インバウンドコラム
コロナ禍に入って以来、海外渡航もままならない状態だったが、旅ナカアクティビティ専門のOTAゲットユアガイドでは、世界中で働く全社員を集め、トレーニングを行うグローバルサミットを5月に本社ベルリンで開催。これに参加するため筆者も2年ぶりに海外渡航を経験した。このレポートでは、パンデミック後の旅行、特にヨーロッパでの旅行について筆者自身が感じたこと、また旅ナカ体験に関する見どころを紹介するとともに、今後の旅行に関する提案をしたい。
ヨーロッパ入域から域内移動、国内線は満席
日本を出国し、フランスのパリ、シャルル・ド・ゴール空港からEUに入ったが、到着してまず初めに感じたことが、空港の雰囲気がパンデミック以前とほとんど変わっていないように見えたことだ。入国審査もパスポートを確認しただけで終了し、パンデミック前と全く変わらない手順で行われ、すべてがスムーズに進行した。
▲通常営業のパリの空港ターミナル、日本の空港と比較して賑わいがある(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
パリからベルリンまでは飛行機で2時間程度だが、平日の夕方にもかかわらず満席で、シニアの団体旅行と思われる同じスカーフやTシャツを着た旅行者も多くいた。
空港内でのマスク着用は義務づけられていないが、空港職員や旅行客のなかにはマスクを着用している人もいた。また、条例により機内はマスク着用が必須となっており、マスクを所持していない旅行者のために、飛行機の入り口でCAが配っていた。
▲待合スペースは、搭乗を待つ人でいっぱいだった(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
ベルリン市内、屋外マスク着用はなし、公共交通機関では着用
ベルリン到着後、市内を歩いてみたが、屋外でマスクを着用している人はほとんどいなかった。日本では強制ではないものの、マスクをしている人が大多数なので、新鮮な光景だった。ただ、飲食店やコーヒーショップの店員など、不特定多数の人と接触機会が多い職種では、マスクをしている人が比較的多いように感じた。
5月12日以降、ベルリンでは公共の場でのマスク着用規則が少し緩和された。しかし、公共交通機関や病院・薬局などの場所では、依然としてマスクなど顔をカバーするものの着用が義務付けられている。
ベルリンに限らず、ヨーロッパの滞在を通して感じたのは、マスクを着用しているのは、「条例で定められている公共交通機関の中」「なんらかの理由で罹患したくない人」いずれかではないかということだった。
▲市内の公共交通機関の電車やトラムの車内ではFFP2という規格のマスク着用が条例で必須となっていた(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
▲ほぼ全ての利用者がマスクを所持して、乗車に合わせて着用していた(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
会社での働き方の変化:在宅中心に出社も交えたハイブリッド形式
コロナ禍での厳格な外出禁止期間などを経て、働き方も大きく変化した。ゲットユアガイドでも時代に促した働き方を取り入れており、新たな働き方の方針を制定した。具体的には、柔軟性を尊重しつつも、イノベーションや会社のカルチャーを維持するために、一定の出社やオフラインの交流も重視する体制に移行した。チームによって週数日出社日を設定する以外はリモート勤務となり、希望すれば年間20日間、世界中のどこからでも勤務することが許される制度を採用している。
ベルリン本社のオフィスでは、以前は出社時に必ず抗原検査キットでテストすることを求められていたが、現在は任意になっている。検査キットは無料で提供されており、罹患したくない社員や不安を感じる社員がミーティング前に他の社員にもテストするよう依頼したりしている。
▲オフィス内のMTGルーム、京都の”茶の間”の部屋(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
本社内のミーティングルームも感染対策として利用人数を制限している。ミーティングルームは世界各国の観光地や名所にちなんでつけられている。ゲットユアガイドのレックCEOは茶道が趣味で、日本から抹茶を取り寄せているほどだ。
(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
同時にオフィスの仕様も大きく変わり、固定されていた座席はすべてフリーアドレスに変更、出社時に専用のアプリで予約する方式に変わったほか、自宅のように集中して業務をしたい社員向けには、おしゃべり禁止の「クワイエットエリア」も設定された。
▲働き方の変化に伴いZoomミーティング等をしやすいように多数導入された電話ブース(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
ヨーロッパの旅行需要は2019年の水準超え、旅への予約体験もスムーズに
今回、久しぶりに訪れたヨーロッパだが、こちらでは旅行需要がすでに2019年を大きく上回る水準まで戻っていることを実感した。パンデミックの間、ゲットユアガイドを含む一部の企業は、世界中の旅行者によりシームレスな旅ナカの予約体験ができるようイノベーションを促進しており、観光再開にもうまく対応できているように見える。5月にベルリンとバルセロナを訪れた際、こうした優れた旅行体験のいくつかを実際に体験することができた。
