インバウンド事例
【東北風土マラソン&フェスティバル】 「マラソンを通して東北と世界をつなぐ」をミッションに、2日間で5万人を集客
事例のポイント
- マラソン大会にフェスとツアーを合わせ、老若男女が楽しめる
- 海外のマラソン大会でPR
- 大会開催前から英語で情報を発信
- 近隣市町村や旅行会社と連携し、受け入れ態勢を整備
宮城県登米市(とめし)を舞台に、毎年2日間で開催される「東北風土マラソン&フェスティバル」。復興支援をきっかけに始まった同大会は、「マラソンを通して東北と世界をつなぐ」というミッションのもと、国内のみならず世界中の人々を誘致するイベントとして話題を呼んでいる。マラソン大会が乱立する国内において、4年間でランナー数を5倍以上にまで増やした背景にはどのような戦略や取り組みがあったのか。スタート時に発起人が抱いた思いを起点に、現在までの道のりを見ていきたい。
大会発足のきっかけは、東日本大震災
東日本大震災からの復興を目的に一念発起し、2014年に東北風土マラソン&フェスティバルを創設したのは、神奈川県出身の竹川隆司氏。竹川氏は野村證券に在籍中、ハーバードビジネススクールに留学し、MBAを取得。野村證券ロンドンオフィスでの勤務を経て、30歳の時に独立し、アメリカでの起業などを経て、後に日本でも高度IT人材育成のための教育ベンチャーを設立している。
「日本とアメリカを忙しく飛び回る日々の中、東京で東日本大震災を体験しました。無力感を感じつつも、まずは寄付金を集める活動からスタート。しかし、リアルな復興に直接結びつく何かをやりたいと思うようになりました」と語る竹川氏は、一時的な支援だけではなく、東北の産業を持続可能な形で支えられるような仕組み(=事業)を作れないかと思いを巡らせた。その時にひらめいたのが、自身の趣味とも重なる「日本版メドックマラソン」だ。
東北の日本酒や名物グルメが味わえる「日本版メドックマラソン」
メドックマラソンとは、フランス屈指のワインの産地「ボルドー」のメドック地区で毎年9月に開催されるマラソン大会。約8,000人の仮装ランナーが給水所で有名シャトーのワインを飲みながら走ることで知られ、ワインのみならず生牡蠣やステーキといった現地のグルメをコース料理のように味わうこともできる。竹川氏は、東北で同じような大会を開催したいと思い立ち、メドックマラソンの主催者に飛び込みでメールを送り、2012年には同大会に出場した。その後、主催者からも好反応を得て、具体的な協力関係に向けた話し合いをスタート。さらに、マラソンの候補地となった登米市や地元住民の積極的な協力もあり、東北風土マラソン&フェスティバルの実行委員会を立ち上げるに至った。竹川氏は2013年にもメドックマラソンに出場し、同時にメドックマラソンの展示会場で「東北風土マラソン&フェスティバル」のブースを初出展して、ランナーたちにPR。2014年4月には東北風土マラソン&フェスティバルの第1回大会開催にこぎつけた。マラソンコース内の各所で一口サイズの名物グルメが味わえるほか、マラソンを完走したランナーにはきき酒チケットが贈呈されている。
マラソンだけではなく、フェスやツアーを組み合わせたその思い
東北風土マラソン&フェスティバルでは、マラソン大会のみならず、食や日本酒を味わうことができる「登米フードフェスティバル」「東北日本酒フェスティバル」といったイベントや、被災地を含む東北各地に足を運べる「東北風土ツーリズム」というツアーも実施している。
また、会場では子供を対象としたアクティビティが用意された「キッズドリームパーク」や、老若男女健障問わず楽しめる「ゆるスポーツパーク」なども完備している。そこには、「参加する全ての人々が楽しむことのできる大会にし、1人でも多くの人に東北の“風土”と“Food(食、日本酒)”の魅力を味わってもらいたい」という竹川氏の思いが込められている。
2018年には来場者数5万3,000人で過去最高!外国人ランナーも年々増加
東北風土マラソンのランナー数は、2014年の1,300人から2018年には6,800人に増加し、東北風土マラソン&フェスティバルの来場者総数も1万5,000人から5万3,000人に拡大した。
また、2014年の第1回大会に参加した外国人ランナーは2人だったのに対し、2018年には200人にまで増加した。外国人ランナーの出身国・地域の内訳をみると、1位:台湾(37.1%)、2位:香港(27.7%)、3位:中国(13.2%)、4位:アメリカ(3.8%)、5位:タイ(3.1%)の順となり、ほかにもイギリスやオーストラリア、マレーシア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、チェコ、インド、スペインなど、世界中の国・地域から参加していることがわかる。
海外には、オンラインとオフランでPR
