インバウンドコラム

コロナ禍で急成長中「オンラインツアー」の成功と失敗を分けるもの

2021.11.09

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コロナ禍が長期化するなか、外国人観光客を筆頭に旅行需要が減っているが、それと反比例するように伸びてきた〝あたらしい観光のかたち〟がある。「オンラインツアー」だ。

2015年以来、世界中の旅行者を受け入れてきた「Japan Wander Travel」の主宰者であり、2020年4月からは数多くの国内・国外向けのオンラインツアーを実施してきた株式会社ノットワールドの佐々木文人氏は、「ほぼ確実に失敗するパターンが見えてきた」と話す—。

※本稿は、11月4日に刊行された『オンラインツアーの教科書』(やまとごころブックス)の内容の一部を再編集したものです。

 

陥りがちな「オンラインツアー」失敗のパターンとは?

この1年と数ヵ月で、僕たちは数多くのオンラインツアーを実施しました。各地でオンラインツアーを造成するための支援も行ったり、1人の参加者として国内外のオンラインツアーにも積極的に参加したりしてきました。そのなかで、ほぼ確実に失敗するパターンが見えてきました。

それは「オンラインツアーをやること」自体が目的化してしまっているケースです。やっつけ仕事でオンラインツアーをこなしても、面白いものはできません。参加者の目線でみると、実施することが目的となったオンラインツアーほど退屈なものはありません。そんなことがあるのかと驚かれる読者もいるかもしれません。しかし、実際に僕が参加したオンラインツアーのなかには、実施すること自体が目的化しているのではないかと感じたものが存在しました。

ツアーを実施する大目的がよくわからず、ストーリー性もないので、赤の他人の会話を覗き見している気分になり、どうリアクションを取ったらいいのか、戸惑ったことを覚えています。観光施策の予算が余った結果、地域のPRのために無料でオンラインツアーを実施することもあるかもしれません。しかし無料だからといって、参加者の期待値が極端に下がることはありません。準備不足で実施すれば、オンラインツアーが地域の評判を下げるという最悪の事態も多分に考えられます。

 

オンラインツアーの「目的」を明確にする

そのツアーの目的を明確にすることではじめてコンセプトやターゲットが見えてきます。内容も芯が通ったものになります。「もっと地域の人の声を拾ったほうがいいのではないか」「15分おきに質問する間をつくったほうがいいかもしれない」などと、目的を達成するためのアイデアも出てきます。

リアルな場での誘客につなげたいのであれば、その導線を企画に組み込み、それに沿った進行を考えるべきですし、収益化を目指すのであれば、参加者がお金を支払う価値から逆算した設計にしなければなりません。実は、ツアーの目的を明確にすると、ツアー自体の満足度を上げるだけでなく、どのオンラインツアーに参加しようかと検討している人が、ポチッと参加ボタンを押す確率も上げます。いわゆるコンバージョン率やクロージングといわれるものですが、これらは明確なコンセプトが打ちだされた企画であるほど、良い方向にいきます。

 

「収益化」を目指すときに不可欠な視点

収益化を念頭に置いてオンラインツアーを造成する場合、どのようなことを意識しておくべきなのでしょうか。

一般的にオンラインのほうが対面(リアル)での開催よりも単価が低くなります。これは、消費者目線で考えると理解できると思います。裏を返せば、リアルなツアーほど単価を高くできないという環境下で、いかに収益をつくっていくかを考えなくてはいけないということです。最もシンプルな方法は、お客様の人数を増やすことです。これをさらに細分化すると、「一度のツアーに大勢を集める」と「繰り返し開催する」の2つのパターンがあります。

実は、一度のツアーに大勢を集めるという意味において、オンラインツアーには「会場を用意する必要がない」という大きな利点があります。使用する電話会議システムのプランをアップグレードするだけで、100人、500人、1000人と参加可能人数を引き上げることができます。さらに、参加人数が多くなったからといって、アリーナでのアイドルのコンサートのように豆粒にしか見えなくなることもありません。

では、「一度のツアーに大勢の参加者を集める」ためのポイントは何でしょうか。

「磯田先生と二条城へ! 本邦初、禁断エリア徹底潜入オンラインツアー」という「まいまい京都」のオンラインツアーでは、ガイドが著名人であること、かつ、非公開エリアに潜入できることがポイントとなり、集客に成功しています。このようなマニアに深く刺さるものは、一度に大勢を集められる可能性を持ちます。オンラインツアーでは物理的な移動距離が参加の意思決定に影響を与えないため、世界中に点在するマニアを集められるからです。世界遺産でもある二条城という強力なコンテンツほどでなくとも、こうした特別な体験の演出によって、収益化にぐっと近づけます。

