インバウンドコラム

2年ぶりの開催 ツーリズムEXPOジャパン2022は来場者に「持続可能な旅」を訴求できたのか?

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9月22日、東京ビッグサイトで、2年ぶり8回目、東京では4年ぶりとなる「ツーリズムEXPOジャパン2022」が開幕。日本観光振興協会、日本旅行業協会(JATA)、日本政府観光局(JNTO)の3団体が主催で、22日、23日が業界日、24日、25日は一般日と4日間にわたって開催された。

この間、世界 78カ国・地域から1,018企業・団体が出展や商談を行い、一般消費者にもアピールするまさに、「旅の祭典」となった。

コロナ禍を経ての今回のテーマは「新しい時代へのチャレンジ~ReStart~」。どのような新しい「旅」が提示されたのか、パビリオンやシンポジウムから探ってみた。

 

ポストコロナは「持続可能」「サステナブル」な旅にフォーカス

コロナ禍を経て、やっと盛大にリアルイベントができるようになった感慨を覚える今回のエキスポでは、海外、国内とも、趣向を凝らしたブース展開がなされた。特に国内はエリアやテーマ毎に高さを使った設計で、「旅のおまつり」の雰囲気があふれていた。折しも初日の9月22日には、日本政府から海外からのビザなし個人旅行の入国を認めるなどの水際対策の緩和や、全国旅行支援策の国内旅行割引キャンペーンが10月11日から実施されることが発表され、より活気づいているようでもあった。

速報で発表された来場者数は、業界日と一般日をあわせて12万2千人で、各ブースでは、今までのパネル展示やパンフなどの配布、体験やプレゼントのイベント、トークイベントやショーだけでなく、SNSにアップしたくなるフォトジェニックなシーン設定やVR体験、現地とつないでオンラインツアーを行うなどの工夫もみられた。通路を広くとっていることもあり、人気のブースに行列ができても、混雑は多少回避できていたようにも感じられた。


▲ブースグランプリ一般の部で、準グランプリを獲得した韓国観光公社のブース 韓国ドラマや映画のフォトブースもたくさん

今回のエキスポのテーマは、「新しい時代へのチャレンジ“Re Start”」。サブテーマは「ニューノーマル時代 の新しい旅のカタチの体験」「旅のチカラで地域振興に貢献」「新しい国際交流のカタチを日本から発信」「持続可能な観光振興の推進」と続く。なかでも、多くのシンポジウムやセミナーのテーマとなった「持続可能(サステナブル)な観光」は、「SDGs」とあわせて、エキスポに参加した観光事業者は強く意識をする形となったのではないか。

7カ国の観光大臣・観光行政トップと、4国際観光組織の代表計11名が参加した「第5回TEJ観光大臣会合」では、気候変動や持続可能な観光の取組の共有と、今後の課題解決についてディスカッションがなされた。

まず、基調講演では定期航空協会会長の井上準一氏が「2050年までの ネット・ゼロ達成を目指すために、SAF(持続可能な航空燃料)の利活用と連携について、具体的なステップを示した。 各国の観光トップからは、「観光産業にとって、自然は商品そのもの。気候変動は重大な危機であり、持続可能な観光への転換には、人的資源の強化、教育が必要」「受入地域の住民・市民と観光事業者両方への施策が必要」「強力な官民連携のパートナーシップのもとで、課題を解決すべき」といった様々な取組が報告された。国、地域を超えての連携も不可欠であり、今後のロードマップの作成も期待したい。

「ツーリズム・プロフェッショナル・セミナー」の「持続可能な観光評価システム」で、地域づくりのトレンドの紹介や評価ツールの紹介、JNTO主催の「サステナブル・ツーリズム・シンポジウム」では、「〜ポストコロナに選ばれる観光とは〜今日から始められるサステナブル・ツーリズム」をテーマに、サステナブル・ツーリズムに取り組む必要性や国内外の認証制度の概要などが紹介された。いずれも「世界の旅行者、特に欧米圏からは、サステナブルな取組をしていない地域や企業は選ばれない」「地域のために観光がある」という大前提が提示されていた。

またEXPO会期中の9月23日に、持続可能な観光を実践する、責任ある旅行会社アライアンスである一般社団法人JARTAがフォーラムを開催。ツアーオペレーターや旅行会社向けの国際認証「Travelife」や、宿泊施設など向けのエコラベル「GreenKey」、ビーチやマリーナなど向けの環境認証「BLUE FLAG」などの説明とともに、認証やラベル取得に向けて取り組む旅行会社などからの報告があった。なかでも「SDGsの開発目標は2030年で終わる。環境だけでなく、文化・歴史に配慮し、50年、100年と後世に残る地域を」と意気込みを見せていたのが印象的だった。