では、海外へのアプローチはどのように展開してきたのだろうか。先にも少し述べたが、東北風土マラソン&フェスティバルは、メドックマラソンの展示会場に毎年ブースを出展し、ランナーたちにPRしている。さらに、香港最大のファンランである「香港ストリートソン」とも提携し、展示会場にブースを設けて参加者たちにパンフレットで紹介をしている。このほかにも、第1回大会開催前から英語版のホームページを開設し、英語でのエントリーを可能にしたほか、Facebookやメールマガジンも英語での発信を行っているという。こうして、口コミやSNSでの評判、ウェブメディア、紙メディアなど、オンライン、オフラインの両側面から外国人ランナーの参加を促している。
近隣市町村や旅行会社と連携し、受け入れ態勢を整備
人口約7万9,000人の登米市に、2日間で5万8,000人が訪れるとなると、その賑わいぶりは想像に難くない。一方で、大勢の参加者や外国人を受け入れるためにはどんな工夫をしているのか、竹川氏に尋ねた。
「公共交通機関ではアクセスできないという開催場所の性質上、各参加者の皆さんの“足”の確保は一番重要ですので、第1回大会から旅行会社さんと連携して今ではバスを50台程度用意したり、地元のご協力を得て駐車場を2,000台分以上用意したりして、受け入れ態勢を整えています。宿に関しては、地元の宿泊施設がすぐに埋まってしまうため、近隣市町村や仙台からのシャトルバス付き宿泊パッケージを用意するなど、事務局としても対応しています。最近では地元の方々主導で民泊の活用といった動きも盛り上がり始めています。宿泊や受け入れについて、特に“外国人だから”という特別な対応はしていませんが、情報発信や受付、アクセス案内、サポートなど、日本語と英語(一部中国語なども)含めた多言語対応は当たり前、にすることが重要だと考えています」
英語での対応を当たり前のこととして運営しているからこそ、海外から来るランナーたちでも安心して参加することができるのだろう。
大会の趣旨を深く理解する外国人ランナーたち
その甲斐あって、外国人参加者からは同大会に対して次のようなコメントが寄せられている。
「東北風土マラソン&フェスティバルに携わっているスタッフのみなさんには感謝の気持ちでいっぱいです。メドックマラソンに参加した際、“東日本大震災からの復興を目的にマラソン大会を開催したい”という竹川さんの思いを聞き、心を動かされました。たびたび地震に見舞われる台湾出身の私たちにとって、震災は決して人ごとではありません。これまでにさまざまなマラソン大会に参加してきましたが、東北風土マラソンは最も意義深く、素晴らしい大会だと感じています」
「風が強く、厳しい天候に見舞われながらも、東北風土マラソン&フェスティバルを心から楽しむことができました。レース中に振る舞われた地元の名物グルメはどれも素晴らしく、レース後に参加したフードフェスティバルと日本酒フェスティバルは、東北の特産品を知る良いきっかけとなりました。レース前にはツアーにも参加し、東日本震災の被害がいかに大きなものだったのか、そして復興に向けて前進してきた地元の人々の姿を目の当たりにし、とても感動しました。マラソン大会でこのような経験ができたことにとても感謝しています」
[まとめ]
東北風土マラソン&フェスティバルでは、経済波及効果の試算を行なっている。それによると大会開催の2日間で約3億円の経済波及効果を生んでいるという結果になった。大会は創設当初より補助金なし、広告宣伝費もゼロで運営を続け、資金はランナー参加費と協賛金でまかなっている。復興支援に賛同し、地元を盛り上げたいという有志の力でここまで継続しているのだ。
「世界中に東北風土マラソン&フェスティバルのファンが増えて、一時的ではなく継続的に東北への人の流れができることこそが、私たちが目指す“マラソンを通して東北と世界をつなぐ”につながるのだと信じています」と語る竹川氏。大会の創設当初に抱いた思いを胸に、同氏の意識はすでに先々の未来へと向けられているようだ。
取材協力:東北風土マラソン&フェスティバル
最新のインバウンド事例
岐阜長良川の流域文化を再定義、高付加価値の和傘が繋ぐ技術継承と持続可能な地域づくり (2023.10.13)
高付加価値ビジネスで地域課題に新機軸、青森ねぶた祭で1組100万円のプレミアム席が継続できる理由 (2023.08.25)
辺境地が1日1組限定のプライベートキャンプ場に、遊休資産の付加価値アップ術 (2023.06.16)
インバウンドに大人気 京都のラーメン店が、コロナ禍でパン業界へ参入したわけ (2021.12.23)
栃木・大田原ツーリズムによる農村観光の「インバウンド市場創出」に向けた2つの取り組み (2021.11.19)
4年で黒字化、重点支援DMO大田原ツーリズムが主導する「農家民泊」の戦略 (2021.11.18)
【ニッポニア|NIPPONIA】古民家を活用した地域おこしニッポニアの原点、全国への事業展開を可能にしている理由(後編) (2020.11.20)
【ニッポニア|NIPPONIA】アフターコロナを見据えた地域づくりのカギは、増え続ける空き家の活用にある!?(前編) (2020.11.19)