インバウンドコラム

参加者の視点から見た、アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道のリアル

2023.10.18

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アジア初となるアドベンチャートラベルに特化したネットワーキングイベント・商談会「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」が、2023年9月11日~14日に北海道で開催された。

アドベンチャートラベルは、欧米豪圏を中心に市場が拡大し、世界的に注目を集めるテーマ型旅行の1つ。「自然」「文化体験」「アクティビティ」のうち2つ以上を満たす旅として、日本でもJNTOが2023年度から3年間の「訪日マーケティング戦略」の柱の1つに掲げており、北海道を筆頭に、地域観光の成長市場として期待が高まっている。

今回は、広島を軸にアドベンチャートラベルの商品造成に取り組む一般社団法人Hiroshima Adventure Travel業務執行理事の佐藤亮太氏に、北海道で開催された「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」でのワンデーアドベンチャーツアーアクティビティであるデイ・オブ・アドベンチャーでの経験、及び商談会に参加しての気づきを寄稿いただいた。


▲参加者との交流イベントHiroshima Nightの様子

 

アドベンチャートラベル・ワールドサミット2023の開催概要

アドベンチャートラベル・ワールドサミットを主催するのは、アドベンチャートラベルの持続的な発展を目標として1990年に設立された団体 Adventure Travel Trade Association(以下、ATTA)です。世界100カ国以上約1300会員からなるアドベンチャートラベル領域最大の組織で、市場発展のための様々なソリューションの提供やカンファレンス(商談会)などを開催しています。

そのカンファレンスの中で最大のものが、2005年から年に一度、世界各地で開催されているアドベンチャートラベル・ワールドサミットで、世界中のツアーオペレーターやメディアを中心に約800〜1000名の事業者が参加するBtoBのイベントです。

2023年のアドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道は、以下の日程で開催されました。
9月4日~10日:プレサミット・アドベンチャー(PSA) メディアやバイヤーなど一部の人が参加
9月11日:デイ・オブ・アドベンチャー(DOA) 全員参加
9月12日~14日:セレモニー、商談会、各種講演会等 全員参加


▲初のアジア開催となったアドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道のHP

今大会では、日本を含む64の国と地域から約750人が参加したということです。ここでは、特にデイ・オブ・アドベンチャーと商談会を通じて感じたことをレポートします。

 

「平和の共創」がテーマのアドベンチャーツアー、サミットを通じて磨き上げ

一般社団法人Hiroshima Adventure Travelでは、2020年から広島市を拠点にアドベンチャートラベルを中心としたツアーの造成を始めました。アドベンチャートラベルの主要顧客である欧米豪から広島を訪れる観光客比率は他県に比べると高く、街としての認知度は高いと言えます。ただ、広島の観光は、世界遺産である原爆ドームと宮島を訪れたあと、宿泊せずに次の街へ行ってしまう通過型観光で、消費額は驚くほど低いという課題があります。そこで、「平和」をテーマに、ツアーを通じてどのように平和を共創していけるのかを一緒に考える、マルチスポーツ型(サイクリング、ハイキング、シャワークライミング、シーカヤック等)のアドベンチャートラベルを提供し、広島に滞在する価値創出に取り組んでいます。

新型コロナウイルスの影響や、現在のコンセプトにたどり着くまでに紆余曲折があり、2023年から販売を開始したこともあって、まだ実績と呼べるものはほとんどありません。ただ、今年海外エージェント向けに実施したファムトリップの最後には、参加者の方たちが涙しながら想いをシェアしてくれ、人生における1つの転機となるようなツアーに仕上がっているのを感じています。


▲広島市佐伯区湯来町でのシャワークライミング

私がアドベンチャートラベル・ワールドサミットに初めて参加したのは、2022年のスイス・ルガーノ大会でした。翌2023年に北海道で開催されるサミットで広島をPRするためにも、まずは商談会がどのようなものか知りたいと思ったからです。サミットを通じて出会った方々との対話が改めて広島の価値と向き合うキッカケとなり、コンセプトやツアー構成も見直しました。その経験を経て「広島」だからこそのツアーに仕上がったという意味でも、大きな価値がありました。

