インバウンドコラム
コロナ禍において世界の富裕層はどのような旅行ニーズを持つのか。今回はゲストに外国人富裕層の取り込み施策を牽引する、株式会社アール・プロジェクト・インコーポレイテッド代表の福永浩貴氏を迎え、海外富裕層を対象とした2つのアンケート結果をもとに、今後の富裕層マーケットの見通しを読み解きながら、富裕層を獲得するために今取り組むべき施策についてお話を伺った。
動き出しが早い富裕層旅行 既に7割が予約問い合わせ
まずは、福永氏の会社が日本の事務局を務めるILTM(International Luxury Travel Market)にて6月中旬~下旬に実施した意識調査から読み解く。ILTMは世界の富裕層旅行業界における最も歴史と権威のあるB to B商談イベントで、富裕層に特化した個人のトラベルデザイナーや欧米の旅行会社が会員として参加する。今回はVIPバイヤー約1600名を対象に調査。その結果、コロナ発生後に旅行リクエストを受けたかという質問に64%が「YES」と回答した。地域別にみると、北米で72%と最も多く、続いてロシア69%、南米66%、ヨーロッパ65%だった。これらの地域では既にコロナ後の旅行へ動き出していることがわかる。一方でアジア太平洋、中東は50%前後に留まり、欧米に比べ動きが鈍かった。旅行時期についてみると、概ね今年の年末までの希望が多かったが、ロシアでは9月までを希望した層が74%にのぼり、動き出しが早い傾向が見て取れた。
福永氏は「日本国内だけみると飛行機の移動を伴った旅行はまだまだ先と感じるかもしれないが、海外に目を向けると北米、南米、ヨーロッパでも既に動き始めていることがわかる」と指摘する。
コロナ後はビーチのプライベート・ヴィラで家族と滞在が人気
コロナ後の旅行リクエストで希望が多かった旅行スタイルを聞いてみると、ビーチ滞在が69%、ファミリー旅行55%、プライベート・ヴィラ滞在42%の3つだった。感染リスクを避けるため、家族と自然に囲まれたプライベート・ヴィラに滞在したいという意向が表れている。また、今後増えてくる旅のスタイルとして、近距離で短期間の旅行、プライベート・ヴィラ、衛生的で健康&ウエルネスな旅が挙がった。日本ではクラスター発生によりネガティブなイメージが広がったクルーズ旅行だが、海外富裕層においては既に一定の人気を獲得しており、コロナ後もニーズは落ち込んでいないという。
福永氏は「富裕層の特徴として、旅は自分の人生にとって必要なものだと考えている人が非常に多い。旅をすることで新しい出会いや刺激を受け、それをビジネスに反映している。困難な状況でもなんとか旅に出たいというニーズは富裕層のなかには変わらずある」と見ている。
日本再訪意欲は99.7% 安全性と清潔感を重要視
次に、福永氏の会社が運営する日本旅館の国際ホテルコンソーシアム「ザ・リョカンコレクション」が8月中旬に実施したアンケートをもとに、富裕層の訪日意向をみてみる。「ザ・リョカンコレクション」の外国人会員約6万人のうち、2.8万人を対象にアンケートを実施、約1300名から回答を得た。
その結果、訪日再開時期は2021年4月~8月が26%と最も多く、次いで2021年1月~3月が22%いた。コロナ収束後、一番行きたい国を聞いたところ、1位が日本で86%、次いでイタリア9.3%、フランス8.3%、タイ7.6%の順となった。日本再訪についても99.7%が「また行きたい」と回答し、圧倒的な訪日意欲が示された。
旅行先を選ぶ最も重要な要素として、コロナ前では食や文化を挙げる人が多かったが、コロナ後には安全性や清潔感を挙げる人が大幅に増えた。アクセスの良さは6.6%に過ぎない。福永氏は「アクセスが良くなくても、行きたい場所には行くのが富裕層旅行の特徴のひとつ。アクセスが悪いからお客様が来ないと悲観的に捉える必要はない。安全性や清潔感は日本が得意とする分野で他国よりも優位に立てる」とアドバイスする。
旅行における富裕層とは、本物、唯一無二の出会いを求める人
富裕層を定義する場合、金融業界においては資産額などが一定の目安になるが、旅行業界においては国際的な共通基準は特になく、2019年にJNTOでは1回の旅行で現地において100万円以上を消費する旅行者と位置付けている。福永氏が運営するリョカンコレクションでも、1回の訪日旅行で宿泊料金だけで100万円を超えるケースは珍しくないという。富裕層にもさまざまなタイプが存在するが、共通するのはパッケージではなく、旅のプロによるテーラーメイドの旅をする人、本物、唯一無二の出会いを求める人だと福永氏は指摘する。
本物に出会えた時に富裕層は消費する
富裕層を呼び込むためのポイントは、第一に日本のそのままの良さがあること。外国人向けに取り繕う姿勢は逆に敬遠されるという。第二に、富裕層のリクエストに的確に応えられる人材がいること。旅のコーディネーターやガイドなど地域を良く知り、幅広いネットワークを持つ人材が不可欠だという。
日本旅館に泊まり、その土地ならではの食や酒を味わうことで地域の魅力を知るきっかけとなる。いわば宿は地域のショーケースの役割を担っている。富裕層がもっと深く魅力を知りたいと町歩きした時に、地域の暮らしや伝統工芸など本物に触れることができれば、必ず消費が起こると福永氏は説く。富裕層をターゲットにするならば、単にモノを売るのではなく、それが作られたストーリーを伝えることが大切だ。
最後に、インバウンドが少ない今こそ取り組むべき施策として福永氏は「日本人が、日本国内を喜んで旅する姿を世界に発信すること」を挙げた。靴を脱ぐ、お辞儀をするなど日本人なら当たり前にしている生活習慣は、衛生的でソーシャルディスタンスを保つことにつながっている。日本は清潔で安心・安全に旅行ができる国であるというメッセージを海外にわかりやすく伝えることがコロナ禍においては重要だと強調した。
【登壇者プロフィール】
株式会社アール・プロジェクト・インコーポレイテッド代表 福永 浩貴氏
約15年に渡り英国の高級ホテルチェーンで勤務、2004年「ザ・リョカンコレクション」の立ち上げを機に起業、株式会社アールプロジェクトインコーポレイテッドを発足、主事業である「ザ・リョカンコレクション」の運営の他、海外高級ホテルチェーン、エキシビジョン、メディア、高級ショッピングモールなどへのレップ事業を行う。2007年、経済産業省内に立ち上がったラグジュアリトラベルマーケット研究会の立ち上げに尽力、その後、経済産業省ラグジュアリーマーケット委員会、クールジャパン官民有識者会議委員として業界振興を行う。また伝産品を中心とした伝統産業の海外富裕層に特化したマーケティングサービスも提供、旅館+地域+伝統文化の世界発信を行う。
【開催概要】
日時:2020年9月18日(金)15:00〜16:00
会場:ZOOMウェブセミナー
主催:株式会社やまとごころ
【今後開催予定のセミナー】
◆現地日系マーケティング会社が見る訪日インバウンドの今後/withコロナ時代の観光戦略 vol.12
2020年10月2日(金)15:00~16:15
◆ツアーの未来を考える~感動を生みだすために必要な要素とは~/withコロナ時代の観光戦略 vol.13
2020年10月9日(金)11:00~12:00
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