インバウンドコラム
インバウンド本格再開を受けて、外国人観光客が続々と入国し、日本旅行を楽しんでいる。2年半以上のブランクを経て、現在は東京や京都、大阪などのゴールデンルートをはじめとした都市部への訪問が多く、混雑ぶりが報じられている。こうした状況などから、今後いかに、地方部へ誘客できるかが課題の1つとして挙げられるが、そこでカギとなるのが、趣味や特定の目的に絞ったテーマ性のあるツアー(Special Interest Tour:SIT)だ。今回は、SITの1つでもある「ゴルフツーリズム」をテーマに、このほど宮崎県で開催されたアジア最大のゴルフツーリズム商談会での様子も踏まえながら、その特徴や魅力、可能性を紹介する。
アジア中心に増加するゴルフ人口、世界で約5600万人に
ゴルフが主目的の旅行に加え、ビジネスや観光目的の滞在でゴルフを楽しんでもらおうという考えのもと生まれたゴルフツーリズム。ゴルフ人口は世界で約5600万人といわれており、アメリカの約2600万人、ヨーロッパの800万人をはじめ、欧米豪を中心に発展してきた。近年はアジアでの競技人口も増え、現在は約1400万人がプレーするという。一般的な旅行者と比べると、消費額は約2.2倍となり、滞在日数も長くなる傾向があるので、地域活性化に寄与する可能性のあるマーケットの1つである。
日本国内でも、人口減少や高齢化とともにゴルフ人口が減少していることからも、ゴルフ関連事業者や自治体は、訪日目的の1つとして、ゴルフツーリズムに着目。平日のゴルフ場利用や宿泊施設利用なども見込めることから、外国人観光客にゴルフとセットで日本の観光も楽しんでもらおうと、地域一体となってプロモーションや受け入れ環境整備に取り組んできた。
35の国・地域から320名参加、日本のゴルフツーリズムを体験
アジア最大のゴルフツーリズムの商談会「アジアゴルフツーリズムコンベンション2023(AGTC2023)」が2023年3月14日〜16日、宮崎県のシーガイアコンベンションセンターにて開催された。イギリスに本部を置く国際ゴルフツアーオペレーター協会(IAGTO)が主催となり、宮崎県や一般社団法人日本ゴルフツーリズム推進協会(JGTA)など8団体で構成されるAGTC2023実行委員会が共催となった。
▲アジアゴルフツーリズムコンベンション2023開会式の様子
国際ゴルフツアーオペレーター協会(IAGTO)は、ゴルフツーリズムを推進するために1997年に設立された組織で、世界のゴルフツアー専門旅行会社を中心に、ゴルフリゾート、航空会社、ホテルな91カ国・地域から約2400社が加盟する。同協会はアジアの他、北米と欧州でも同様のゴルフツーリズムに特化した商談会を開催している。
今回4年ぶりに開かれたアジアゴルフツーリズムコンベンションは、これまでにマレーシア、タイ、中国、インドネシア、ベトナム、フィリピン、カンボジアなどで開催されてきた。日本では当初、2021年4月に初開催となる予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響により延期や中止を経て、今回ついに実現し、全体で35の国・地域から約320名の参加があった。
バイヤーは、アジア方面へのゴルフツアーを取り扱う欧米やアジアの旅行会社等が26の国・地域から約130名、サプライヤーはアジアを中心に、ゴルフ場、宿泊施設、DMC・ランドオペレーター、地方自治体・DMO・観光協会など22の国・地域から約190名が参加。日本からは最多の31団体、タイからは24団体が参加した。
▲商談会の様子
商談会に先立ち、バイヤーを対象としたポストファムトリップが3月11日から3日間、宮崎県内で開催された。参加者は朝から県内のゴルフ場で実際にプレーしたのち、宮﨑神宮や青島といった宮崎県内の観光地を訪問した。
商談会の初日には、ゴルフツーリズム商談会にふさわしく、県内のゴルフ場でゴルフトーナメントを開催。会場のフェニックスカントリークラブとトムワトソンゴルフクラブ(ともに宮崎県内)には、バイヤーとサプライヤーの約160名がゴルフをプレーしながら交流を楽しんだ。
初日のトーナメントを終えて、2日目と3日目は商談会を開催。バイヤーとセラーによる熱いやり取りが繰り広げられ、2日目の夜は宮崎市内の飲食街ニシタチにて「ニシタチ飲み歩き」が開催された。
