インバウンドコラム

コロナ禍で倒産をしないため、企業の経営者が「今」やるべきこととは? 〜宿泊業がとるべき5つの具体策〜

2020.04.30

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観光関連事業の経営破綻が毎日のように報道されている現在、会社を存続させるために、倒産を防ぐために経営者は今、何をしたらいいのだろう?
今すぐ知りたいこうした情報をお伝えするため、GW直前の4月27日、やまとごころは、プリンシプルホテルコンサルティングと、やまとごころキャリアと共催でオンラインセミナー『独立系宿泊施設の経営者対象/コロナショックで倒産させないために、経営者が今やるべきこと』を 開催した。

宿泊施設経営者が、今すべき具体的な行動について、株式会社プリンシプルホテルコンサルティング所長の中山晴史氏(以下、中山)に。融資や助成金については、再生支援の専門家でもある株式会社やまとごころキャリア取締役の坂本利秋氏(以下、坂本)にお話をいただいた。やまとごころ代表取締役の村山慶輔(以下、村山)がモデレーターを務めたオンラインセミナーの内容を3部構成でご紹介していく。

 

完全休業か部分営業か、どちらが良いのか?

加賀屋もハレクラニも完全休業に

村山:まずは長年のノウハウの蓄積をもとにホテル運営のコンサルをされている中山さんに、今のこの状況で何ができるのか、何をすべきなのかについてお伺いできればと思います。

中山:現状況下、宿泊施設の経営者がまず判断を求められることは、部分営業でも続けるべきか、完全休業にすべきかです。2、3週間前までは私も、どちらの選択肢もあるという気持ちでおりましたが、現在は完全休業に傾いています。プリンスホテルグループも品川エリアの3棟をのぞいては全国で休業と決めましたし、沖縄のハレクラニも、和倉温泉の加賀屋もグループで休業を決めました。これは政府や県からの指導ではなく、それぞれが判断したことです。

 

経営者として、大切にすべきことは?

企業の「存続」と、スタッフの「命」

政府は当面3カ月ぐらいを考えて様々な方策を講じていますが、私は3カ月では無理で、4カ月から6カ月間のスパンで、これからどうするかを考えるべきだと思います。

ホテルも旅館も企業です。その企業を「存続」させること、スタッフの「命」を守ること、この2つが最も大切なことです。
企業を「存続」させなければコロナが収束しても仕事が成り立ちません。そのためには完全休業であれ部分営業であれ、いかにしてお金の支出、キャッシュアウトを最小限に抑え「存続」させるか。そこが大切です。
スタッフの「命」そして健康を守るためには、完全休業しかないと今は考えています。経営者には感染の危険をスタッフに強いる権限はありません。

我々の業務は不特定多数というのに近いお客様に、濃厚接触に近い形でサービスをします。たまたま、まだクラスター化したホテルや旅館はありませんが、クラスター化すればその施設は口コミ的に終わりです。きちんと補助金を受け、融資も取り、なんとか生き延びる。立ち上がる時にはスタッフが支えてくれます

村山:とは言え、すでに予約が入っていれば、宿を開けたい、お客様を受け入れたいと思う経営者もおられると思います。その辺り、どう考えればよろしいでしょうか?

中山:週末に予約を集約させるとか、お客様が入ってくれば一部の施設で営業するなど部分営業している宿もあり、その気持ちは痛いほど分かります。私自身も、お客様が一人でもいらっしゃれば営業したいというホテルマンとしての矜持は持っているつもりですし理解もできます。ただ現時点ではそういう矜持は脇に置いておいて、ある程度、宿からお客様にアクションを起こして、予約の日延べやキャンセルをお願いし、完全休業に持って行く方が、スタッフの健康は最終的には守られるのではないかと考えています。

 

経営的に負担が少ないのは?

最終的には経営者の判断

村山:キャッシュアウト・支出面から考えると、完全休業と部分営業のどちらが経営的に負担が少ないのでしょうか?

中山:宿泊業界では損益分布点のバリエーションが幅広く、ホテルと旅館では全然違いますし、旅館の中でも規模によっても全く違ってきます。損益分岐点を越えればいいのかという話にはなるのですが、部分営業をした場合、そこに発生するコストを一月単位や部門別で見ると、非効率になってくると思われます。

もちろん先ほど申し上げたようにホテルや旅館を閉めることはたいへん勇気がいることですし、ある面、許されないことと考える方もいらっしゃることは充分理解できるのですが、嫌な言葉ですが、効率を考えると完全休業の方がベターな策だと思います。

4月の早いうちから休業を決めたところもあります。社会的な役割を考えると全部閉めるのは難しく、レストランや宴会は休業し、宿泊だけは営業するという形が多いようです。一方、ホテルマンとしてはとても嬉しい話ですが、アパホテルや東横インがコロナ感染症の軽症者の方に施設を提供しました。すばらしいアイディアだと思います。
どうするのかを選ぶのは、最終的には経営者の考え方によって変わってくるのだろうと思います。決断する時だと思います。

 

コストをどう抑えれば良いのか?