▲ベルリンの代表的なランドマーク「TVタワー」(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
▲ベルリンの人気観光スポット「ブランデンブルグ門」と観光客に人気の自転車タクシー。自転車タクシーはマーケティングの一貫で現在ゲットユアガイドのブランドカラーに塗装されている(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
観光スポットの説明はガイドによるストーリーテリングで魅力を訴求
たとえば、ベルリンの観光スポットであるチェックポイント・チャーリーも相変わらずの人気ぶりだった。見た目に派手ではない観光スポットは時間とともに背景が忘れてられてしまうため、ストーリーテリングなどで聞き手の想像力を掻き立てる必要がある。チェックポイント・チャーリーは冷戦時にキューバ危機と並んで第三次世界大戦のキッカケとなりうる東西摩擦が起こった現場。ツアーではガイドが当時何が起こったかを資料も交えて説明する。このガイドは、臨場感を持たせるために演技の勉強もしたそうだ。
▲現地ガイドと観光客(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
今回、筆者が参加したのはゲットユアガイドが現地ツアー会社と共同で企画している「ナチス第三帝国と冷戦時代 少人数ウォーキング ツアー」。ベルリンのユニークな歴史を学ぶことができる2時間のウォーキングツアーで、ブランデンブルク門から始まり、崩壊して30年経つが今でも部分的に残るベルリンの壁など、様々な名所を巡る。10名ほどのツアーの場合は1人19ユーロ(約2,700円)、プライベートツアーの場合1グループ195ユーロほど。
上の写真は、ベルリン市内に多数あるグラフィティーアートを巡るウォーキングツアーだ。アート作品が何を意味しているのか、なぜ描かれたのか、見ただけではわからないことが多いが、ガイドの説明があれば理解できるため、海外の観光地ではこうして多様なウォーキングツアーが多く催行されている。
▲グラフィティーアートをプロの指導のもと体験できるアクティビティも人気(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
入場チケットはオンライン、優先入場で付加価値アップのサグラダ・ファミリア
今回の渡航は2週間にわたったため、週末を利用してヨーロッパの旅行に出かけた。行き先は、以前から気になっていたサグラダ・ファミリアがあるスペイン・バルセロナだ。
世界遺産サグラダ・ファミリアは、2021年新たに完成した「聖母マリアの塔」の完成式典をゲットユアガイドがスポンサーしたり、顧客満足度を高めるため、現地事業者との共同企画ツアー「ゲットユアガイド・オリジナルズ」を展開している。今回は、そういったツアーへ個人的に参加してみた。
なお、サグラダ・ファミリアの入場チケットは現在、すべてネット予約のみとなっており、対面のカウンター等では一切販売していないため、各所にチケット販売サイトへのQRコードが掲示されている。
ゲットユアガイドでは、ベルリンのツアー同様サグラダファミリアでも優先入場を含むガイドツアーを観光事業者と企画・催行している。このツアーの参加者は一般の入場者とは別の入り口から入ることができる。サグラダ・ファミリアへの入場は空港並の厳しい持ち物検査が行われるため、ピークの時間帯には、入場までに長い時間を要する。そのためスムーズに入場できるのは旅先の時間節約となり、喜ばれるポイントの一つだ。また参加者は無線端末とイヤフォンを装着することで、混雑した場所でもガイドの説明がよく聞き取ることができる。
(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
費用は入場チケットを含めて53ユーロほど。約1時間のツアーでは、アントニオ・ガウディの人となりやサグラダファミリアの建築技術や工夫、彫刻が意味しているものなど見ただけではわからない点についてガイドがユーモアや質問を交えながら解説してくれるため、より一層理解を深めることができる。また無線のイヤフォンを活用して、内部に入る際に音楽を流したりするなど、雰囲気を盛り上げる工夫も随所にみられた。
(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
壮大なスケールを誇るサグラダファミリアは2028年に完成予定だ。サグラダファミリアの建築や維持にかかる費用は、すべてツアーの収益や入場料、個人の寄付から賄われている。各塔の上には内部のオルガンに連動したベルが設置され、バルセロナの町中に音楽の音色が響き渡る予定だという。とにかくスケールの大きい構想であることを実感する。
日本帰国、出国72時間以内のPCR検査など課題は山積み
日本への帰国については、筆者が帰国した5月時点と6月以降で運用が変更になったので割愛するが、6月以降も継続して必須とされる出国前検査(出発72時間以内のPCR検査)については、特に非英語圏のヨーロッパに旅行するにはかなりの個人旅行の経験と語学力がないと難しいと感じた。
