インバウンド事例

サイクリストに大人気!琵琶湖一周ツアー「ビワイチ」は、自転車大国・台湾を巻き込みルート開発

2019.08.09

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事例のポイント

  • 台湾から自転車メーカーや、観光業界の重鎮を招聘し、魅力をアピール
  • 守山市が拠点として観光振興に積極的に取り組む
  • 幅広い観光客層を取り込むため、多様な視点からルートを開発
  • サイクルサポートステーションの充実など、インフラ整備

美しい景観を楽しみながら、琵琶湖畔を颯爽と走っていく自転車の群れ。滋賀県では、サイクリング愛好家が100万人以上という台湾をはじめ、サイクリストをターゲットにした海外へのプロモーションに積極的だ。そのための視察ツアー、社会実験、インフラ整備、ショップ誘致など様々な取り組みが行われている。どのようなステップで実施しているのか、その過程を追った。(執筆:江澤香織)

 

自転車好きに知られるビワイチを台湾に向けPR

「ビワイチ」とは、元々国内の自転車愛好家の間で使われていた言葉。琵琶湖を自転車で一周することを意味する。1周は約200kmで、上級者なら一日で走破する。一般的には2日以上かけることが多く、比較的緩やかな起伏で走りやすいため、初心者や子供でも楽しむことができるのが特徴だ。琵琶湖を始めとした雄大な自然と、歴史的建造物等の文化が融合した景観の豊かさも魅力の一つである。そのビワイチでは台湾に向けたプロモーションを積極的に行っている。

台湾はもともとサイクリングが盛んな土地柄。1972年に創業し、年間700万台を製造する世界最大の自転車メーカー「ジャイアント」を始め、多くの自転車関連企業がある。2007年には台湾を自転車で旅する映画『練習曲』が公開され、さらにブームが過熱したという。台湾最大の淡水湖「日月潭(にちげつたん)」を1周するコースも人気が高い。台湾にビワイチをアピールできる条件は揃っているのだ。

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まずは台湾の大学による視察からスタート

2015年10月、滋賀県はまず、台湾の大学からの視察を受け入れた。そこから繋がり、翌年の2016年4月、元台湾観光局局長で中華大学観光学院の蘇成田(スー・チャンテン)学院長及び、張藩文(チョー・ハンモン)教授が、大学の観光コースで学ぶ学生や行政関係者、事業者等を連れ、琵琶湖畔のサイクリングモニターに参加した。

蘇学院長ら一行は、琵琶湖大橋から高島市の白髭神社までの琵琶湖半周に挑戦。湖がパーっと眼前に広がる絶景はもちろん、田んぼや山々など変化に富んだ自然、寺院や城など建造物の歴史文化を楽しんだ。蘇学院長は「ビワイチ」に大きな可能性を見出し、「台湾でも絶対ポピュラーになる。ぜひPRしてほしい」とお墨付きをもらった。張馨文教授も「景色はきれいだし、道も走りやすい。世界有数のサイクリングロードだ」と評価。同行した学生たちの意見も好評だった。

これらの意見を受け、ビワイチのサイクリングコースを台湾へのPRも始めた。国内からの利用者は自分の自転車を持ってくる人も多いため、一概には言えないが、レンタサイクルの利用者の実に15%が台湾をはじめとした海外からの利用者となっている。

 

▲天下の名城、「彦根城」は琵琶湖八景の1つに数えられる

▲天下の名城、「彦根城」は琵琶湖八景の一つに数えられる

 

熱心に取り組む守山市には、台湾発!世界最大自転車メーカーの店舗もオープン

琵琶湖一周約200kmとなると、多くの市町村にまたがっているが、「ビワイチ」へ特に力を入れているのが守山市だ。宮本和宏市長は、東京大学運動会自転車部に所属していたほどの熱心なサイクリスト。2017年4月6日には琵琶湖岸第二なぎさ公園に「琵琶湖サイクリストの聖地碑」を設置、プロサイクリスト・三船雅彦氏に監修を依頼した「ビワイチ推奨コースマップ」を制作するなど、ビワイチの認知度向上とサイクリストの誘客に積極的に取り組んでいる。同市は、琵琶湖大橋の東岸に位置し、「ビワイチ」の拠点化を目指している。

2016年3月18日、台湾の自転車メーカー「ジャイアント」の店舗が同市内、琵琶湖畔のリゾートホテル「ラフォーレ琵琶湖」内にオープン(2017年7月より「琵琶湖マリオットホテル」にリニューアル)。ロードバイク、クロスバイク、小軽車、子供用ロードバイクなど車種は種類豊富で、ウエアや小物も揃う。初心者から上級者、女性向け、子供向けなどあらゆるニーズに対応している。自転車の修理対応や、レンタサイクルも充実。すぐにビワイチを走れる立地も魅力だ。広々と開放的な店内は、ハイグレードなリゾートホテルならではの落ち着いた雰囲気があり、外国人旅行者も安心感が持てるだろう。コースの説明、立ち寄り観光地の案内、回り方のアドバイスなど、サイクリストへのサポートも行っている。現在では、外国の方にもビワイチを楽しんでもらえるよう、多言語のビワイチサイクリングマップを置いている。

ちなみに、2016年5月20日には、当時ジャイアントの会長だった劉金標氏(同12月に引退)も守山市にやってきて、琵琶湖畔約20kmを走った。自転車をこよなく愛し、73歳で台湾一周約900kmを走破、その後も世界各地のサイクリングコースを走ったという強者で、この時は82歳だった。劉氏が走ったところはサイクリングの聖地になるといわれるほど、影響力の高い人物だ。「ビワイチは世界的なサイクリングコースとなる条件は備えている」と高く評価し、台湾サイドも協力を惜しまないと約束を取り付けたそうだ。