上記のように、大勢の人を惹きつける強力なコンテンツを見つけられなかったとしても、あきらめる必要はありません。もう一つの収益化のポイントである「繰り返し開催する」という方策があります。

オンラインツアーは企画や造成といった初期の段階に大きな手間がかかります。ですから1回だけの開催だと企画・造成費用の回収が難しくなります。繰り返し開催することで、2回目以降は開催時の人件費等だけで催行できるようになります。併せて、慣れることによってツアーの品質も向上していきます。集客にもコストがかかりますが、実績の積み重ねによって口コミが広がることで節約することが可能になります。その結果、より収益が生まれやすくなるのです。

 

 

何度も足を運びたい場所にするために〝思い入れ〟を育む

オンラインツアーを関係人口の創出や維持につなげたいという場合もあるでしょう。「そのポテンシャルは十分にある」というのが、1年を通じてさまざまなオンラインツアーの企画・運営をしてきた僕の感想です。

なぜなら、オンラインツアーを催行してきたなかで、繰り返し参加したり、オンラインツアー後に現地に足を運んだり、移住を決断したりという方を目の当たりにすることが少なくないからです。

ツアーの1回ごとの収益や効果を求めることももちろん大切ですが、もっと長期的な視点で「関係人口の創出や維持に活用する」という目的があれば、短期目線の収益性に必要以上にこだわらなくてもいいでしょう。

関係人口の創出や維持を目的にするときに押さえておきたいポイントは、人が同じ場所を旅行したいと思う動機の部分です。

世界的な観光地であるバルセロナであれば、いまだ建設中の世界遺産、サグラダ・ファミリアを目的に、何度も足を運びたいと思うかもしれませんが、そこまでの強い観光コンテンツがある場所は、世界を見渡してもそんなに多くありません。実際、僕自身も起業する前に、1年間の世界一周旅行をしてたくさんの観光都市を巡りましたが、再訪したいと思えるところは指で数えるほどです。

なぜか。結局のところ、大切なのはその土地への〝思い入れ〟であるからです。もっと突き詰めれば、その〝思い入れ〟を育むためには人が重要な要素になるということ。

「あの空気感が好きだ!」「あそこの旬のあの味を楽しみたい!」ということも十分再訪のきっかけにはなりますが、家族、親戚、仲の良い友人、恩人、親切にしてくれた現地の人……言い換えれば、何度も会いたい人がいることは、より強く同じ場所にまた旅行しようと思う動機になります。

 

「関係人口」を創出するためにオンラインツアーを活用

地域創生において、移住・定住の促進が何よりも大事な取り組みであることは、周知の事実です。

そのなかで移住・定住を強く希望するような人に向けた取り組みは多々見られるものの、もう少しライトな層、すなわち心の奥底で移住・定住に憧れを抱いている人に向けた取り組みは、あまりありません。絶対的な数は後者のほうが多いにもかかわらず、彼らと関係を構築していくような手法は採用されてこなかったということです。

マーケティング理論でよくいわれる「認知」や「興味」の部分にあたりますが、これにオンラインツアーを活用するのです。そのためには、参加者と地域の人の関係を構築することを強く意識する必要があります。

オンラインツアーをきっかけにまずは現地を訪問してもらう。毎年訪問するのは難しいとしても、オンラインツアーや「ふるさと納税」などを通じて、地域との関係性を継続させていく。3年に一度でもいいので現地を訪問してもらい、オンラインツアーで出会った地域の人たちとの交流を楽しんでもらう。そして5年や10年先に、移住・定住を考えるライフイベントがあった際に、その土地に移り住んでもらう。

オンラインツアーで人と人のつながりを生み出すことができれば、このような未来地図が描けます。あるいは最初のきっかけは、オンラインツアーではなく、現地訪問やふるさと納税かもしれません。その場合にも、オンラインツアーに関係性を継続させるための活路が見出だせると思います。

 

株式会社ノットワールド代表取締役 佐々木文人

1983年生まれ。東京大学経済学部卒業。損害保険ジャパン、ボストン・コンサルティング・グループを経て、1年間の世界一周新婚旅行に出る。帰国後、東京・京都を中心とした訪日外国人向けのフードツアーやプライベートツアーを運営する株式会社ノットワールドを創業。2021年からは、オンラインとリアル、地域と人をつなげる新サービス「ほむすび」にも取り組む。

 

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