 

訪れる人たちの「レスポンシブル・ツーリズム」機運を醸成する工夫

観光事業者に対してはサステナビリティの重要性が強く謳われたが、一般の来場者に「サステナブルな旅」という視点をどのように伝え、それを感じてもらうのか、日本の旅行者に「責任ある旅行 レスポンシブル・ツーリズム」を腑に落ちる形で伝えられたのか、という観点から会場をみてみた。

やはりエキスポということで、パンフレットや地図などの印刷物の配布は多かったが、QRコードを読み取ってオンライン上でのアンケートへの誘導や、Webサイト、SNSにアクセスさせるなどの工夫も目立った。日本でも若年層ほど、紙媒体を所持することを嫌がる傾向にあるので、紙とデジタル両方で展開しているところが多くみられた。大きなカバンや袋、中にはスーツケースにたくさんの資料を詰め込んで持ち帰る姿も少なくないが、年々その数は減少しているように感じる。

ハワイブースでは、「Mālama Hawaiʻi~地球にやさしい旅を~」というメッセージをパビリオン全体で表現、またマラマハワイの概念を伝える新聞広告を掲載したり、訪れる人たちに、ポノトラベラー(責任ある旅行者)になるための行動を伝えるなど、レスポンシブル・ツーリズムの重要性を伝えた。 また、ブース内でのトークイベントでは、ハワイの固有種が2944種あることや、サンゴに有害な日焼け止めの販売が禁止され、環境に配慮した「リーフセーフ」の日焼け止めを推奨することなどがクイズ形式で出されていた。

カリフォルニアブースでは、美しいカリフォルニアを守り残すために必要な旅行者の心構えを「レスポンシブル・トラベル・コード」として大きく掲示していた。

カンボジアブースでは、「SDGsなツアーあります」といった旅行会社のPOPも掲示されていた。好きな旅先にふさわしい、その価値を守る旅をしたいという日本人旅行者は、スタンダードには程遠いが、海外旅行に慣れたリピーターほど増えていることを期待したい。

また、主催側の企画で「観光SDGs」特別コーナーがあり、観光SDGsの取組を行っている国内外の39の企業や団体が、デジタルスタンプラリーによって紹介されていた。ブースにあるパネルからQRコードを読み取ってスタンプを取得し、10個以上集めると特典と引換できるというもの。このスタンプラリーにエントリーし、引き換えを行う人の行列もできていた。どれほど各取組が読み込まれたかは定かではないが、まずは「自然や文化を守り伝える取り組み」が、レスポンシブル・ツーリズムが広まる第一歩と捉えたい。

 

オンラインとリアルを組み合わせて、活発な商談が繰り広げられる

JNTO(日本政府観光局)が主催する「VISIT JAPANトラベル&MICEマート(VJTM)202」も9月22日〜24日に開催された。訪日旅行を扱う海外バイヤー256名と国内セラー218団体によるインバウンド商談会で、来日したバイヤー56名は対面で、その他はオンラインで商談するというハイブリッド形式で実施。事前のマッチング(アポイントメント面談)に基づき、1組20分間の商談時間が設けられた。多くのセラーが1日に15件前後の商談を行い、3日間トータルの件数が30以上の団体も少なくないという(MAXは41件)。

「昼食を外でとる時間もないほど商談が入っていたが、バイヤーの意欲も高く、実り多い商談が多かった」
「2019年時よりも、新しいディスティネーションやツアーを求めているバイヤーの積極性を感じられた」(ランドオペレーター)

など、コロナ禍を経て、これからの訪日旅行にかける双方の思いが合致することが多かったようだ。10月の水際対策緩和以降のスタートダッシュにつながるだろう。


▲オンライン商談を行うOICEE!! JAPAN のブース

 

ツーリズムEXPOジャパンは来場者に「持続可能な旅」を提示できたのか?

出展者である観光事業者も、来場者もリアルな「旅」が実現できる喜びにあふれ、改めて「旅」の魅力、価値を認識できた4日間だった。

今回の展示会が、コロナ禍で見直された本質的な旅の姿、持続可能な旅のスタイルを参加者に提示できたのか。観光が目指すべき理想の方向に進むきっかけとなったのか。また、そもそも地域があるべき姿を話しあい、目指す方向性や目標を定めているのか、など疑問と課題は多いが、コロナ禍の間にしっかり準備した地域や団体が良き先達となって、理想的な方向に一歩ずつ進んでいけることを願いたい。

 

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