インバウンド事例

海外に学び、投資呼び込みを見据え企業連携を加速。佐渡DMOが目指す持続可能な観光の姿(後編)

2020.10.26

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佐渡の地域DMOとして佐渡のマーケティングやマネジメントを担う一般社団法人佐渡観光交流機構(佐渡DMO)は、コロナ禍で急速に世の中が変化するなか、島民、観光客双方にとって安心・安全な佐渡を実現すべく佐渡クリーン認証制度を導入したり、観光客向けファンクラブにCRMを導入、観光客の行動を可視化しマーケティングへの活用に着手し始めた。後編では、観光CRMを通じた、顧客とのより一層密な関係を構築するための施策や、持続可能な観光の実現に向けた企業との連携などについて紹介する。

前編:サステナブルかつレスポンシブルな観光地を目指す佐渡DMOのブランディング戦略と外貨獲得を目指したCRM施策とは

 

島民と島外の人をつなぐECサイト「佐渡版メルカリ」で継続的な関係構築を目指す

観光客向を対象としたファンクラブであるさどまる倶楽部の会員制度をアプリへ移行し、だっちゃコインと紐づけCRMを導入したのは、消費動向の把握やマーケティングへの活用以外の狙いもある。だっちゃコインが使えるECサイトの立ち上げも見据えている。「佐渡版メルカリ構想」清永氏はそう表現する。佐渡の農作物や地域産品も購入できるようにし、島内での消費に加え、島外の人による島内の産品購入にも使えるようにするというものだ。

佐渡との接点を増やし、佐渡に来てもらうだけでなく、自宅にいながら佐渡を感じられるようにすれば、リピーター獲得や関係人口の拡大にもつながる。特に高品質の佐渡産の農作物や海産物は、お中元やお歳暮などのギフトにも最適だ。

「ギフトは自分の一番親しい人、大切な人に贈るもの。そのシーンで佐渡産品を選んでもらえるというのは、佐渡の推奨意欲の高さの現れでもあるし、強力な口コミになる」佐渡では、佐渡に来てもらっての満足度CS(Customer Satisfaction)よりも、推奨度NPS(Net Promoter Score)を重視している。

 

地域の事業者が潤うだけでなく、将来的にはDMOの財源確保にも

DMOが抱える課題の一つに、自主財源をどう確保するかということが挙げられる。佐渡DMOが運営を担う「さどまる倶楽部」の仕組みは、佐渡市の管轄となっており、DMOが委託を受けて成り立っている。また、だっちゃコインは、島内の事業者に広く導入してもらおうと、135ある加盟店の手数料はゼロで運営している。一方、年内オープンを見据えて取り組む佐渡版メルカリECサイトを通じた財源の確保を目指す。例えば、ECサイトを通じて購入された産品を、島外に発送する際の送料に手数料を上乗せして徴収し、それを財源にする考えもあるという。また「島」という特性を活かして、観光客が島外に出るときにも「出島税」を課すことができれば、佐渡DMOの自主財源として確保できる可能性もある。地域を応援してくれるファンを集める「さどまる倶楽部」に地域通貨「だっちゃコイン」を組み込み、かつCRMを導入したことで、観光客の行動可視化に繋がり、現状把握やマーケティングへの展開、ファンの囲い込みや財源確保など、様々な展開が可能となっている。

これらの佐渡DMOの施策は、佐渡金銀山の世界遺産登録も見据え、3年後の2023年を一つのマイルストーンに定め取り組んでいる。世界遺産登録が決まれば国内だけでなく全世界から注目を集め、再びオーバーツーリズムを招きかねない。過去の二の舞にならないよう今のうちから準備を進め、来ていただきたいお客様、佐渡の本質的な魅力が分かる人に訪れてもらう体制づくりをしたいという想いからだ。

 

観光を「投資」対象として捉え、企業との連携を加速

前編で触れたように、佐渡では島外民向けファンクラブ「さどまる倶楽部」を足掛かりに、地域通貨のだっちゃコインや、佐渡産品を売るECサイト連携など地域経済活性化への取組を加速させているが、これ以外でも、佐渡DMOでは観光を「投資」と捉え企業との連携にも力を入れている。清永氏は「この動きは、世界の観光業の潮流」と指摘する。

企業との連携という側面で、佐渡ではMICEにおけるM(Meeting:会議)とI(Incentive:インセンティブ旅行)を重視しており、昨年からは「佐渡で研修をしませんか」と企業にアプローチをしてきたという。世の中を取り巻く環境が大きく変化し、企業との連携が当初の想定とは異なっているが、コロナ禍で注目を集めるワーケーションを、企業との連携に繋げている。

清永氏は続けて「ワーケーションというと、旅行ついでに仕事するというイメージが先行しているが、企業側がワーケーション導入を考える根底はそこではない。例えば鬱などメンタルヘルスに問題を抱える社員をどうケアして再生するかという側面が強い」という。そのような点に立つと、企業側も佐渡との連携が多くのメリットをもたらす。

「佐渡は、かつて海運交通の要所で流刑人や移住者が多かったという歴史的背景もあり、島民は基本オープンマインド。どんな人でも受け入れる懐の深さがある」佐渡の魅力についてそう語る。そのため多様な人との交流にも慣れており、ダイバーシティの意識も高い。佐渡でのワーケーションを通じて島の人の温かさに触れ、精神的な癒しを得ることで、佐渡がコンセプトとして掲げる「Re Born:生まれ変わる」にも繋がっていく。これも、他の地域と差別化できる佐渡ならではの魅力だ。