そして、今回アジアで初めてオンサイトで開催されるサミットは、広島を、そして我々の商品を世界に披露する非常に重要な機会であるという認識のもと、入念に準備して臨みました。

 

全31コース「文化体験」を強みとした、北海道でのワンデイアクティビティ

まずは、デイ・オブ・アドベンチャーに参加した様子をお伝えします。デイ・オブ・アドベンチャーとは、サミット初日に開催される全員参加型のプログラムで、開催地周辺の様々なアクティビティを体感するワンデーのアドベンチャーツアーです。

サミットが一般的な商談会と違うのは、このデイ・オブ・アドベンチャーを通じて、地域を知ることができるのはもちろん、商談会以外の場でも参加者同士の関係構築が図れることです。

今回は全31コースが設定され、カヤックやサイクリングを楽しむアクティブなものから、アイヌ文化に触れたり、調理体験をするといった文化的要素が強いものまで、幅広くコースが組まれていました。

海外のバイヤーが日本に求めているものは、日本にしか無い文化的要素であり、こうした文化的要素が強いものを数多く提供できることが北海道の魅力だなと感じます。アドベンチャートラベル・ワールドサミットでの記者会見で、ATTAのシャノンCEOが、「特に文化は日本の大きな強みだ」と述べていたのも印象的でした。

一方で、例年は40近いコースの中から選べるデイ・オブ・アドベンチャーですが、今回の北海道大会ではコース数が10本ほど少なく、5段階に分類されるコース難易度も例年は4・5というハードなのものも数種類用意されるなか、今回は全て3以下のソフトなものが中心でした。 アドベンチャートラベル全体の傾向が難易度の低いソフトアドベンチャーに向かっていることを考えると大きな問題ではないのかもしれませんが、種類を広げていくことと、ハードなプログラムにも対応できる英語ガイドの育成は、今後の日本の1つの課題なのではないでしょうか。

 

グライダーで土地を俯瞰して眺め、地域への理解を深める体験

さて、私が参加したのは、グライダーと石狩川でのラフティングを楽しむ「Rafting & Gliding in Sorachi – Ishikari River」というコースでした。

前回大会のルガーノでのデイ・オブ・アドベンチャーで220メートルのバンジージャンプを体験した際に、恐怖に打ち克った参加者同士の絆の強さをとても感じました。そこで、北海道ツアーの中で、同様の恐怖心を感じられそうでかつ定員が一番少なく、チームの一体感を一番感じられるのではないかということで、今回のコースを選びました。

ツアーの行程は以下のような流れでした。

1. 札幌を出発して、滝川市でグライダー体験。グライダーは操縦士の方とペアになり、土地や産業について説明を受けながら、ときにスリルを味わいながらの、10分間のフライトを堪能。
2. ホテルで、サラダ、スープ、ビーフステーキ、などの洋食ランチ
3. 午後から石狩川でラフティング。緩やかな川を漕いで行くというアクティビティ
4. 世界有数の渡り鳥飛来地、宮島沼へ。専門家のレクチャーを受けながら観察

このコースを選んだのは計12名。参加者属性は、カナダ、オーストラリア、アメリカ、ドイツ、イギリス、エクアドルから、バイヤー、セラー、メディア、コンテンツクリエイターなど、幅広く揃っていた印象です。

今回のコースで特に印象的だったのは午前中のグライダーです。1人10分と短いフライトでしたが、その土地の成り立ちや産業の様子などを、上から俯瞰することで地域への理解が一気に深まる貴重な体験で、アドベンチャートラベルのイントロダクションとしてのグライダーのポテンシャルを感じました。

私自身、グライダーは初めての体験でしたが、独特の浮遊感があったり、降下する際のスリルを感じられたり、存分に楽しむことができました。他の参加者からも、グライダーは最高だったとの感想が集中していました。

そして、もう1つ印象的だったのは、宮島沼でした。残念ながらオフシーズンで渡り鳥は見られませんでしたが、ガイドを務めた宮島沼水鳥・湿地センターのセンター長牛山克巳さんは、ケニア出身の鳥類の専門家という珍しい経歴の方でした。参加者は、英語も流暢な牛山さんへの関心がとても高く、ガイドする方の人となりへの興味や、特定の領域に詳しいガイドの方とつながりたいという意欲の強さを感じました。

 

