インバウンドコラム

マンネリ化した観光コンテンツはもう飽きた「欧米豪メディア」が求めるもの

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「海外メディアにPRしたいが、どうすれば良いのかわからない」— この記事を読んでくださっている皆さんは同じような悩みを抱えているかもしれません。私は国内の英字メディアに長年勤めていたので、実際、インバウンド関係者の方からそんな相談が多くあります。

もちろん、ウェブサイトやSNSを活用した情報発信を英語や対象市場の言語にしていくことは大切です。しかし、本当にそれだけで海外メディア・国内英字メディアが取り上げてくれるのかというと、残念ながら、そんなに簡単な話ではありません。

本記事では、メディアとの人脈作りや広告出稿に時間やお金をかける前に、できることは多くあるということをお伝えしたいと思います。先日開催された「ジャパントラベルアワード」の表彰式でそのヒントがたくさん見つかりました。


▲車椅子でも入って動物と触れ合うことのできる戸隠牧場(長野県)

 

海外メディアが発見した新しい日本

しいたけクリエイティブが主催する「JAPAN TRAVEL AWARDS(ジャパントラベルアワード)」では、観光におけるDEI(Diversity, Equity, Inclusion = 多様性、公平性、包括性)、サステナビリティ、そしてインバウンドに対する取り組みを審査し表彰しています。3年目となった2024年では史上最多163件のエントリーがあり、10の地域や企業が受賞しました。


▲表彰式の様子

表彰式は東京アメリカンクラブで開催され、受賞者や審査員、観光に従事する一般参加者、そしてメディア関係者などが全国各地から100名以上が集まりましたが、その中でも参加が目立ったのは英字メディアの記者たちでした。

当日参加してくれたメディアは、日本を代表する英字新聞「The Japan News」や「The Japan Times」、テレビ「NHK World」、雑誌「Metropolis」、ウェブ媒体「Japan Travel」や「Tokyo Cheapo」など。

編集者や記者の方に話を伺うと、「新しい発見ばかりで、なぜこれまで知られていなかったのか不思議なくらい素晴らしいデスティネーションだ」という声を多く聞けました。中でも、以下の受賞者が大きな関心を集めていました。

 

英字メディアは、日本の「感動地」のどこを評価したのか?

一番の注目は、やはりグランプリを受賞した鹿児島の奄美大島にあるマリンスポーツ体験施設「ゼログラヴィティ」でした。車椅子ユーザーや身体障害を抱える人でもダイビングやホエールウォッチングが体験できるエレベーター付きのボートや、完全バリアフリーな宿泊施設などを保有しています。福祉という文脈ではなく、誰もが同じような体験を楽しめるように工夫されていることが多くの方の心に響きました。

そしてアクセシブル部門と宿泊施設部門のW受賞となったのが、島根県松江市の「なにわ一水」。1918年創業の老舗旅館ですが、美しい和室でも車椅子で入れるほか、視覚障害のある方のためにフロアごとに香りを変えていたりといった工夫には大きな驚きがありました。


▲廊下にある組子、目の不自由な方や子供が自由に触れて楽しめる。点字での紹介文もある

沖縄県那覇市の「ホテルパームロイヤルNAHA国際通り」は、ウェブサイトやチェックインカウンターなど目に付くところにレインボーフラッグがあり、LGBTQ+コミュニティを歓迎する姿勢が明確に可視化できているホテルです。LGBTQ+フレンドリーであることが誰でも簡単にできるはずなのに、日本ではまだほとんどの地域や施設ができていません。「なぜそのチャンスを逃しているのか不思議」というコメントもありました。


▲フロントでレインボーフラッグを掲げてお客様をおもてなしする

同じく沖縄県恩納村の「沖縄ダイビングサービス Lagoon」では、珊瑚の保護活動に観光客として参加・貢献できるダイビングやシュノーケリングのツアーを提供しています。レスポンシブルツーリズムの好例としてはもちろんですが、「純粋に楽しそう!」という声があったのが印象的でした。

そしてインバウンド部門を受賞したのは、山梨県身延町の「宿坊 覚林坊」です。宿坊としてオーセンティック(本物)な伝統文化体験を提供しつつも、海外ゲストの快適さが考え抜かれています。例えば、隣に併設しているお洒落なカフェで洋食やコーヒーが楽しめるため、精進料理だけだと不安な方にも安心です。また、精進料理なのでムスリムフレンドリーでもありますが、それをしっかりと可視化してアピールしていることもポイントです。


▲常識にとらわれず、インバウンドのお客様の視点でおもてなしをする宿坊 覚林坊

また、宿坊体験だけでなく様々な日本の文化体験が楽しめるほか、全てのアクティビティの説明資料を英語で提供していたり、ウェブサイトも多言語で展開しているため、訪日外国人フレンドリーな宿坊であることが明確です。

 

欧米豪が評価する「日本らしい魅力」の本質

これらの受賞者に共通することとは何でしょうか?目新しさや特殊なコンテンツを持っているというよりも、従来のものをより多くの人が、より良い形で体験できるようにコンテンツを磨き上げている点だと思います。

そしてそれこそが、多くの訪日外国人、特に欧米豪の人々が求める日本らしさや日本のおもてなしの本質です。着物を着た人がお辞儀をしたり、丁寧な対応といった表面的なものではなく、本当に相手を思いやった細かい心遣いや優しさが、「日本らしい魅力」の本質だと認識されているのではないでしょうか。

加えて、そのおもてなしは一方的に与えるのではなく、サービスを受けている方々と一緒に創り上げています。どこか心地よいその寛容性が今の時代に求められていて、多くの人を魅了していくのだと私は考えます。

グランプリのゼログラヴィティは、多様な障害にも寄り添ったサービスを提供をすることで、自分たちができるサービス自体を拡げています。なにわ一水では、宿泊者や従業員のフィードバックを形にして進化を続けています。ホテルパームロイヤル那覇は地元のLGBTQL+コミュニティとの繋がりを契機に、「ダイバーシティアイランド沖縄」を目指す大きな活動まで繋げています。


▲身体障害を抱える人もマリンスポーツを体験できる

表彰式に集まった英字メディアが評価したのは、各事業者や地域の魅力はもちろんですが、取り組みの裏に見える人々のストーリーでした。そこが、海外に伝えたいと思わせる付加価値となり、現状伝わり切っていない「日本らしさ」なのです。

 

海外メディアへの掲載を狙うならばするべきこと

メディアに掲載してもらうことは簡単ではありません。しかし、実はメディアは常に良質なコンテンツを探し求めているため、編集者や記者が求める「魅力的なコンテンツ」を提供することさえできれば、必然的にメディア掲載へと繋げることができます。

特に欧米豪では、読者が多様性のあるコンテンツに対して高い関心を持っており、メディアにもそのようなコンテンツを求めています。そのため、欧米豪メディアが現在「魅力的なコンテンツ」として求めているのは、多様性やインクルーシビティに関わるものなのです。


▲表彰式に参加した英字メディアがそれぞれの視点で、記事を掲載した

ここ10年でインバウンド観光を取り巻く環境は大きく変わり、情報発信が盛んになった反面、メディアも読者や旅行者も、マンネリ化した従来の日本コンテンツに飽きてきてしまっています。

つまり、海外メディアや英字メディアに掲載してもらうためにすべきことは明確です。多様性に注目し、日本の魅力をさらに多くの人へ届ける努力や工夫をし、その過程をしっかりと可視化することです。そんな日本のおもてなしを体現した観光が増えていけば、日本の観光はより一層盛り上がるでしょう。

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