インバウンドコラム
最近は、こんなところにまで来るのか!と思えるような、決して交通の便が良いとはいえない市町村にも、外国人観光客が足を運んでいるのが珍しくなくなってきている。日本の地方には、その土地独特の魅力的な観光資源が多数あるので、これからますます外国人観光客は増えていくであろう。
目次:
失礼ながら、なぜこんなところにシンガポール人観光客が!?
旅行者の心理は外国人も日本人も同じ大切なのは琴線に触れる情報発信
地域連携して地元ならでは情報を発信すべし
失礼ながら、なぜこんなところにシンガポール人観光客が!?
3月下旬、熊本に出張した際のことだ。熊本市内から黒川温泉に向かう途中、昼食を摂るために、熊本市郊外の小さな蕎麦屋に立ち寄った。
メニューを見ながら料理を選んでいると、後ろの席から、シンガポール在住者にとって非常に聞きなれたイントネーションの英語が聞こえてきた。いわゆる、シンガポール英語=シングリッシュと称されるものだ。
シンガポール在住歴の長い筆者が、思わず振り返って話しかけると、思った通りシンガポールからやって来た観光客の3人組だった。彼らは旧正月休みを利用して休暇を取り、3週間かけて日本を旅しているとのことだった。
詳しく話を聞いてみると、東京からJRパスを使い関西を経由して鉄道で福岡に入り、大分県別府温泉で温泉を堪能。熊本を通って、宮崎県の高千穂を訪れ、その後、また福岡に戻ったのちシンガポールに帰るという旅程を組んでいた。
私が東京から出張で熊本に来ており、この後に黒川温泉に向かうことを話すと、非常に興味を持ったようで、黒川のことを色々と尋ねてきた。そして、別府温泉は確かに素晴らしく有名でもあるが、熊本県にも別府とはまた趣きが異なる、豊かな旅情が味わえる温泉がたくさんあることを教えると、意外な顔をしつつも、興味津々という眼差しで聞いてくれた。
ちなみに3人とも日本が大好きで、もう何度も日本を旅しているそうで、出会った蕎麦屋でオーダーしている料理も自然薯定食と蕎麦のセットにビールと、日本人と何ら変わるところはない。ちなみに日本語は話せないとのこと。
海外には、日本は大好きだし、ぜひ旅行してみたいが、日本では英語が通じない(と思いこんでいる)ことがネックとなって、旅行先として日本を選択するのを躊躇している人が大勢いる。しかし、その一方で、先述のシンガポール人観光客のように「日本の田舎は、人も親切だし、日本語ができなくても安心、安全」と考えている人が沢山いるのもまた事実である。
旅行者の心理は外国人も日本人も同じ大切なのは琴線に触れる情報発信
つい先日のGWの合間に、弊社媒体の取材のデレクションのため、編集部スタッフと一緒に富士五湖を訪れた。実は富士五湖には、昨年もファムトリップのデレクションで訪問しているのだが、昨年に比べて、確実に外国人観光客が増加している。場所によっては50%近くが外国人観光客と思われるところも。 富士五湖エリアの観光地のすべてが、外国語対応をしているわけでは決してないのだが、そんなことを気にするそぶりもなく楽しそうに観光を満喫している外国人ビジターが目立ったのが印象的だった。
考えてみると我々日本人も旅行のスタイルは十人十色。言葉ができないことを理由にそもそも海外旅行には行きたがらない人もいれば、英語すらまったくできなくても海外の色々な国を訪れるのが大好きな人もいる。
目的も千差万別で、好きな映画やドラマの舞台を見ることであったり、買い物やグルメ、名所旧跡めぐり、あるいは個人的な趣味嗜好を満たすためだったりと様々である。
外国人にしてもそれは同じなのだ。もちろん、文化や生活風習の違いから、とまどうこともあるだろう。だが、所変われば品変わりではないが、多少わからないことがあったとしても、異国を訪れて違うことに激怒する人は、まずいないと思う。
現代はSNSの時代だ。
訪れた外国人観光客は印象的な出来事や物に出会うたび、FacebookやTwitterなどを通じてその地域の魅力をどんどん発信してくれる。旅先で楽しい思いをしたなら「言葉は通じなくても、日本人は親切だし、安全で快適な旅ができる」という情報が拡散されて、世界に広がっていくわけだ。
旅慣れた観光客たちには、言語コミュニケーションの可否は大きな問題ではなく、地域そのものに興味を持って旅行を計画する。というわけで、一番大切なのは、彼らの琴線に触れるような地域の魅力をいかに提示できるかということである。
地域連携して地元ならでは情報を発信すべし
最近は、こんなところにまで来るのか!と思えるような、決して交通の便が良いとはいえない市町村にも、外国人観光客が足を運んでいるのが珍しくなくなってきている。日本の地方には、その土地独特の魅力的な観光資源が多数あるので、これからますます外国人観光客は増えていくであろう。しかし、そうはいっても、訪日外国人のデータを見る限り、まだまだ、東京、京都、北海道などの有名地域に集中しているのも現実だ。
では、地方の市町村はどういうアプローチをしたらよいのだろうか?
まずは、各国の人々の旅行における嗜好や傾向を知り、地域として“どこの国のどういう人”がもっとも自分たちに興味を持ってくれそうかといことをしっかり分析し、ターゲットを絞り込んでから、地域連携を図りつつプロモーションをすることをお勧めしたい。
地域連携というのは、県単位ではなく、観光資源を中心として、観光客の動きを想定した上での地域連携のことだ。
例えば、世界遺産富士山は国内外で大変な人気を誇っている観光ディストネーションであるが、富士山に訪れる観光客のすべてが富士登山を目的にしているのではない。むしろ、多くの人にとっては、富士山を眺めながら温泉やテーマパークやアクティビティを楽しんだり、美しいパノラマ風景としての富士山鑑賞であったりする。そして、海を渡ってわざわざやってくる観光客は、せっかくの機会だからと、富士山だけではなく周辺の観光地もあわせて訪れることを計画している。
富士山は、山梨県と静岡県にまたがって位置しているが、箱根などの有名温泉地がある神奈川県からの富士山の眺めも絶景なので、富士山が見たいという観光客は、宿泊先としては神奈川県を選ぶ人も多いはずだ。
さらにいうなら、静岡県と山梨県の全地域はもちろん、周辺の愛知県、岐阜県、長野県などにも、富士山+アルファとしての観光PRのチャンスがあるといえる。地域によっては、富士山以外の世界遺産やミシェラングリーンガイドで星をもらっている場所も多く、旅の付加価値を謳うさまざまなアピール法が可能なはずだ。
いつでも日本に来られるわけではない海外からの観光客は欲張りだ。
一ヶ所のためだけに日本を訪れない。
日本人が海外旅行をする場合を思い出してみよう。どうせなら出来るだけ色々なところを回ってみたい、見てみたいと考える人がやはり主流ではないだろうか。
このあたりにもヒントはありそうだ。
県というくくりではなく、魅力ある観光資源を中心に、そこから一歩足をのばせる範囲の地域単位で協力しあっての情報発信が、大きな鍵を握るのではないだろうか。
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