アドベンチャートラベラーの趣味嗜好を理解した細やかかつ柔軟な対応が欠かせない

一方で私自身も感じており、参加者も話していたように、改善すべき課題もいくつかありました。

まず昼食は洋食だったのですが、前日に日本に着いたばかり、というメンバーも多く「せっかく日本に来たのだから和食を食べたかった」という声が多くありました。人によって嗜好は様々なので全員の満足度を高めるのは難しいですが、デイ・オブ・アドベンチャーがサミット初日であり、参加者が連日の日本食に飽きている可能性が低いことを考えると、考慮の余地があったのではと思います。なお、事前のメニュー表には、チキンソテーとありましたが、当日ビーフステーキが出てきたので「あれ?」という声も漏れ聞こえました。今回は問題にはなりませんでしたが、宗教上の食事の制約や多様な嗜好を踏まえると、事前の周知は必須だと思います。

また、今回のツアーは普段は販売されておらず、デイ・オブ・アドベンチャーのために作られたコースということで、アクティビティ事業者や受け入れ地域などの現場と全体を調整し手配するオペレーターの意思疎通がうまくできていないケースも見受けられました。

例えば、食事については、現場からは「和食のほうがいいのでは?」など、様々な提案をしていたにもかかわらず、実際に反映されていないといった声も聞こえてきました。

そうした対応への不満が募っていたのか、ラフティングの体験中には、地域の担当の方も、参加者を楽しませることよりも、積み重なった不満を吐露することに意識が向いている印象を受けました。

受け入れる地域側で人材が追いついておらず、アドベンチャートラベルへの理解や意識などの足並みがバラバラで、地域が一体となってアドベンチャートラベルを推進する態勢が整っていないのかもしれません。素晴らしいコンテンツをどう活かすか、意見を共有して共創することの重要性を実感しました。

日本ではアドベンチャートラベルという概念が新しいもので、まだ理解も認知も十分でない状態であることを考えると、こうしたことはどこの地域でも起こりうることです。自戒の念も込めて、ツアーオペレーターを含む地域全体をコーディネートできる人材の育成は、日本全体の課題であると思いました。

あとは、詰め込みすぎで、リズムがないという意見もありました。今回は朝7時半に出て、札幌に帰ったのが夜の7時半。みなさんクタクタでした。「たくさん知ってほしい、体験してほしい」けれど、それが逆効果になることは避けたいものです。テンポに対する意識はもっと大切にしたいポイントではないでしょうか。

商談会前に開催されたプレ・サミット・アドベンチャー(PSA)で5日間の北海道でのアクティビティに参加したカナダのバイヤーの方は、「参加したPSAの1つ1つのプログラムは良かった。ただ、アクティビティが詰め込まれているだけで、それぞれがストーリーとしてつながっておらず、途中で何を体験しに来ているのかわからなくなった」と話していました。

ツアー全体の軸となるストーリーを固めたうえで伝えていくというのは、時間をかけて、経験しながら体得していくものかもしれません。私自身も肝に銘じたい部分ですし、日本全体でレベルを上げていくべきことだと改めて感じました。


▲宮島沼で専門家の話に耳を傾ける参加者

それ以外にも、以下のような声や意見がありました。

・ランチ時に理由もなくアルコールを注文できなかったこと
・アクティビティ中の補給として、コーヒーを飲めない方への代替の飲み物の用意がなかったこと
・スナックとして提供されたのがおむすび一択だったこと
※おむすび自体の提供は素敵だなと思いますが、人によっては重すぎるという反応もあったので、簡単に食べられるお菓子も選択肢にあったらいいと思いました。
・渡り鳥が見られないことが事前にわかっていたのであれば、ツアーから除いたほうがいいのではないか。

アドベンチャートラベルは、旅行者のニーズを踏まえた柔軟な対応が求められますが、すぐにでも対応できそうな内容は改善していくことも大切だと思います。

 

北海道で開催された商談会、参加バイヤーの属性や期待は?