なお、企業との連携や誘致に取り組む背景には、別の理由もある。過疎化、高齢化が急速に進む佐渡は、このままだと地元の全産業が回らなくなることは目に見えている。そのため、観光にとどまらない広い意味での「関係人口の増加」を見据える。佐渡DMOでは10年後に関係人口100万人を目指しているという。清永氏も「ワーケーションや企業研修にとどまらず、島外の企業とパートナーシップを結び投資を加速させ、関係人口の創出に取り組みたい」と強調する。

 

「安心・安全」は世界共通、インバウンド客にも訴求

なお、佐渡ではインバウンド市場についてはどう捉えているのか。台湾、香港、東南アジアのニューリッチ層、ヨーロッパの方で日本の文化に興味のある層などをターゲットとして捉える。

コロナ禍で「安心・安全」な地域であることは全世界共通して重要視されるようになったことも追い風だ。「離島という立地を最大限に生かし、日本の中でも佐渡こそが、もっとも純粋できれいな地域であることを国内外に伝え続ければ、インバウンド客の注目も集められる」と期待を寄せる。

なお、歴史を見ると、佐渡金山で採掘した金は「長野」「新潟~群馬」「福島会津」の3つの陸路で江戸まで運ばれた。東京と関西を結ぶゴールデンルートとはまた別の金のルート:ゴールデンルート上にある各地域と連携すれば、インバウンド客にも訴求できると話す。

なお、先述の佐渡のファンクラブ「さどまる倶楽部」と地域通貨「だっちゃコイン」は、現在日本語版のみだが、既に英語版と台湾版の準備が進んでいるという。入国規制や外国人観光客の動きを見ながら、しかるべきタイミングでリリースし、ファンやリピーターの取り込みにも繋げていく。

 

世界の観光のトレンドは「サステナブルツーリズム」

佐渡の観光戦略は、ブランディング戦略をニュージーランド、観光施策はスイスをロールモデルとして、佐渡にあった形にカスタマイズして取り入れていると清永氏は話す。「世界のトレンドを見ていても、観光は物見遊山の要素が強いSightseeingからTourismへ、さらに言うと暮らすように旅する意味が込められたJourneyへと変化している。そうなるとより一層、古くから地域に根差した文化や慣習、そこに住む人々の暮らしぶりを体験することが重要視されるだろう。今後の観光のあり方はサステナブルツーリズム(持続可能な観光)へと集約されるのではないか」という。

佐渡でも、それらを取り入れ「Pure Japan」「Re Born」「Live Together」をブランドコンセプトとして掲げている。これは、佐渡が、観光客と地域の事業者双方にとって「安心・安全」な環境であること、そして、日本の縮図ともいえる豊かな自然の中でたとえ1日でも「佐渡での暮らすような生活」を体験し、島人の温かさに触れ癒され、佐渡で「生まれ変わる」ことができるのが、佐渡の最大の魅力、ということだ。「これが、多品種少量の資源を持つ佐渡が生きる道」清永氏は改めて強調する。

 

佐渡が実現したいサステナブルツーリズムの世界観

そして、この3つのコンセプトが体現する佐渡の世界観を実現するための施策が、ここまでで述べてきた、1.宿泊や飲食、小売、交通、体験サービスなど業種を跨いで横断的に、安心・安全を担保する佐渡クリーン認証制度であり、2.観光客の消費行動を可視化し、佐渡での観光施策を進めるにあたってのマーケティング活動のよりどころになり、ファンの囲い込みやリピーター化にもつながる「さどまる倶楽部」「だっちゃコイン」などの観光CRMである。なお、観光CRMは、観光客の行動をつぶさに追えるので、マネジメントにも活用でき、それが安心・安全な環境の維持にも繋がる。

さらに言うと、観光業を「投資すべき分野」と捉え、企業連携を通じて、企業研修やインセンティブ旅行などで佐渡誘致につなげる取り組みも加速させている。佐渡人の温かさに触れながら暮らすように滞在することで、癒しを得て生まれ変わってもらうことも、また佐渡が掲げるコンセプトに繋がっていく。

コロナの影響で優先順位が変わったものもあるが、佐渡で実現させようと以前から考えて取り組んでいたことは、その軸は何一つぶれていない。むしろコロナウイルスの影響で、施策の重要性が増し、当初の予定より早く実現したり、加速していると言える。また佐渡が掲げているブランドコンセプトそれぞれの意味合いもより一層、現状に即した意味のあるものになっていると言える。

 

プロフィール:

一般社団法人佐渡観光交流機構 専務理事 清永 治慶 氏

鹿児島県出身。慶応義塾大学商学部卒。サントリー勤務後、家業の生鮮スーパーおよび飲食店を経営。その後、長年業績不振に陥るスキー業界にて、10か所以上のスキー場施設に携わり経営を改善、黒字化。消費行動を分析することによって、民間や第三セクター企業のホスピタリティやサービス向上に尽力。2018年6月より観光庁登録観光地域づくり法人(DMO)の外部人材として(一社)佐渡観光交流機構の専務理事およびCMOを務める。

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