 

▲琵琶湖大橋は、両側に自転車・歩行者専用道路も設けられている

▲琵琶湖大橋は、両側に自転車・歩行者専用道路も設けられている

 

「ビワイチ」を気軽に楽しめる便利ルート「漁船タクシー」

守山市ではジャイアントの店舗誘致をきっかけに、「ビワイチ発着地のまち守山市」をキーワードとして観光誘客を進めるため、ビワイチPR動画の制作や地元企業らとのお土産品の開発、市内へのサイクルラック設置など、地域を挙げた受け入れ体制整備に力を入れている。自転車を軸とした観光振興のために守山市が国に申請していた地方創生の交付金について、ほぼ満額の7,900万円が交付されることが決まり、国・県に働きかけ、湖岸道路に自転車専用レーンを設けるなどサイクリスト走行環境整備にも取り組んでいる。

特筆すべき、守山市ならではの事業として、湖上から琵琶湖を楽しみながら、ビワイチのコースをショートカットできる便利なルートの「漁船タクシー」がある。現有する漁船や施設を利用し、湖上運送の実現性を検証。新たな観光資源の有用性を図る社会実験事業として行われている。2019年は令和元年である5月1日から開始し、令和2年3月27日まで随時受付中で、希望日を2週間前までに3名以上で予約するシステム。1隻あたり6〜7名乗船でき、費用は1人2,000円。出発港と到着港は木浜漁港、長命寺港、大溝港の3箇所から選択できる。例えば、琵琶湖東岸の長命寺港から西岸の大溝港まで、湖を横切って自転車ごと漁船で渡ると、走行距離を約50kmに縮めることが可能になる。一日で琵琶湖観光もサイクリングも楽しみたい人や、脚力に自信のないビギナーにとっては力強い味方になることだろう。沖島に立ち寄るオプションもあり、湖上でなければ見られない琵琶湖の風景や、漁船ならではの臨場感を味わえるのも、このルートの楽しさだ。

 

▲漁船タクシーに自転車を積み込んで移動する

▲漁船タクシーに自転車を積み込んで移動する

 

さらに興味深い施策として、ビワイチをはじめ、瀬戸内しまなみ海道、淡路島(アワイチ)、泉州・和歌山の4地区連携による周遊スタンプラリー「スマート光ライド2019」が2019年7月1日(月)~9月30日(月)の期間、開催されている。地域の魅力発信や地域活性化に繋げることを目的に、人気のルート間が連携して実施。参加費は無料で、NTT西日本の提供するアプリ「いまどこ+」または「しまなみ海道」をスマートフォンにダウンロードすることで、誰でも参加できる。スタンプを集め、必要事項を回答すると完走賞が送付される。さらに応募した人の中から抽選で各エリアの宿泊券などの商品プレゼントも用意されている。

関西では人気も定着してきたビワイチだが、関東圏における認知度向上と利便性を図るため、2018年よりJRバス関東と連携し試験的に東京発のビワイチ貸切バスツアーも実施している。金曜の深夜に夜行バスで出発し、日曜の夜に東京に戻る、現地1泊のサイクリングツアーである。
「琵琶湖周辺の自然や文化を、サイクリングという体験を通して感動を得てもらいたい」と守山市の担当者は抱負を語ってくれた。

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「ビワイチ」の更なる魅力発信へ、滋賀県のインフラ整備とブランディング

滋賀県では、自転車のメッカに向けたインフラ整備も進めている。2015年度、サイクルサポートステーションの社会実験を行った。ここでいうサイクルサポートステーションとは、食事、水分補給、トイレ利用が可能で、駐輪スペースがある拠点のことである。県などでつくる滋賀プラス・サイクル推進協議会が「ビワイチサイクルステーション」を湖岸の47か所に設置したところ、おおむね好評。シャワー利用や宿泊施設への手荷物配送などのサポートサービスも整えた。その後ビワイチの盛り上がりとともに設置希望の事業者が増えて年々設置数は伸び、2019年3月末現在では6倍以上の304箇所となった。目標であった200箇所を達成しているが、引き続き、募集は継続する。

またビワイチは、いくつもの市町村をまたぐため、これまで統一したブランディングを固めきれずにきていたが、全国から一般募集し、2016年9月にロゴマークが決定。サイクルサポートステーションののぼりや、チラシ・ホームページ、ルート案内などで広く使用されている。また2017年8月には、県産品の販路拡大、県の産業振興等に活かしていこうと目的としてロゴマークの利用に関する規程が定めれられた。利用届の提出など一定の要件はあるが、現在50以上でこのロゴマークが活用され、Tシャツやキーホルダーなど県内を中心に販売されているとのこと。今までバラバラだったロゴが統一されたことで、ビジュアルが明確になり、外国人旅行者にも利用しやすい環境が整ってきている。

アプリ名画像
また、2018年4月からスマートフォン・タブレット向けサイクリングアプリ
『BIWAICHI Cycling Navi』の提供を開始している。このアプリは、英語、中文(繁体字)にも対応しており、自転車でびわ湖一周する「ビワイチ」をはじめ、滋賀県内の観光をより気軽に楽しんでもらうために開発した。ビワイチサイクリングコース(北湖、南湖)の追加やビワイチルート上に設置されたカメラの前を通過すると走行中の写真をアプリ上で自動で撮影してくれる「自動撮影機能」や「ながらスマホ防止機能」がついたサイクリング専用アプリで、昨年の目標であったダウンロード数1万回は約半年で達成し、今年3月にはダウンロード数2万回も突破した。

今後も、多くの方にダウンロードしてもらい、滋賀県でサイクリングを楽しんでもらえるよう、アプリの利便性向上を図っていくなど、さらなるビワイチの展開を目指しているそうだ。

 

 

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