存続するために今までの慣習に大なたをふるう

村山:完全休業するにしても部分営業するにしても、コストを抑えながら上手く回していくためのアドバイスをいただけますでしょうか。

中山:現在、政府は3カ月程を前提に対策を打っていますが、コロナの問題は6カ月程のスパンで考える必要があります。そのため、事業継続のためにいかにしてこれからの支出を抑えるかもポイントの一つになります。

経費節減を徹底して、企業として存続させるため耐えることが重要です。
以下、5つのポイントをまとめました。

【経費節減のポイント】

1、部分営業の場合は営業日を集約する 

  週末などに限定して営業する。
  1日営業して1日休みというのが一番効率が悪い。

2、1泊2食の形では料理の選択肢をなくして一つのメニューに集約する

  メニューを一つに集約。
  材料の仕入れを極力減らし、前日の購入などもして冷蔵庫やチャンバーの
  負担を減らす。これによって光熱費も変わってくる。

3、シフトの縦割り廃止とマルチタスク化

  部分営業をするとしても全室、満室にはならないし、
  安全のために満室にもしてはいけない。
  半数の客室が埋まる程度で営業すべき。
  仕事量が減る分、清掃、リネン、施設管理、食器洗浄など
  外部委託していた業務を極力、「内製化」する。
  内製化してスタッフ全員が様々な作業をすることも必要。

  →業務委託契約があるので、大前提として委託先ときちんと話し合う。 

4、販管費の徹底的な排除・アメニティ類の撤去

  広告、付き合い広告、会費、協賛費、新聞図書費、館内装飾費を見直す。
  特にアメニティは、「在庫があるから」とどうしても部屋に置きたくなり、
      足りなくなると追加注文(=キャッシュアウト)してしまうので、
      この機会に撤去する。

  →お客さんにはあらかじめ歯ブラシなど必要なアメニティを
       持って来てもらうように伝える。
       リネン類、シャンプー類は設置する。
      「メニューは一つ、アメニティはなし」くらいに徹底して何とかして乗り切る。

5、燃料費・電気料金・雑給を押さえる

  調理部門に置かれている大型冷蔵庫やチャンバーなども集約する。
  食材の大量在庫をなくすという意味でも、料理メニューの集約は必要。
  当日や前日仕入れで冷蔵庫を使わないぐらいの覚悟で望む必要がある。

  大浴場は自家源泉の温泉でない限りは提供をやめる

 

求められる総合的な見直し

キャッシュアウトの最小化

中山:以上が部分影響した場合のコスト削減についての説明になります。このような状況下、最も注意すべきは、スタッフの健康です。そのため、お客様の部屋のアサインの仕方とか、レストランやテーブルの配置なども含めて総合的にもう一度見直す必要があると考えております。
アメニティや業務委託、付き合い広告、会費など、こうした経費節減はなかなか止めにくいものもあるかと思いますが、チリも積もれば、の話ではありませんが、大なたをふるうべきものと考えます。キャッシュアウトの最小化です。

企業の存続とスタッフの健康を守ること。
この2つの大命題を解決しなくてはアフターコロナのことは考えられませんので、大切にされてください。

村山:かなり踏み込んだ具体策をありがとうございました。

 

Part2は、再生支援の専門家でもある
株式会社やまとごころキャリア取締役の坂本利秋氏による、
融資や助成金についてご紹介しています。

 

中山晴史氏
プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 
プリンシプルホテルコンサルティング  所長 
東京都出身。上智大学法学部卒。ホテルニューオータニ東京及び幕張に22年勤務後、イシンホテルズグループに転職。ヒルトン成田の副総支配人を始め、その後東京エリアのホテル・ザ・ビー5棟の統括総支配人を務めた。名古屋・宇都宮・東京にて再生事業に関り、独立。現在は山口県、高知県、岩手県などのホテルや旅館で、これまでのノウハウの蓄積をもって運営の効率化と黒字化を支援している。カスタマイズしたコンサルティングを実践。東京の論理は通用しない

 

 

 

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