インバウンドコラム

アジア初IGLTA大阪総会が示す観光業の次なるステージ、富裕層だけでない多様な訪日客の心をつかむには?

印刷用ページを表示する



皆さん、こんにちは。しいたけクリエティブの本郷誠哉です。いきなりですが、「IGLTA」という団体をご存知ですか?日本の観光業界ではまだ馴染みのない名前ですが、実はある分野における世界最大級の組織なんです。そのIGLTAの世界総会が、2024年10月23日から26日にかけて大阪で開催されていました。

弊社でIGLTAの日本市場向けマーケティングをお手伝いしていたこともあり、私も総会に参加してきたのですが、そこで確信したのは「日本観光のさらなる伸びしろ」でした。現地で見たこと、感じたことをレポートにまとめましたので、ぜひご一読ください。

 

LGBTQ+コミュニティと観光業界をつなぐ世界最大級の団体

IGLTAは「The International LGBTQ+ Travel Association(国際LGBTQ+旅行協会)」の略称で、LGBTQ+コミュニティと観光業界をつなぐことをミッションに掲げる団体です。1983年にアメリカ・フロリダ州で設立されて以来、世界のLGBTQ+ツーリズムを牽引する存在で、現在では80カ国、地域・13,000以上の企業や個人からなる会員によって構成されています。会員には宿泊施設、地域、旅行代理店、航空会社、観光サービス、トラベルメディアなどが含まれ、世界の名だたる企業が名を連ねています。

 

50を超える国・地域から600人が参加、想定以上の規模となった国際イベント

年に一度のIGLTA世界総会(Global Convention)は、奇数年は北アメリカ、偶数年はそれ以外の国や地域で開催されます。アジア初開催という歴史的な2024年の総会は大阪で開催され、50を超える国と地域から600人近くの人が参加。北米以外で開催されたコンベンションの中で最大規模になり、「嬉しいサプライズだ」とIGLTA関係者も話していました。


▲はかま姿で挨拶をするJohn Tanzella氏(右)と、Dougal Mckenzie氏(左)

エースホテル京都の総支配人でIGLTAの理事も務める池内志帆氏が司会進行を行い、IGLTA CEOのJohn Tanzella氏、取締役会議長でGoogleのトラベル部門でトップを務めるDougal Mckenzie氏らがLGBTQ+ツーリズムの今後について語るところから始まりました。その後は、UN Tourismやその他シンクタンクで研究や調査を行うPeter Jordan氏、2023年にアジア初のGay Gamesを香港で開催したLisa Lam氏らによる講演があり、学びの多い時間でした。


▲Gay Games とは1982年から4年に一度開催されるスポーツと文化の祭典。LGBTQ+の選手やアーティストらが中心となり、性的多様性の受容を推進することが目的。性的指向などに関わらず、誰もが参加できる。

正直、日本でLGBTQ+ツーリズムを語る文脈は「LGBTQ+の人には富裕層が多いからターゲットにした方が良い」というものが多いのが現状です。私はそこに常々強い違和感を覚えています。(お金持ちじゃなかったら、歓迎する必要性がないの?)ですが、IGLTAではそういった表面的なものではなく、「海外を旅することで、自国にいる時よりも自分らしく、自信を持って過ごせる。では、LGBTQ+旅行者に向けて心理的安全性をつくるためにはどういうことができるだろう?」という本質的な問いに対して真摯に向き合っていると感じました。


▲欧州最大規模のホテルチェーン、アコーグループのブース

IGLTA総会のトークセッションの合間やランチタイムには、とても長いネットワーキング時間が。まるで年に一度の家族の集まりのように、参加者たちは再会を楽しんでいました。筆者を含め、初めて参加する人に対してもフレンドリーに話しかけてくれる人が多く、IGLTA会員同士の仲間意識・コミュニティ意識の強さが印象的でした。

そのほか会期中には様々なイベントやワークショップが行われますが、主要なものは以下の通りです:

・オープニングレセプション
大阪城が目の前という贅沢な会場「ザ ランドマークスクエア オオサカ」で開催された大阪観光局主催の前夜祭。素晴らしい会場に参加者は喜んでいました。

・スピーカーセッション
LGBTQ+ツーリズムの専門家によるセッション。18〜35歳のLGBTQ+の若者が旅をするメリットや抱える課題、どのようなサポートをすべきかなど、International Experience Canada(カナダのワーキングホリデービザの正式名称)が協賛したIGLTA基金の調査をもとに解説。

・ワークショップ
ウェディング市場やZ世代旅行者について深く掘り下げたワークショップや、黒人・先住民・有色人種(BIPOC)・トランスジェンダー/性的多様性を持つ旅行者のニーズを探るワークショップなども開催。

・Buyer/Supplier Marketplace
合わせて年商6億8,850万米ドル(約1066億円)のバイヤー企業らが参加した商談会。LGBTQ+ツーリズムへの期待や盛り上がりが感じられました。

・メディアネットワーキング
LGBTQ+関連メディアやインフルエンサーなどが出展し、企業の人やブランド関係者とネットワーキング。


▲活気あふれる場となったランチネットワーキング

 

アジア初、大阪での総会が、史上最も多様性に富んだイベントに

大阪で開催された2024年の世界総会は、IGLTAの41年の歴史の中で初のアジア開催。「やっとここまで来れた。アジアでの開催はひとつの大きなマイルストーン」とCEOのJohn Tanzella氏がスピーチで話し、日本での開催は私たち日本人にとっても大きなニュースでしたが、IGLTAやLGBTQ+ツーリズムに携わる方々にとってはさらに感慨深いようでした。

今回ホストとして活躍した大阪観光局は、2018年からLGBTQ+フレンドリー都市となるための活動を数々実施しています。観光局・DMO として、国内初の「プライド月間」を祝うキャンペーンの実施や、LGBTQ+旅行者向けの情報サイト「VISIT GAY OSAKA」、そしてセミナーなどを通した啓蒙活動が誘致に大きく貢献しました。

総会の会期中、実際に街中を歩いていても、IGLTAの会場近くや商店街などでIGLTAの広告やレインボーカラーを見かけることが多くありました。今回のIGLTAの誘致は、地域住民や大阪在勤・在学の方、特に若年層の子どもたちに対して多様性への取り組みを可視化できたことが一番大きなアチーブメントだったのではと思います。


▲大阪城が綺麗に見えるロケーションで開催されたオープニングセッション

 

「思っていたよりフレンドリー」という声も、日本の魅力を伝えるためには?

「今回は開催が日本だから絶対行きたいと思っていた」と、多くの参加者が話していて、日本の観光ブランド力はやはり強いなと再確認。また関係者によると、日本国内からの参加者も想定より15-20%ほど多かったとのことで、LGBTQ+ツーリズムに対する注目が日本国内でも高まっていることに嬉しくなりました。

また、「日本が思っていたよりもずっとLGBTQ+フレンドリーだと感じた」という声も多くありました。それはよかったと思う反面、LGBTQ+の旅行者から選ばれるデスティネーションにはなれていないことを意味しています。

以前、弊社のゲイのスタッフがとある国を初めて旅行した際にも同じことを話していましたが、「ゲイだということで何か危害を加えられるかもしれない」と身の危険を感じ、パートナーとは旅行中ずっと手を繋がなかったそうです。せっかくの楽しい旅も、自分たちらしく過ごせない辛さがあるのだと思いました。

世界から見て日本がLGBTQ+フレンドリーであるかどうかでいうと、まだ未知数なのです。今回の多くの参加者のように、来てみてはじめて安心だと感じるのではなく、積極的にLGBTQ+の方々に対して「安心して遊びに来てくださいね」と伝えてあげることができれば、さらに多くの外国人観光客が訪れるはずです。

最新記事