サミット期間中の13日には、マーケットプレイスと呼ばれる、BtoBの商談会が行われました。この商談会にセラーとして参加するには、サミット全体の参加費1,799USD/人に加えて、別途1ブース600USDが必要なのですが、日本のオペレーターを中心に60近い会社がテーブルを設けていました。

ここでは1社12分の商談を最大で12社、計3時間にわたって行います。事前に商談会参加経験のある方から「商談相手が現れないこともある」と聞いていましたが、日本開催のアドバンテージからか、No Showは一件もなく、本来商談がない枠にも飛び込みでブースに足を運んでくれた方がいて、3時間途切れることなく商談が続きました。

商談したバイヤーの日本市場への認知は、これまでも送客実績が多く日本を熟知しているエージェントと、今回初めて訪日したというエージェントと、完全に二分されているという印象を持ちました。

今回は初参加というバイヤーが多く、日本への送客実績があったとしても、まだゴールデンルートが中心というケースがほとんどだということを考えると、日本の、特に地方のアドベンチャーツアーのマーケットは開いたばかりと言えるでしょう。ただ、 アドベンチャートラベルが求める文化的な要素は地方にこそ眠っている、という観点からは、今回を機に、日本の地方への直接的なルートを作りたい、というバイヤーの意欲を強く感じました。

余談ですが、昨年スイスのルガーノ大会で出会い、今年の商談会でもお会いしたアメリカの方は、会話する中で私の出身地の愛知県岡崎市に住んだ経験があることが判明して、とても盛り上がりました。こうした関係値が実はけっこう重要だったりします。

広島に関して言うと、知名度の高さに助けられ、12分という短い時間でも、予想より商談は盛り上がりました。ただ、ここから販売につなげていくには、まずは私という人間をしっかり知ってもらうことと、担当者との密なやり取りがとても重要です。

そのため会期中には、広島のお好み焼きを一緒に作ってみるHiroshima Nightを開催したり、夜は飲み会に参加したりと、忙しい日々を過ごしました。昨年の経験もあり、アドベンチャートラベラーの広島誘致に向けてのスタート地点に立てたという感覚は遥かに強まりました。

と同時に、課題も感じています。私たちは広島で5日間過ごしてほしい、という意欲的なツアーを作っていますが、5日間1都市に滞在するのはハードルが高いことも承知しています。実際にバイヤーの方々とお話しする中で「日本全体をコーディネートしてほしい」「日本の他地域のDMCを紹介してほしい」「隣接する地域と連携したツアーを作って欲しい」といった声を多く聞きました。

広島で魅力的なツアーを作っていくことは最重要ですが、他のエリアと連携し、お互いのツアーの内容を理解したうえで、それらをつなぎ合わせるという役割が求められていること、そうした人材を増やすことが必要であると、より一層感じました。

 

今回のアドベンチャートラベル・ワールドサミットを振り返って

北海道で開催されたアドベンチャートラベル・ワールドサミットには、日本から200名以上の方が参加しており、改めて国内での関心の高さを実感しました。と同時に、今回造成されたツアーを流通にのせて販売ルートを構築する、そして海外エージェントと信頼関係を構築して定期的な送客につなげていく、そして参加者と感動を共有できる満足度の高いツアーにブラッシュアップするなど、さらなる努力が必要であることも事実です。

そのためには、ただ地域同士の連携を構築するだけでなく、アドベンチャートラベルに携わる関係者みなが仲間となり、ときには相談し合いながら、ときには切磋宅間しあえるライバルとなって、日本のアドベンチャートラベルの質を高めることが必要なのではないでしょうか。

その実現のために、私自身も広島でのツアーの磨き上げと販売強化に取り組むだけでなく、他の地域にも足を運び、その地域のアドベンチャーツアーを体験して知識や経験を深めていきたいと思います。

 

プロフィール:

一般社団法人Hiroshima Adventure Travel 業務執行理事 佐藤亮太

1985年生まれ、愛知県岡崎市出身。Barnet FCや福島ユナイテッドFCでスポーツ×まちづくりを経験した後、3.11を機に広島へ。2014年に広島の奥座敷・湯来町へ移住し、カフェやゲストハウス経営を経て、2018年より、NPO法人湯来観光地域づくり公社の理事長に就任。アウトドアアクティビティを開発する中で2019年にアドベンチャートラベルに出会い、広島での広域的なツアー造成を開始。2023年に(一社)Hiroshima Adventure Travelを設立し、業務執行理事に就任。

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