大きな原因としては、日本政府が独自の紙のフォーマットを指定している点だ。ドイツの医師によると、紙の指定書式への記入を求める対応は他国では例がないため、対応に余計な時間や理解が必要となるという。今後日本を訪れる旅行者には予想外のトラブルの原因になりそうに感じた。費用面でもPCR検査だけで1万3000円程度かかったため、家族旅行など人数が多い場合には特に大きな負担となる。
また実際にやってみて、出発72時間以内のPCR検査というのは、検査結果の書類受け取りも含めるとかなりタイトなスケジュールという感想を抱いた。検査当日、ドクターに翌日には結果が欲しい旨伝えていたが、同日テストを受けた部下は翌日に結果が出てこず、検査の翌々日、出発当日の土曜日の午後に結果を受け取りにいくことになった。フライトが夕方であったため間に合ったが、休日が出発日であったり、出発時間が早い場合は、結果の受け取りが間に合わないケースも十分あり得ると感じた。ちなみにクリニックの書式の場合は検査結果をインターネット上でダウンロードできるため、書類受け取りだけのために再度クリニックまで赴く必要はない。
テスト結果についても、クリニックの書式では偽造防止のためにQRコードで確認できるようになっているが、日本の書式ではそのようなフォーマットにはなっていないので、世界中の医師とクリニックの真偽をどのように調べるのかも課題だと感じた。
日本は6月10日から低リスク(青)の国からの団体ツアー客を受け入れ始めたが、入国条件には事前のPCR検査結果の提出がある。検査結果が間に合わない場合、搭乗拒否される可能性があるため、日本政府が指定する独自の紙の書式は、今後も運用が続けば問題になる可能性があるように感じた。
▲ドイツのクリニックで発行している検査結果(左)と日本政府が求めている書式(右)
ドイツのクリニックの検査結果には検査結果が偽造でないことを確認できるQRコードもついている(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
コロナ禍を経て変わったこと、変わらないもの
今回の渡航を通じて一番感じたのは、人との対面でのコミュニケーションの素晴らしさだ。2年にわたって画面越しだけでやり取りしてきた人との再会や、初めての対面に、オフィスのあちこちで歓喜の声が上がっていたことが非常に印象的だった。
働き方はコロナ禍を経て変わったが、実際に会うことの重要さ、旅行に関していえば実際にその土地に足を運び、現地の人や物を見て感じる重要さは、コロナを経てより一層増したのではないだろうか。
感染症対策については、コロナ禍初期の社会全体での対策から、病状や事情がある個人が自己防衛としてマスク着用などの対策を行うフェーズに入ってきていると実感した。
▲ベルリンの観光スポット「チェックポイント・チャーリー」。屋外でマスクを着用している人はほとんどいない(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
また、今回会った、ほとんど全ての社員が「日本に行きたい」と言っており、日本の観光地としての魅力は全く落ちていないどころか高まっているようにも感じた。また海外ではマスクを全くしていないという情報も多くあるが、大半の人は条例等で必要とされている場合、きちんとマスク等の着用をするし、必要に応じて抗原テストを受ける等の配慮を行っていた。
2年ぶりの外国人観光客受け入れにあたって考えるべきこと
日本の観光事業者として思うことがある。今後、感染症対策に対しては個人の状況に応じて多様なニーズがあることが想定される。そのためには、現在政府から求められているような、根拠に乏しい観光客全員に対する一律の感染症対策の要請ではなく、病状などの不安を抱える個人のニーズを把握したうえでの対応や、マスクの着用などが合理的に必要な場合、その説明を行うことが大事になってくる。そうした対応も、2年ぶりに来日する外国人観光客の満足度につながるのではないだろうか。
▲全社ミーティングで2年ぶりの再開を喜ぶゲットユアガイドの社員(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)
筆者プロフィール:
ゲットユアガイド・ジャパン株式会社 日本オフィス代表
仁科 貴生
英国高校留学を経て米国カリフォルニア州立大学を卒業。楽天株式会社に入社後、楽天トラベルで主に北関東エリアでオンライン集客支援を行い、東日本大震災を契機に楽天社内でエネルギー事業の立ち上げに取り組む、その後メタサーチ大手KAYAKの日本事業の立ち上げやホテル予約サイトAgodaにて首都圏・東日本エリアでのインバウンド集客支援を経て2018年よりゲットユアガイドにて日本法人の立ち上げに従事。
最新記事
体験の付加価値と売上アップに向けて先進事例共有「タビナカ・サミット2023」開催で得たもの (2023.04.26)
宿泊施設が今すぐ実践できる「旅ナカ体験」を活用した収益アップ術 (2022.04.22)
コロナ禍で重要性が高まるレスポンシブルツーリズム、実現に向けて旅ナカ事業者が取り組むべきこと (2021.07.16)
旅ナカマーケティングのOTA活用が観光事業者の可能性を広げる【日本の旅ナカ市場拡大のヒント】 (2021.06.15)
旅ナカDXの2つの視点、「攻め」と「守り」で旅行者と事業者双方のメリットを生み出す (2021.04.23)
旅行者のニーズに基づく観光DXが成否のカギを握る【日本の旅ナカ市場拡大のヒント】 (2021.03.12)
稼げる旅ナカ体験をつくるために、今だからこそ取り組むべきこと【日本の旅ナカ市場拡大のヒント】 (2021.02.12)