データインバウンド

訪日旅行の回復はいつ・どんな市場から。海外旅行再開のきっかけは? 感染症に対する意識との関係を調査 —JNTO

2021.01.08

刈部 けい子

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一時期は収束の様相を見せた新型コロナウイルス感染症だが、再び世界的に拡大しており、入国規制を厳しくしたり再びロックダウンや自粛を行う国や地域も出てきている。
先が見えないなかで、どのようにしてインバウンド市場回復に向けた準備をすればいいのか。

JNTOが定める重点21市場のうち、香港・台湾・イギリス・オーストラリアの4市場を対象に、新型コロナウイルス感染症の影響と需要回復期の旅行者ニーズについてオンラインのアンケートを実施した。調査は、過去3年間に観光を目的とした海外旅行に出かけた人を対象に、2020年9月に行った。各市場の感染症の状況や捉え方を比較しながら、どんな市場から需要回復がみられるのか、何が海外旅行や訪日旅行再開の契機となるのかを見ていく。

(図・表出典:日本政府観光局 訪日旅行市場における新型コロナ感染症の影響と需要回復局面の旅行者ニーズと志向に関する調査)

英豪は海外旅行に意欲的

まず注目したいのは、新型コロナウイルス感染症の終息が見えない現状で、次の海外旅行についてどのように考えているかだ。4市場のなかで台湾は、次の旅行を計画していない人が50%近くに達し、海外旅行に対して最も慎重な姿勢であることがわかった。台湾は調査期間中から現在まで新型コロナウイルス感染症の影響が最も少ない市場であるにもかかわらず、海外旅行に消極的なのは意外な結果といえる。一方、イギリスは、調査時期が夏のホリデーシーズンが終わり感染者が再度増加しつつある時期だったにもかかわらず、次の海外旅行は予約済みと検討中の人が86.7%もいた。さらに、未収束の香港と、収束しているオーストラリアを比べると、次の海外旅行を予約済みと検討中の人が70%台であまり変わらない。これらの点を見ると、海外旅行を再開したいという意欲の有無は自国の感染状況との関係性は低いことが分かる。

コロナ対応の優等生・台湾は旅行再開に消極的

続いて新型コロナウイルス感染症の危険性についてどう考えているか質問した。すると、台湾、香港は危険性が高いと答えた人が多く、オーストラリアとイギリスは危険性は低いと答えた人が多かった。調査を行った2020年9月時点で、感染症が収束している台湾で危険性という認識が91%と最も高く、新型コロナウイルスの危険性が高いと認識する市場のほうが、海外旅行の再開に対して慎重だということがわかる。また、台湾、香港よりも、イギリス、オーストラリアで危険性の認識が低いのは、たとえば欧米豪圏ではマスクの着用の習慣がなく当初からマスク着用に消極的だったといった文化的な違いや、各国政府の対応の差が影響している可能性もある。

台湾・香港は2021年中の訪日を希望

次に、訪日旅行についてだが、距離の近い台湾・香港では5割以上が2021年中を希望しているのに対して、イギリス・オーストラリアでは2022年以降と答えた人が5割以上いる。旅行需要の回復は国内→近距離海外→長距離海外の順という大方の予想と合致する結果といえるだろう。なお、訪日経験の有無で比較すると、すべての市場で訪日経験者のほうが、早期に訪日したいという意向になっている。

では、海外旅行再開の契機となるのはなんだろうか。香港、台湾、イギリスでは、「治療薬の発見」「ワクチン接種」「治療法の向上」がトップ3を占めるが、オーストラリアは「治療薬の発見」「ワクチン接種」に加え、「訪問国の安全宣言」を重要視しているのが興味深い。

口コミよりも政府の情報を信頼

また、旅行情報の入手先について、2017年度と比べると、大きな変化が出ているのが興味深い。2017年度は口コミや宿泊予約サイトなどが重視されたが、今回の調査では旅行先の政府ホームページや自国の政府ホームページを利用する意向がかなり高くなっているのだ。これは公的機関による情報への信頼性と客観的意見を重視していることの表れだろう。

なお、ウィズコロナの海外旅行で求められるコンテンツは、従来と大きな変化は見られず、歴史的な遺跡や建造物、都市文化・現代アート等の体験・鑑賞、食事文化/ガストロノミー体験、自然体験、伝統文化体験といったものが挙げられるが、自然体験のみが4市場で「増える」が「減る」を上回っており、人が密集するイメージのコンテンツは「増える」よりも「減る」割合が増えている。海外旅行においても当然ながら、三密回避は重視されるということだろう。

日本政府観光局(JNTO)「訪日旅行市場における新型コロナ感染症の影響と需要回復局面の旅行者ニーズと志向に関する調査」はこちら

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