▲(左)初日夜開催のウェルカムパーティー(右)ニシタチ飲み歩き、協力店舗には大会のれんも
4年ぶりの商談会で質問飛び交う、訪日見据え、具体的な打ち合わせも
サプライヤーとして商談会に参加し、日本のゴルフツーリズムの魅力をバイヤーに訴求したJNTO市場横断プロモーション部の田中氏は、「アジアでのゴルフツーリズム商談会は4年ぶりの開催ということもあり、バイヤーからはコロナ以前と変わったことはあるのか、という質問が多かった」と話す。また、「既に日本への送客実績のある会社の中には、実際に送客を予定している会社もあったほか、『次のゴルフツーリズムデスティネーションはどこが良いか』といった質問も多く、細かい打合せになることも多かった」という。
▲ゴルフツーリズムデスティネーションとしての魅力を発信したJNTO市場横断プロモーション部
2015年から海外のゴルファーを受け入れ、2018年には日本ゴルフツーリズムコンベンションを開催するなど、国内でもゴルファー誘致に先駆的に取り組む三重県の一般社団法人みえゴルフツーリズム推進機構の鈴木氏は「世界的な知名度はないものの、東京、富士山、京都といった訴求力ある観光地からの接続の良さや、豊富な食コンテンツを持つ点、これまでのゴルファー受け入れの経験を高く評価してもらえた」と話す。
三重はまた、京都と共に商談会後に開催されたポストファムトリップ先として一部の海外バイヤーが視察に訪れたが、「これまでのインバウンド受け入れで培ってきたホスピタリティを喜んでくれた。近い将来、彼らが送客してくれるという手ごたえを感じた」という。
▲手前は、いち早く海外ゴルファーの受け入れに取り組んだ(一社)みえゴルフツーリズム推進機構のデスク
過去に海外で開催された商談会にも参加したことがある沖縄観光コンベンションビューローの新里氏は、「コロナ前と比較してもバイヤーが積極的」と語った。今回は日本での開催となったため、これまで以上に日本へ関心の高いバイヤーが集まったのかもしれない。
海外から参加したバイヤーに話を聞くと、北海道への送客実績があると答えた会社が多かった一方で、今回の開催地である宮崎県へは初めて来たという回答が多かった。あるオーストラリアの旅行会社は、「オーストラリア人にとって北海道はゴルフデスティネーションとして人気だが、他の地域はまだ知名度が低い。新たな旅行商品として、九州方面のゴルフツアーを企画し、現在募集しているところだ」と話した。
ゴルフツーリズムの可能性、関係人口や地域活性化の起爆剤にも
今回、日本でアジアゴルフツーリズムコンベンションが実現したことについて、主催の国際ゴルフツアーオペレーター協会日本代表の薬師寺氏は「宮崎での開催を機に、公式のファムトリップ以外でも色々な都市への訪問や視察が行われた。そういった点でも、商談会の開催は非常に有効だったのではないか」と話す。
「ゴルファー受け入れによって、国内だけでなく海外にも地域のファンができることを考えると、ゴルフツーリズムが、地方における関係人口創出に寄与することを期待したい」と(一社)みえゴルフツーリズム推進機構の鈴木氏が話すように、香港やシンガポール、タイからの団体の中には、5泊など長期にわたり三重に滞在したり、リピーターとなって再度訪れてくれるといったケースも出てきている。彼らはゴルフはもちろんのこと、食事や観光を楽しんでいるという。
世界では、アメリカに続く2番目のゴルフ場数を誇る日本。アジアにおいてはゴルフコース管理のレベルが高い上に受け入れ時のホスピタリティへの評価も高く、ハードソフト両面で強みがある。 アジアではプレー人口が増えているが、韓国や中国などではゴルフ人口に対してゴルフ場数が少ない。そのため、ゴルフと観光をセットとしたゴルフツーリズムのデスティネーションとしてのポテンシャルが日本にはある。
コロナ禍を経てスポーツやアウトドア、ウェルネスなどへの注目が以前に増して高まっている。自然の中でプレーするゴルフは、こうした分野との親和性も高い上に、ゴルフを通じた地方誘致へも期待ができる。タイなどでは、ゴルフツーリズムデスティネーションとして訴求し、世界中からの訪問客を迎え入れているため、日本でも、国内外の先進事例を参考にしながら、地域ならではの観光の魅力とゴルフをセットにしてどう訴求するか、考えていきたい。
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