚きと興奮により雪の中で転んで回って遊び、バンコク市内では決して見ることのできない、まるでプラネタリウムの様な星空と共に滞在を満喫した事例を紹介。豪雪地帯として知られる西会津に住む人々にとって、雪は不便で厳しい冬の象徴だったが、地元出身の経営者からは雪を問題として捉えるのではなく、新たな観光資源として展開していく意気込みが伝わってきた。

 

プレゼンテーションで紹介されたホテルはどれも開業からまだ1年ほどなので、話の内容は当初の経営ビジョンやオープンまでの過程にフォーカスされていた。宿泊施設は地元の人材や材料を活用して改装しており、ローカルストーリー性が豊富で、一つ一つのエピソードに作り手の思いが伝わってくるものだった。

訪日インバウンドでは今後リピート観光者数が増えていくことが期待されている。海外からの旅行者に日本の地方の良さを紹介する際にも、こうしたストーリー性はとても重要になってくるだろう。

スタートアップ事業の勉強会に参加すると、目標を達成するための資金や資源が足りないといった話を耳にする。今回のNIPPONIAサミットで語られた「地元にあるもので創出する」「手持ちの手段で何か新しいものをつくる」といった思いは、「起業家タイプではない」だとか「十分な資金がない」といった理由で、自らのアイディアの実現化に着手できなかった人たちを勇気づけるものに違いない。

後半には各ホテル施設代表者のパネルディスカッションが開かれた。そこでは最寄りの空港や駅から離れた施設までの二次交通や稼働率といった着地型観光の課題や、地元住民とともに提供するホスピタリティの面白みが語られていた。そこで強調された「地元を決して安売りするわけでなく品質にこだわった観光を提供する」「稼働率でなく消費単価を上げる」といった思いは、日本の観光業全般に期待されている目標でもあるだろう。

NIPPONIAサミットは、観光資源がないと悩むのではなく、目先にあるリソースをどのように新鮮な視点で捉えるかが重要であること、観光地のブランディング、差別化といった内容を具体例と共に伺える貴重な機会となった。

 

筆者プロフィール:Chikara
京都生まれ、英国育ち。ロンドンや東京の金融機関のリサーチャーとして、企業分析や業界調査などを担当。これまでの経験を観光分野に活かすべく、現在は京都で研究中

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